軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32 『ご褒美』の行方③

シャノンの予想では、ユキオオカミ調査作戦が成功したエルドレッドはシャノンに『ご褒美』……つまりは「あなたがほしい」というやつを求めてくるはずだった。

だから、悩みつつも新品の下着を用意したりしたのだが。

(エルドレッド様の中ではもう、『ご褒美』が完了したことになっている……?)

シャノンが鬼気迫る様子で聞いたからか、エルドレッドは「えっ」と困ったような声を上げてから、指折り数え始めた。

「それはもちろん、シャノンに告白してオーケーをもらえたこと、口づけをしたこと、それから結婚の約束をしたこと……まずい、三つももらってしまった。多すぎただろうか?」

「……」

「シャノン?」

エルドレッドに顔をのぞき込まれたが、シャノンは呆然としていた。

(まさか……私の予想は、はずれていたの!?)

姉と妹から聞いた情報をもとに「あなたがほしい」という推測を叩き出し、その準備をばっちり整えていたというのに。

エルドレッドがシャノンに求めた『ご褒美』はもっとピュアで、マイルドなものだったなんて。

「そんな……せっかく着たのに……」

「着た?」

「……あ、いえ、何でもありません。『ご褒美』は……そうですね。エルドレッド様が頑張ったのだから、三つでちょうどいいと思います」

「ん、そうか? それならよかった」

何やら腑に落ちない様子のエルドレッドだが、これ以上彼が近くにいると羞恥で死にそうなのでシャノンは彼を促して立たせ、ぐいぐいと背中を押した。

「それじゃあ! ええと……私、もうちょっとここで温まっています!」

「あ、ああ、そうだな。ゆっくりしてくれ。では」

エルドレッドはそう言って、シャノンの頬に軽いキスを落としてから出て行った。

(……はぁ。なんとかごまかせたかしら)

ドアをしっかり閉めたシャノンはふーっと大きな息を吐き出して服の襟元を引っ張り、そこから見える「勝負下着」をちらっと見た。

(これが活躍するのは、また後日ね。……お姉様やオリアーナの言葉を、信じるんじゃなかったわ!)

そうして遠く離れた地にいる姉と妹に八つ当たりをしていたシャノンだが、いきなりドアがばんっと開いたため飛び上がってしまった。

「シャノン!」

「わあっ!?」

振り返った先にいたのは、エルドレッド。先ほど別れたばかりの彼だが顔は真っ赤で、やけにいい笑顔をしている。

「さっき、あなたは『せっかく着たのに』と言ったな!? それはもしかして……き、期待していたのではないか?」

エルドレッドの熱のこもった問いに、まずい、とシャノンの背中をたらりと冷や汗が伝う。

どうやら彼は先ほどのシャノンの失言をしっかり聞いており、自分の頭の中で「正解」を叩き出してしまったようだ。

鼻息の荒いエルドレッドが部屋の中に戻ってきそうだったので、シャノンは悲鳴を上げて彼をドアの外に押し戻した。

「何でもないです! な、ん、で、も、な、い、で、す!」

「そんなはずはないだろう! ……すまない、シャノン。私がふがいないばかりに!」

「そんなことないです! いいからもう、忘れてください!」

「忘れられるものか! シャノン、そ、その、あなたは今、とてもすごいものを服の下に着ているのでは……」

「違います! その、今日はもうだめです、なしです!」

違わなくはなくむしろ大正解なのだが、今はもうそういう流れではない。

それでもエルドレッドは諦めきれないようで、部屋から押し出されながらも悲痛な訴えを続けている。

「頼む、シャノン! 見せてくれないのなら……せめて、色だけでも……!」

「エルドレッド様の駄犬ー!」

シャノンは叫んで、残念な美丈夫となってしまった恋人を部屋から叩き出したのだった。

その後、騒ぎを聞きつけて飛んできた医師によってエルドレッドはこっぴどく叱られ、話を聞いたディエゴには「若気の至りにも限度があります」と呆れられたそうだ。

シャノンはそれを聞いてさすがにかわいそうだと思ったので、その日の夜エルドレッド付書記官に小さな封筒を渡した。

その封筒の中には紙切れ一枚だけ入っており、そこには「青」と書いていた。

家名なしのシャノンがランバート辺境伯家当主であるエルドレッドと婚約したという話は、翌日には城中に広まった。

その反応は八割が「おめでとう」「やっとか」「そうなると思っていた」という肯定的なもので、シャノンはたくさんの人から祝福された。

なお残りの二割も「よくもエルドレッド様を!」という類いではなくて、シャノンの熱心なファンたちがしくしく悲しんでいたものだったと、ラウハたちが教えてくれた。

それも、シャノンに恋をしているというよりは「みんなのアイドルが当主様だけのものになってしまった」というものらしい。シャノンには、もうよく分からない。

いずれ結婚をすると決めた上での恋人期間ではあるが、シャノンは結婚ぎりぎりまでは騎士団棟で働きたいと申し出た。

せっかくディエゴに採用してもらい、まだ半年も経っていないというのにもう引退するというのは方々に対して申し訳ないし、シャノンももっと事務官として働きたいと思っていた。

これに対してエルドレッドは即答で認めてくれたものの、住居だけはこれまでの騎士団棟から本城にある特別室にするようにと言ってきた。

結婚はまだなので当然寝室も別だが、シャノンをできるだけ自分のそばに置いておきたい、というエルドレッドの独占欲の現れだ。これくらいならかわいいものなので、シャノンも受け入れている。

こうして辺境伯城内ではとんとん拍子に話が進むが、シャノンの恋人は平民ではなくて王国北部を守る辺境伯領の領主。その体には王家の血も流れており、非常に遠いものの王位継承順位さえ持つ生粋の貴族だ。

そういうわけで、エルドレッドはシャノンとの婚約を国に報告する義務があった。それは書面で終わらせてもいいのだが、諸事情も鑑みた結果二人で王都に赴くことに決めた。

冬の間はユキオオカミと密猟者の事件の後始末や今後の対策を構築すること、それからエルドレッドがシャノンとイチャイチャ恋人期間を満喫したいというのでそれに付き合うのに消費し、春になって雪が解け、南へ続く道が開かれてから王都に向かうことになった。