軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9  事務官シャノンは愛でられる①

かくして、シャノンはランバート辺境伯家北方騎士団付事務官になった。

新人事務官となったシャノンは、最初の一ヶ月はディエゴにくっついて移動し、彼から辺境伯領での暮らし方を教えてもらったり仕事の引き継ぎをしてもらったりした。

といっても、仕事の面では最初こそ覚えることや日々やることが多いが、内容としてはさほど難しくはなさそうだった。

定期的に王都から送られてくる手紙に目を通して、シャノンの方で確認ができるものには返信して、場合によってはその内容をディエゴや辺境伯付書記官に報告できるようにする。

騎士団棟の毎日の記録をつけるのも、仕事の一つだった。辺境伯家と北部地元民は友好関係を築いているが、その関係がいつどのような形で変わるかは分からない。そのため、日々の出来事などをまめに記録しておく必要があった。

騎士団の経費の使い方や記録も、シャノンの仕事だ。

騎士団に割り振られた経費をどのように使うかを決めて物品を購入して記録をつけ、備品一つ一つに識別番号を割り振って管理する。ディエゴは計算が苦手だったようで、この仕事をシャノンにパスできるのを一番喜んでいた。

辺境伯家全体の財産を取り仕切る執事や公文書を扱う書記官と違い、シャノンは騎士団周りのことに集中すればいい。何かあってもベテランの執事たちに相談すればいいから、職場環境は非常にいいと思われる。

そうしてディエゴのおまけとして一ヶ月下働きをした後、非常に晴れ晴れとした表情のディエゴから「今日から君が、正式な事務官だ!」というお墨付きをもらった。

これを機に、シャノンは事務官用の服も与えられた。

これまでは試用期間だったので下働きの女性が着るのと同じワンピース――ただし、サイズはかなり詰めてもらった――だったが、事務官として正式採用ということで女性騎士の騎士団服をアレンジしたような形の制服をもらえた。

北方騎士団は、真冬の豪雪の中でも目立つようにということで制服の色は深紅と決まっている。鎧やコートも赤を基調とした色に染められており、辺境伯領での赤は領土を守る誇り高い騎士たちの色として敬愛されている。

シャノンは騎士団付事務官であり騎士ではないので、赤は纏えない。だがそれは仲間はずれにするようでかわいそうだ、と主張したのは女性騎士たちだった。

そして、シャノンは戦場に出るわけではないのだから真っ赤にする必要はないだろう、とのことで色合いをかなりマイルドにしたコーラルピンクがシャノンの制服の色になった。

若干甘すぎる色合いだが、嫌いではない。ジャケットとロングスカートはコーラルピンクで、下に着ているブラウスは白、タイツやブーツを茶色系統にすることで、バランスの取れた色合いになる。

(こういう色も、昔は着られなかったわね……)

コーラルピンクは淡い色だから、膨張色になる。ただでさえでかくてごついシャノンを二割増しででかくするような色だから、と遠慮していた色も、ここでなら躊躇うことなく纏うことができる。

そうして制服も与えられ、ディエゴのもとからも卒業したシャノンは晴れて事務官として、北方騎士団で働くことになったのだが。

「オイヴァさん! 買ったものの報告はきちんとしてください!」

「お? おお、すまない、忘れていた!」

「ティモさん、トピアスさん! 脱いだ服はそのへんに散らかさないでください!」

「えー? あー、悪い悪い!」

「後で片付けるから、ちょっと待ってよ~」

「だめです! 今すぐ、です!」

脱ぎ捨てられた服が散乱する休憩室でシャノンがシャーッと怒ると、上半身裸でレスリングをしていた騎士二人は「ごめんってば」「シャノンちゃん、怒ると怖いなぁ」とぼそぼそ言いながら自分たちが脱いだ服を片付け始めた。

片付けのできない騎士たちを叱った後、シャノンはオイヴァが忘れていた物資の購入報告について書くために一旦仕事部屋に戻って、書いたものをファイルに綴じる。

そしてそろそろ見回りに出ていた騎士たちが戻ってくる頃なので、休憩室の暖炉の薪を追加しようと薪置き場に向かうと、そこで作業していた男性たちに声をかけられた。

「おう、こんにちは事務官さん!」

「何か必要なものでも?」

「こんにちは、皆様。もうすぐ見回りの騎士たちが戻ってくるのですが休憩室の暖炉の火が小さくなってきているので、新しい薪をもらおうかと」

シャノンがそう言うと、肌寒い中でも腕まくりをして荷物運びをしていた男性たちがええっと声を上げた。

「そりゃもちろん持っていけばいいけれど……事務官さん、一人で持っていくのか?」

「まあ、何往復かすればいいかと」

「だめだだめだ! そんなきれいな服を着ていて薪なんて運んでいられるか!」

「それに、薪のささくれた部分で手を傷つけるだろう!」

「……手袋をしますので」

「だめだ! ……おい、おまえたち! 事務官さんのために一肌脱ぐぞ!」

リーダー格らしい男性が声をかけると、その場にいた者たちは「おう!」と声を上げた。そしてシャノンでは一度に一束抱えるので精一杯だろう太さの薪をひょいひょいと抱え、騎士団棟の休憩室に向かって走っていった。

シャノンが辺境伯城に来て、一ヶ月以上。

事務官として働くようになって、十日ほど。

(私、ものすごく甘やかされている……?)

初日からなんとなく思っていたが、想像以上に自分は甘やかされているのだと気づいた。