軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6話 リツの生配信気になっちゃうの?♡

無名の人間が大バズりし、一夜にして有名人――ネット上ではそんな奇跡が時折起こる。

その注目を喜ぶ人間と戸惑う人間がいるが、律は完全に後者。

いや、戸惑いを超えて怯えていると言っても良い。

「おおおおお俺の動画がこんなにたくさんの人に見られて……」

「そんなに怖がらなくていいプイ」

震える律の肩に手を置き、プイプイが優しくなだめる。

「律さんが〈黒き森〉に一泡吹かせたことをみんな喜んでくれてるプイ」

「わ、分かってるけど……俺は平成世代の人間だからネットで顔が割れる=死だと思ってる節があって……」

「おおう……さすがはアラサー……でも今は令和だプイ。アップデートするプイ!」

「そうか。そうだよね」

と、律は深呼吸して心を落ち着けようとする。

しかしまたすぐに律の心をざわつかせる投稿を見つけてしまった。

律が怪人・ハタナカをボコった配信がバズったのを受けて〈黒き森〉幹部のひとり、怪人・キョウゴクが動画を出したのだ。

『ハタナカの野郎は確かに雑魚だ!』

「ひえっ……」

動画の中の怪人・キョウゴクの姿に律は震え上がった。

キョウゴクの外見は、一言で言えば"いかにもな輩"。

剃り上げられた頭から顔にかけて入れ墨がビッチリと彫られ、高級ブランドのロゴがプリントされたタイトなTシャツから伸びる腕はまるで巨木のように太い。

キャバクラやクラブなどの夜の店で撮影しているのだろう。真っ赤なソファにふんぞり返り、両脇に派手な女性を侍らせながら動画の中でこう吠えた。

『あんな情けない姿さらしやがって、今度見かけたら俺がぶっ殺してやる。でもなぁ――あんな雑魚一匹倒したくらいで調子にのんな。〈黒き森〉舐めてたらぶっ殺すぞガキ!』

そしてキョウゴクは鬼のような顔でカメラを睨み、低い声で念を押すように一言。

『いいか? 警告だからな』

もしもついさっきトイレに行っていなかったら、律はおしっこを漏らしていたに違いない。

こんな状況で動画配信なんて目立つことをやったらなにをされるか分からない。

律はシャカシャカと手足を動かし、地を這う虫のような素早さで万年床の布団に潜り込んだ。

「配信なんてムリムリ! 怖い人に目を付けられちゃったし、そうじゃなくても大勢の前で喋るとか苦手なんだ俺は!」

「そうプイかぁ……残念だけど、律さんがそう言うなら仕方ないプイ。でも――」

プイプイはしょんぼりとしながら、ボソリと呟く。

「配信で稼いだお金は経費を除いて全部魔法少女に還元するシステムになってるプイ」

「……えっ?」

律はペラペラのせんべい布団からにゅっと顔を出す。

それをプイプイは横目で確認し、またもや独り言のように呟く。

「人気のある魔法少女は1回の配信で今までの律さんの年収以上の額を稼ぐプイ。律さんはすごく注目されてるから多分とっても儲かるプイけど……でも本人が乗り気じゃないなら仕方がないプイね」

「……………………」

***

次の日。

オンボロワンルームの真ん中で、律はフリフリワンピースを纏った魔法少女姿でスマホのカメラに微笑みかけていた。

「ざこのお兄さんお姉さんこんにちは♡ 魔法少女リツだよ♡」

配信への諸々の恐怖と金を天秤にかけた結果、金の方が重かった。

そういうことだ。

(リスナーを雑魚呼ばわりだなんて我ながら失礼な……でも生活のためにとにかく1円でも多く稼がないと!)

そして律は配信画面の数字をチラリと目で追う。

プイプイの目論見通り、配信にはたくさんのリスナーが集まった。

生配信をリアルタイムで視聴している人の数――いわゆる同接は開始早々1万人を超えている。

(いっ、1万人!? 1万人って……どれくらいだ? 1クラス40人だとして、ええと、250クラス? いや、ますますワケわかんなくなってきたぞ……あ、頭が真っ白になりそう)

という律の心の声とは裏腹に、魔法少女リツの口は淀みなく煽りを垂れ流す。

「同接1万人とか♡ 平日の昼間なのに♡ みんなお仕事してないの?♡」

(うわあああああっ! なに言ってんだ俺! そんなこと言ったら炎上しちゃうだろうが!)

律は心の中でそう叫ぶ。

なんの呪いなのか。律は魔法少女に変身すると、目の前の人間を煽らずにはいられなくなるようだった。

たとえそれがリスナーというような不特定多数の人間であっても、だ。

ならば魔法少女に変身せずに配信しては――とも律は考えたが、それはプイプイに制止されてしまった。

いわく、

「みんなに律さんのキャラクターも好きになってもらうんだプイ。無難な配信なんてしても仕方ないプイ! ぼくのことを信じるプイ!」

と、プイプイが強く主張するので渋々従ったのだが。

ここに来て律はそのことを強く後悔し始めた。

(プイプイは絶対大丈夫とか言ってたけど、そんなわけない! ああ、きっとコメントで酷いこと書かれて――)

と、律は流れて来るコメントを恐る恐る見る。

そして愕然とした。

『リツちゃん可愛い!!』

『うおおおおおおおおおおお!メスガキだああああああああああああ!!!』

『本当にメスガキだwww』

『配信待ってたぜ』

『ハタナカざあーこ♡動画から来ました』

『リツちゃん!!!ぼくも煽ってください!!!!』

(は……?)

律の予想に反し、配信に寄せられているのは好意的なコメントばかり。

律は混乱した。

(な、なんでこんなにコメントが温かいんだ? ええと……俺が可愛い女の子だから?)

律がそう考えたのも無理はない。

いまの律の姿は紛うことなき美少女。冴えないアラサー男性が言うと炎上するような事柄も、美少女が言えば喜ばれるのだろうか。

そんな卑屈な考えが律の頭をよぎるが――もちろん、魔法少女リツの人気は「可愛い」というだけではない。

『ハタナカぶっ飛ばしたの最高wwwwww』

『やりたい放題のクソき森に一泡吹かせたの爽快すぎました!』

『このままクソき森壊滅してやれ!!!』

『クソき森もっと煽っちゃえ♡』

『あれで初戦とか将来有望すぎwww』

(〈黒き森〉って……なんとなく名前は知ってたけどこんなに嫌われてたのか)

〈黒き森〉はここ数年で急激に勢力を伸ばした怪人集団である。

そのため、毎日毎日オフィスに缶詰めで余暇時間をほとんど持てなかった律は詳しくは知らなかったのだ。

怪人集団〈黒き森〉がどんなに危険な組織であるか。そして一般市民の〈黒き森〉への憎悪の大きさを。

なぜか大手メディアには報じられず、警察の捜査の手も及ばず、魔法少女ですら簡単には手を出せなかった――そんな無法者たちに一発食らわせた。

その衝撃が人々を熱狂させたのである。

『おい、メスガキ魔法少女の配信始まったぞ!』

『マジでメスガキで草』

『怪人を倒した魔法少女でしょ?』

『どんな娘なんだろ』

『乗り遅れるな このビッグウェーブに』

トイッターなどほかの媒体でも律の配信が始まったことは話題になり、話題が話題を呼んでどんどん同接は増えていく。

そして。

「あ……配信だァ……?」

それが〈黒き森〉にも届いていることに、律はまだ気づいていない。