軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春が呼ぶ再会③

エルドレッドに誘われて、シャノンは中庭のベンチに向かった。

先ほどまで周りにいた使用人などは皆気を遣ってくれたのか距離を取ってくれていたし、ディエゴはもう姿も見えなかった。

エルドレッドの隣に腰を下ろして、水差しの水をコップに注いで彼に渡す。

「どうぞ」

「ありがとう。……おや、もしかして髪につけているのは、私がこの前贈ったものか?」

エルドレッドの左腕がシャノンの右耳付近に伸び、そこに飾られていたビジューコームに触れる。

稀少なブルーダイヤモンドをあしらった髪飾りは華やかではあるものの、仕事の際に身に付けても場違いではない落ち着いた品格を持っていた。

最初、エルドレッドは大粒のブルーダイヤモンドが嵌まったものを贈ろうとしたようだが、「普段から使えるものの方が嬉しい」とシャノンが言ったので、小粒でかつ装飾が派手でないデザインのものに変更してくれた。

当然安価なものになるが、高価すぎて宝石箱に入れたまま使う機会がないままよりも、エルドレッドが贈ってくれたものを普段からなるべく身に付けたい。シャノンがそう言うと、エルドレッドはいたく感心してくれた。

なお、王都に行く際に身に付けるような格式高い豪華なアクセサリーももちろん、大量に贈ってもらっている。

それはそれ、これはこれ、で分けて使いたいというのがシャノンの気持ちである。

「はい。とてもきれいでかわいいし、そこまで重くないので気に入っています」

「それならよかった。……あなたは、青が似合うな」

「あなたの色ですものね。似合っているのなら嬉しいです」

シャノンがふふっと笑うと、エルドレッドも嬉しそうに微笑んだ。

エルドレッドの贈り物は、青色が圧倒的に多い。ラウハたちは「独占欲の現れ~」「自分の色で染めたいってヤツ~」「重~い重い~」とにやにや笑うが、シャノンとしても青は好きな色だ。

淡い青などは、王都にいる頃は「体が大きく見える色だから」ということで、身に付けさせてもらえなかった。

だがこのランバート辺境伯領では、シャノンが身に付けるものに文句を言う人はいない。だからシャノンの大好きな人の目の色である青も、積極的に纏っていた。

……ちなみに、今日の下着は「勝負」のやつではないが、上下セットの青色である。エルドレッドに教えると駄犬化するのは目に見えているので、言うつもりはないが。

二人並んでベンチに腰掛けていると、どこからともなくよい香りが漂ってきた。

辺境伯とその婚約者のために、料理人が栄養たっぷりの朝食を作ってくれている匂いだろうが――

……ぐぎゅーるるる、とシャノンのお腹が空腹を訴えた。

(ああーっ! エルドレッド様の前なのにー!)

とっさにお腹を押さえるが、時既に遅し。隣のエルドレッドは目を丸くして、シャノンの手元を凝視している。

昔から、シャノンの腹の虫の音は豪快だった。きゅう、とか、くるる、とかだとかわいげがあるのに、自分の音は低くて爆音でしかも長い。

これから結婚する間柄ではあるものの、エルドレッドの前ではこの音を聞かれたくないと思っていたのに。

「……あ、あの、エルドレッド様……」

「……今のは、シャノンの腹の音か? なんて……かわいいんだ……」

エルドレッドの耳が、おかしくなってしまったようだ。

じろっとエルドレッドを見るが、彼はにこにこ笑顔でシャノンのお腹を見つめている。

「知らなかった。シャノンは腹の虫の音までかわいいんだな」

「やめてください……音が大きいし長いしで、自分でも大嫌いなんです……」

「そうなのか? 私にとっては、一日に何回聞いても飽きないくらいかわいい音だったのだが」

「ええっ……」

「毎朝、今の音を聞いて目覚めるときっと素敵な一日を迎えられるだろう」

エルドレッドの耳には、シャノンが立てる音全てが小鳥のさえずりに変換されるフィルターでも張られているのだろうか。重症、重症だ。

だが、そう言うエルドレッドの目は真剣そのものだ。シャノンを励まそうと思って無理をしているのではなくて、本気であの食用蛙の鳴き声のような音をかわいいと思っている目だ。

(……気を遣わせてしまったわけではないのなら……ちょっと、気が楽かも)

「……分かりました。でもはしたないのははしたないので、鳴らさないように気をつけますし……あんまりかわいいとか言わないでください」

「シャノンがそう言うのなら、分かった。心の中だけで思うことにする」

考えることを阻止することはできないので、もうこれでいいことにした。

エルドレッドは立ち上がり、シャノンに手を差し出した。

「では、そろそろ中に入ろうか。私は着替える必要があるので、先に食堂に行っていてくれ」

「分かりました」

「……ああ、そうだ。私も空腹時には腹が鳴るが、あなたの音とは比べものにならない爆音だ」

「嘘だ……」

「本当だ。怪しいなら……分かった。今日、この後で鳴らせてみよう」

「無理はしなくていいですよ」

シャノンは心からそう言った。

……だがこの後、着替えたエルドレッドと食堂で合流したとき、彼のお腹が鳴った。

それは本当に、シャノンの音が子猫の鳴き声に思われそうなほどの爆音で、本人は「今日は一段と元気がいいな!」と笑い、食堂にいた使用人たちも微笑んでいたので、シャノンもつい噴き出してしまったのだった。