軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 辺境伯との出会い②

「え、あ、あの……」

「おや、照れてらっしゃるのですか? 顔を真っ赤にして、なんとも愛らしい――」

「……あっ! 閣下!」

恥ずかしいやら何やらで言葉に詰まるシャノンと、そんなシャノンを見て笑みを深くするエルドレッド。

そんな二人の間に割って入った声の主は廊下から走ってきて、ぜえぜえと息をつきながら部屋に飛び込んできた。

「ディエゴさん!」

「ん? なんだ、ディエゴか。おまえの部屋にご令嬢が迷い込んでいた。きちんと鍵をかけておけよ」

振り返ったエルドレッドがつまらなそうに言うと、ドアに手をかけて息を整えていたディエゴが「ああ、もう!」と悲鳴を上げた。

「迷い込んだのではありません! 彼女は、新人事務官です!」

「……は?」

「彼女のことも話そうとしたのに、先に一人で行ってしまったでしょう! 私は逃げも隠れもしないのですから、もっと落ち着いてください!」

おそらく十歳ほど年上だろうディエゴに叱られているが、エルドレッドはまだきょとんとしている。

そしてその場から立ち上がった彼はディエゴからシャノンへと視線を動かし、「えっ?」と声を上げた。

「事務官? こちらの可憐な少女が?」

「はい。……シャノン、ご挨拶を」

「あっ、はい! ……お初にお目にかかります、エルドレッド・ランバート閣下。一ヶ月ほど前から騎士団棟にお世話になっており、現在はディエゴさんに替わり騎士団棟付事務官をしております、シャノンと申します」

ディエゴに促されたのでシャノンが膝を折ってお辞儀をすると、エルドレッドは目を瞬かせた。

「そ、そうなのか? こんなに若い女性がディエゴの後任になるなんて……ディエゴ、彼女に無理を言っているのではないか? ご両親のもとから無理矢理連れ出したとかではないな?」

「私を何だと思っているのですか。無理は申しておりませんし、念のために言っておきますとシャノンは閣下より二つほど年若いだけですよ」

ディエゴが助言すると、案の定エルドレッドもシャノンのことを若く見積もりすぎていたようで、「そうだったのか」と驚いた様子だった。

「てっきり、どこぞの貴族の年若いご令嬢が迷い込んでしまったのだと思っていた」

「……ああ、彼女は、その――」

「大丈夫です、ディエゴさん。……閣下、私は元ウィンバリー子爵家の娘でございます」

シャノンの過去に触れるからかディエゴが少し躊躇っていたので、シャノン自ら申し出ることにした。

この青年がエルドレッドなら、彼はシャノンの主君ということになる。となるとシャノンの経歴についていずれ分かることだろうし、むしろ自分の方から申告するべき話題だろう。

シャノンが言うと、エルドレッドは「ウィンバリー子爵家か……」と考え込むような様子になった。

「私はあいにく王都にあまり行かないので、あちらの貴族事情は分からない。だが確か、ウィンバリー子爵家には私と同じ年頃の三姉妹がいると聞いている」

「はい。その次女が私でしたが、ある事情により家を出ることになりまして。働き先を探していたところディエゴさんと出会い、北方騎士団付事務官として雇っていただけることになったのです」

シャノンが言うと、「そういえば」とエルドレッドはうなずいた。

「ディエゴは新人を探すために王都に行くと言っていたな。なるほど、それでシャノン嬢と出会ったと」

「……もう私は令嬢でも何もないただの平民ですので、どうか私のことはシャノンとお呼びください」

「分かった、シャノン」

エルドレッドは律儀に呼び方を改め、そして微笑んだ。

「では、遅くなったが……シャノン。ランバート辺境伯領に、ようこそ。ここは王都ほどものが充実していなくて冬は雪まみれでものすごく寒いが、その分人は温かい」

「ありがとうございます、閣下。私も……こちらに来て一ヶ月少しですが、たくさんの方に優しくしていただいています。本当にもったいないくらいです」

「それならよかった。……ディエゴに事務官の仕事を任せるのも申し訳なくなっていた頃だ。あなたの働きぶりに、期待している」

朗らかな声でそう言われて、シャノンの心が喜びにはねた。

(閣下はお若いけれど、偉そうにしたり私を見下したりしない、とても優しい方なのね……)

冬の寒さが厳しく物資も潤沢にあるとは言えない辺境伯領を治めるのだから、苦労も多いだろう。

だがエルドレッドは明るくて人当たりがよく、領民思いの領主なのだということがこの短いやりとりでも十分伝わってきた。

(閣下にも受け入れてもらえたのだから、しっかり頑張らないと……!)

辺境伯家当主を前に気持ちを新たにするシャノンを、エルドレッドはじっと見下ろしていたのだった。