軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終わりと、新しい一歩

いつまでも決まらなかった処遇は決まってしまえば、あっという間に物事は進んだ。

処遇の決定後、その日のうちに、国外追放されることになった全員に断種と罪人印の刻印が施され、翌日にはラフジア国へ送られた。

ラフジア国とは、今も昔も国交がないのだが、ベグリー伯爵がラフジア国までの転移魔法が使えたのだ。この国で使われている魔術と違い、特殊な魔術を使っての転移となるそうだ。色々とローレンスが説明してくれたが、ルエラにはさっぱりだった。

ただ、罪人印を体に刻んでいるため、一度この国を出てしまえば、二度と戻ってこられない。それでもグウィンとジェイニー、二人は希望に満ちていたそうだ。

グウィンたちの処罰が終わったことで、ジョセリンの立太子に向けて動き出した。

まずはジョセリンの成人の日に合わせた夜会、こちらはそのままの予定で王太子に選ばれたことの公示、一年後に立太子、そしてさらにその二年後に即位することが決まった。

国王は一番愛していた息子が手元からいなくなったことで、すっかり気落ちしてしまった。グウィンが絡まなければ、それなりに評価の高い国王であったが、こうして腑抜けてしまえば仕事がはかどらず。おかげで、あの日からずっと両親は城に詰めっぱなしになっている。

色々なことが突然動き出して、ルエラは一人置いてけぼりになってしまった。

まだ車椅子でしか移動できないルエラには夜会の参加などできないし、そもそも婚約は白紙、さらに婚約者だったグウィンは犯罪者として国外追放。被害者とはいえ、この国の貴族社会にルエラの居場所などどこにもない。

ため息ばかりついていれば、ユリシーズが今日の戦利品を持ってやってきた。今日は奇妙な木彫りの人形だ。

手のひらに乗せられて、まじまじと観察する。四つ足で、しっぽが長く、ピンと立った大きめの耳がある。犬か猫のような気がするが、黒とこげ茶で塗られたそれは、魔物にも見える。

「……これ、犬かしら?」

「馬だと言っていたような?」

馬と言われても、少しもそう見えない。曖昧に微笑めば、ユリシーズが前の席に座った。

「師匠と連絡が取れた。バングル、調整してくれるそうだ」

「本当?」

ようやく先の予定が入ってきて、ほんの少しだけ気持ちが楽になる。その思いが顔に出ていたのだろう、ユリシーズがわかりやすく表情を曇らせた。自分のことをよく見てくれていることに気持ちが緩んだ。

「あのね、聞いてくれるだけでいいのだけど」

そう前置きして、胸の中にモヤモヤしていたものを吐き出す。

貴族の娘としては役に立たないこと、領地の片隅で生きていくことになること。あまり重くならないように言葉を選びながら、それでも抑えきれない気持ちを話す。

言いたいことを言って、一息ついた時。

「まずは体を治してからだな」

「そうね」

「居場所がないとか、そういう気持ちはわからなくはない。俺も公爵家を飛び出しているからな。でも、焦っても、いいことはない」

そう断言されて、聞いてみる。

「すごく実感があるわ。ユリシーズさまは困ったことになったの?」

「若かったせいか、魔術では俺の上を行く人間はいないと思っていた。人身売買人を一網打尽にしてやろうと粋がって、逆に売られそうになった」

笑い話を突き抜けて、心配になるレベルの話だった。そもそも人身売買人なんて普通に生活していて遭遇する物なのだろうか。確かにユリシーズの容姿は今でも整っているので、十代の頃ならもっと可愛らしい感じなのかもしれない。

「そのおかげで師匠に拾ってもらえたが……。まあなんだ。ルエラ嬢には助けてくれる家族がいるのだから、まずは体調を整えてから考えればいい」

家族は忙しいけれども、過保護すぎるほどルエラを愛してくれている。

自分だけでまた結論を出しかけたことに気がついて、ルエラは肩を落とした。

「……まだ甘えていてもいいと思う?」

「まだまだ足りない。もっと頼ってほしい」

勢いよく割り込んだのは、ローレンスだった。仕事から帰ってきたばかりなのか、魔術師団の制服を着ている。

「お兄さま、どこから聞いていたの?」

「その不気味な木彫りが馬だと話していたあたりからだ」

「最初からじゃない……」

自分の想いを聞かれた恥ずかしさで、ルエラは両手で顔を隠した。そんなルエラの頭を大きな手が優しく撫でる。

「最近随分大人しいと思っていたんだよね。ルエラはすぐに色々と考えるから、余計なことでいっぱいになっているのかなと」

「あうう」

反論できない。

「ユリシーズも言っていたけど、まずは体を治すことを優先する。明日には出発するから」

「明日?」

「そう。楽しみだよね。ユリシーズの師匠ってどんな人だろう」

にこにこするローレンスに、ルエラは瞬いた。

「お兄さまも行くの?」

「保護者が必要だろう? まさかユリシーズと二人で行かせるわけがない」

「ハリエットがいるから大丈夫よ」

そういう問題じゃないんだと力説するだけして、準備をするからと足取り軽く扉に向かった。

「あ、そうだ」

部屋を出る直前に、ローレンスは振り返った。

「この間の宝石箱、結局返せなかった」

「仕方がないわ。慌ただしかったから。でも、気にしてくれて、ありがとう」

ルエラが頷くと、ローレンスは笑顔で今度こそサロンを後にした。

ユリシーズの師匠である魔女のマージェリーに会いに行けば、ユリシーズはしこたま怒られていた。ルエラの状況を知り、マージェリーは治療をしてくれることになった。

彼女の調合する薬は素晴らしくよく効いた。二年ほどでルエラは後遺症もなく、すっかり元の体調を取り戻すことができた。

そして、治療の間ずっと寄り添ってくれたユリシーズとゆっくりと思いを育んだ。

色々な葛藤があったが、彼に結婚を申し込まれて結婚をして。

後遺症がないとはいえ子供は諦めていた。それでも結婚して数年後には娘が生まれた。今は十歳になり、とても元気だ。

「お母さま、これ、貰ってもいい?」

そう言って娘が持ってきたのは、蓋が開かない宝石箱。

最後に見たのは、ローレンスから返された時だ。あれからもう十数年も経っている。

「まあ、どこから持ってきたの?」

「屋根裏部屋。宝物探しごっこをしていたら、出てきたの」

結婚してこの家に引っ越してきたときに、ガラクタと一緒に屋根裏部屋に仕舞われたのだろう。

「それでね、この箱の中にあるこれをわたしの工作に使いたいの!」

そう言って、娘が蓋を開けた。びっくりして目を見開けば、彼女は中の物を取り出した。何かの部品のような金属が娘の手の中に握られている。

開かなかった蓋が開いてたこともあって、漠然とした不安がこみ上げてきた。

「これは魔道具のパーツだから、遊びには使えないよ」

「お父さま!」

「代わりの物を上げよう。それで我慢してほしい」

そう言って、娘の持っている部品を取り上げる。

「えー! これがいい! わたしが見つけたのよ!」

「危ないから屋根裏部屋は入ってはいけないと言っておかなかったか?」

「あっ……!」

黙って入ってしまったことを指摘され、娘が慌てる。ユリシーズは話題を変えた。

「そういえば、ハリエットがチーズタルトが焼けたと言っていたぞ」

「約束していたの! わたし、行かなくちゃ」

すっかり魔道具のパーツから意識が逸れて、部屋から走って出ていった。

「ああ、危なかった。まさか見つけてくるとは」

「それ、箱の蓋が開いたみたいなの」

「そのようだな。適当にせずに、師匠に預けておけばよかった」

そうぼやきつつ、ユリシーズはルエラのこめかみにキスを落とした。

「どうして開いたか知っているの?」

「知っているというよりも、こうなるんじゃないかなということなら」

歯切れの悪い言い方に、ルエラは話すように圧力をかけた。

「教えて」

「これは俺の推測でしかないんだが、ラフジア国を支えていた魔道具が壊れたから、封印が取れたんだと思う。それで、これはラフジアの魔道具の部品の一部ではないかと」

「魔道具の一部?」

「そう。あの王子の母親が国から逃げる時に、魔道具の部品を抜いた。いずれは壊れてしまうように」

それが本当ならば、グウィンの母はあの国を消滅させたかったということだ。ルエラの知らない恐ろしいことがあるのではないかと怖くなった。

「まあ、それも俺の想像だけだ。現実問題、砂漠化を止めることはできなかったのだから。ラフジアに行った人たちも適当に他国に移住しているだろう」

「そうね」

頷いたものの、彼らが無事でなくても特に何も感じなかった。いい思い出にすらなっていない過去は、ルエラの中で他人事のような事実だった。

それでも。

あのまま何事もなく結婚していたらどうなっただろうと思うことはある。

少なくとも、婚約する前の彼はルエラにとって大切な幼馴染だった。

物思いにふけっていると、ちりりとベルの音がした。

「ルエラ、お茶の準備ができたとハリエットが呼んでいる」

「そうね、行きましょうか」

過去を振り払うように首を振ると、ユリシーズの手を取って部屋を出た。

Fin.