軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

横に立ちたかった①

冒険者ネーム・コメット、こと本名・稲葉美沙。

彼女は、イージス端末を握ったまま、一人暮らしの自分の部屋を小さく行ったり来たりしていた。

画面には、同じ新人冒険者、アマギに送ったメッセージが残っている。

既読。

それでも、返事が来ないまま一晩が経っている。

だが、完全に無視されているわけじゃない。

相互の約束が、まだ残っている。

だから、いずれは返ってくる。

(……また、や。返信遅いし、誘うても話が全然続かへん)

ただし、それは決まって遅れて、当たり障りのない返事になっている。

前みたいに、ちゃんと話してくれなくなった。

そのことに、コメットは焦っていた。

冒険者ネーム・アマギ。

初めて主催した、肉ダンジョン臨時野良パーティに参加してくれた人。

コメットは、最初はアマギが怖かった。

背が高く、バールとトンファーを武器に戦う男。

前を歩く姿は頼もしく、同じ新人冒険者だとは思えないほど強かった。

だが大学生の二人に向ける、きつい声を聞くたび、

やっぱり怖い人だと思った。

なのに、自分には、言葉が柔らかかった。

怖い相手が、自分にだけは気を使ってくれる。

それが、嬉しかった。

だから、ズルい甘えが出た。

コメットは、その臨時野良でやらかした。

他の参加者たちの態度は、目に見えて変わった。

大学生の二人には責任を押しつけられ、

ダンジョン省からも呼び出された。

もう一人の参加者、アマギと同い年のカナタは、

露骨に目すら合わせようとしない。

そんな中でも、アマギだけは見捨てなかった。

酒の席を設け、じっくり話を聞いてくれた。

それ以来、アマギを意識していることを、

コメットは、もう認めていた。

☆★

最初にサークル臨時に行った日のことは、今でも覚えている。

女一人で行く勇気がなくて、アマギを必死で誘った。

二度断られて、三度目でようやくOKをもらった。

ダンジョンの中で、アマギはいつも通りだった。

魔物が出れば、迷いなく前に出る。

コメットは、その後ろを必死に追いかけた。

だが、ついていけない。

追いついた時には、戦いは終わっている。

他の参加者が手を出す前に、

アマギは確実に魔物を仕留めていた。

(……速い。なんか前より強うなってへんか?

まるで、ついていけへん)

「コメットさん、無理しないで。

自分のペースでやりましょう。

サークル臨時は、先が長いですよ」

凹むコメット。

気遣うように声を掛けられるほど、胸が痛んだ。

(一緒に来たのに。

横にいたいのに)

そんなコメットに、声をかけてきたグループがいた。

そのサークル臨時の常連だという男たち。

「彼氏、冷たいねえ。全部倒しちゃってさ」

「そうそう、少しくらい後ろに回してくれりゃいいのに」

「さっきから見てたけどさ、彼女、全然攻撃出来てないじゃん」

前を歩くアマギの背中を見ながら、言う。

コメットは、その視線が冷たいものだと気づかない。

拾ったのは、「彼氏」という言葉だけだった。

「ちゃうちゃう。

アマギはんは、まだ彼氏やないし」

「そうなの?

でもさ、一緒に来てるんでしょ?

なのに一人でどんどん行っちゃうじゃん。

ついて行くの、大変じゃない?」

……それは、その通りだった。

コメットの心を、鋭くえぐる。

「……ウチな、

アマギはんについて行けるようになりたいんよ」

正直な気持ちが、口から零れた。

言ってから、自分の言葉に少しだけ戸惑う。

ついて行きたいのは、もう戦いのことだけじゃない。

背中を追いかけているのに、置いて行かれている。

その距離そのものが、怖くなっていた。

アマギは前へ進む。

躊躇わずに戦う。

自分は前に出れないまま。

後ろで、息を切らしている。

でも、振り返ってくれない。

こっちを見てほしい、なのに。

それを、誰にも言えなかった。

言えば、弱い女みたいで、情けなくなるから。

常連だと名乗った男は、アマギの背中を見ながら言った。

「じゃあさ、

横から攻撃入れられるような状況にすればいいんだよ。

前は彼に任せてさ」

それは、どこか引っかかる言い方だった。

だが、背中を追い続けるより、ずっと簡単な気がした。

それなら。

それなら、一緒に戦える。

コメットは、その言葉を信じた。

アマギは先に行く。

だからこそ、自分は役に立ちたかった。

ならば、色々教えてくれるという彼らを信じて、

今日は話を聞こうと考えた。

道中。

休憩時間。

そして精算が終わり、

みんなで飲みに行くという彼らに、ついて行った。

少し不安だったが、

心配するようなことはなかった。

彼らは細やかに、立ち回りを教えてくれた。

アマギに前で敵を受け持たせて、

その隙に攻撃する方法を。

それは、押し付けて、横殴りをするという最悪手。

だがコメットは、それをアマギと共に戦う手段だと信じた。