作品タイトル不明
祝福あれ*7
「他のダンジョンに魔力が少ない……?」
「うん。逆に言うと、パニス村ダンジョンは、魔力が異様に多い!」
考えた末、俺はこう結論を出した。
……他所が変なんじゃない。やっぱり俺のとこが異常なんだよこれェ!
「……心当たりはあるんだよ。俺がダンジョンに来た時、ちょっと事故で……多分、魔力の素になるブツを、悉く分解吸収されたから……」
今思えば、実に分かりやすいことだった。
俺がこの世界に来た時に失ったもの……えーと、パンツはさておくとして、ノートPCとスマホと、スマートウォッチ。これら3つとも、インターネットに接続できるやつで……膨大なデータをその内に秘めたものだった。
つまり、情報の塊。
……ダンジョンにとっての、『魔力の塊』だったのである。
それこそ、それらを分解吸収しちまえば、ダンジョンに湧くスライムが他所の凶暴スライムみたいなのじゃなく、今のうちに居る例のもっちりぽやぽやスライムになっちゃうくらいの、そういう量の魔力が得られるくらいの……そういうやつだったんだよなあ。
で、当然ながら、そんな魔力の塊、この世界には他に無いんだと思う。
……そうなんだよなあ。俺の居た世界って、この世界と比べたら大分、情報の多い世界だった。
道を歩けばすぐ情報が、わわわわわわ、っと出てくるような、そんな世界だったわけだから……ダンジョンの最奥、天井の割れ目のあの謎の光って、多分、俺が居た世界から漏れてくる情報が魔力になって降り注いでるってことなんだろうなあ……。そりゃ、魔力の多いダンジョンになるわけだぜ。
……そう考えていくと、『そもそもダンジョンって何よ』ってところも気になってくるんだけど……えーと、それはまたの機会に、ってことにしよう。じゃないとそろそろ頭が爆発する……爆発する……。
「とりあえず俺は、ダンジョンに魔力が増えたらスライムが凶暴化しなくなる説を提唱したい。そして、この王都にも魔力が増えたら、やっぱりスライムが畑として使えるんじゃねえの説を提唱したい!」
一旦話を戻そう。ダンジョンじゃなくて、まずはスライム!スライムだ!
「つまり、王都ダンジョンの魔力を増やしたら!ここでも普通のスライムが普通にスライムやって、普通に畑になってくれるんじゃねえかなあ!」
「パニス村のスライムみたいなのが増えたら嬉しいけどなー……どうなんだろ」
「うーん……中々に難しい気はするが……」
……まあ、ダンジョンをどうこうするっていうのは、最終手段だな、とは思ってるよ。色々と整備しなきゃいけないモンが多すぎるし。
結局のところ、この説は『なんかいけそうだけどコストがかかりすぎるから却下』ってことになるんだよな。
……そう。コストがかかりすぎるんだよ。
まずスライムに対する民衆の意識改革から始めなきゃいけない。それには時間も労力も滅茶苦茶かかるだろうし、王権がどっち行くかよく分かんないこの情勢でやるのは結構危うい。特に、祝福、つまりは宗教からの脱却!みたいなのを目指してる途中でいきなりぶっこむものじゃないだろ。
更に、ダンジョンを整備して畑にするとなったら、そこのダンジョンがどういう風に思うか分からないからね。そっちとの折衝も必要になるし……そもそもそれが可能なのかも危うい。
そして何より、そもそものダンジョンを調査するとなったら、下手すると人命までもがコストになりかねない。それは流石に、ちょっとね。
だから、ダンジョンに何か働きかけるのは、最終手段だな。うん。
……だが、本当にどうしようもなくなったら、ダンジョンをどうこうする日が来るかもしれない。
その時の為にも、『他のダンジョンは案外、魔力不足なのかもしれない!』っていうことはしっかり覚えておこう。相手の弱みは交渉材料だからな!
「まあダンジョンとスライムはさておき……『祝福』の検証を先に進めた方が良さそうだよね」
「そうだな。まあ、『祝福』からの脱却を目指すのであれば、どのみち避けては通れない道だと思うぞ」
よし。やっぱり結論はここに戻ってくるわけだ。
……ラペレシアナ様と聖女サティに相談だなあ。
だが……スライムの形態変化から、ちょっとだけ、推測できることが増えたからな。
実験は無駄じゃなかったと思うよ。
ということで、それからまたラペレシアナ様にお越しいただいて、『聖女サティをパニス村に連れて行ってもいいですか!?』というお伺いを立てた。
その結果、『暫し待て。掛け合ってみる』とのご返答を頂いたので、もう10日ばかり、王都で実験を続けてから動くことにした。まあ、元々20日間は実験するつもりでいたからな。予定通り予定通り。
早速、実験開始から20日時点での様子を観察してみると……。
「やっぱり祝福の重ね掛けは意味があるっぽいね」
畑A1とA2を比較してみると、違いは明らかだ。
10日経過時点で祝福をもう一回かけてもらった畑、A2の方が圧倒的に生育状況が良い。
「これはよい蕪」
「ラディッシュにしてはかなり大きいねえ……」
出来上がったラディッシュは、ラディッシュというか、蕪である。流石に『おおきなかぶ』ではないが、もうちょい頑張れば『聖護院大根です』と名乗っても許されるぐらいになりそう。
「BからDまでもやっぱり同じだね。A2とB2はあんまり差が無いところを見ると、一度でも種が祝福を受けているかどうか、ってのが結構大きな差になりそうだなあ」
「水だけ祝福した畑は劣る、ということか」
「そうみたいだね。でもやっぱり、水だけでも祝福されてた方が、祝福一切無しよりは遥かに良い、ってかんじかな」
水だけ祝福してもらった畑Cについては、畑自体に祝福が入っているAやBと比べて生育状況が劣る。やっぱり直接影響してるかどうか、ってのはデカいのかな。
「土壌については……やっぱり魔力量がものを言っている気がするなー」
「宝石を入れた土がいいかんじってことだね!」
そして土壌については、10日時点で出た結論とほぼ変わらず。土壌自体の魔力量がそのまま直結してる、ってかんじかな。
……と、色々見てみたところで。
「じゃあ、後は聖女サティをパニス村に連れて行って、諸々を分解吸収で確認してみるだけだな!」
「楽しみだねえ、アスマ様!」
俺達はその日、そわそわしていた。
やっぱりね、聖女サティがもじもじしながらスライムに埋もれて笑顔になっているところを見ると、こう、思うわけよ。『ああ、スライムと一緒に温泉に入って、美味しいごはんを食べて、そしてスライムと一緒に寝て、ゆっくり過ごしてください!』と!
あれだけスライムがお気に入りのようだからな。ぽよんぽよんのもよんもよんに埋もれて、楽しく過ごしてくれたらいいなあ、と……そう、思っていたんだが……。
いたん、だが……。
「……聖女サティを王都から動かすことについて、反対意見が多くてな。少なくとも、今日明日には奴らを説得できそうにないのだ。力及ばず、すまない」
……なんと!聖女サティを連れて行く許可は得られなかった!
なんてこった!
ラペレシアナ様は頭の痛そうな顔をしておられた。そりゃあそうだろうなあ……。
「聖女サティが王都に居ることが、大聖堂に対する一番の圧力となっているからな。この均衡が崩れるようなことは、万に一つでもあってはならぬ、と……まあ、そういうことだ」
「あー、パニス村に到着するまでの間に襲撃されるとか……」
「……そういうことだ。可能性はあるだろう、と言われてしまえば、反論できぬ。……それに加えて、『パニス村に連れて行かねば研究ができない』ということ自体がおかしなことだ、と言われてしまうとな……」
「あー……そりゃそうだ」
俺が『ダンジョンのちび神様』なのは、一応、秘密だからね。あんまり知られるとまずいだろうな、ってこともあるから、まあ、隠してる訳だ。
で、となると『何故、わざわざパニス村に戻らねばならないのだ……?』と思われても、反論ができないってことになる!
パニス村ダンジョンの環境でしか実験できないなら、他の地域にも適用できる結果が得られるかどうかすら怪しいってことになる。パニス村にしか無い研究機材とかがある訳でもないし、あるとしたらそれ、ダンジョンパワーのことで、ダンジョンの主が俺だってことまで明かさないといけなくなるし!
……まあ、こういう訳で、聖女サティを連れて行くのは難しそうだ。
ラペレシアナ様としては、非常に不服なんだろう。だが、彼女もここまでバリバリ動いてきちゃってる人だからね。あんまり色々急進しすぎるとあちこちに軋轢が生じちゃうんだろうし、まあ、無理してくれとは言えねえよ。既にかなり色々無理言ってるし。
……スーパークソデカスライムについては既に王城へ報告が行っちゃってるらしいんだが、それを『アレは無害だ!』と説明して回ってくれてるのもラペレシアナ様なんだよな。本当に頭が上がらねえ……おいそこのスーパークソデカスライム!頭が高いぞ!もうちょっと、こう、ぺしょん、ってしなさい!
「そういう訳だ。すまない。折角研究を進めてもらっているというのに……」
「いや、大丈夫ですよ。聖女サティ本人が居なくても、できることはありますから」
そういう訳で俺は、即座に色々考える。
えーと、あれとあれは検証したい。それからあっちを分析すればいいか。後は……うん。
「聖女サティに、もういくつか、『祝福』を掛けてもらう必要がありますね。とりあえず、土と水とスライムはやってもらうとして……他に、種と、あと、ラディッシュにも後から祝福を掛けたやつを作ってもらって……あ、リスト作りますね!」
……まあ、できる範囲で色々やろう。
そもそも、魔法を使っている瞬間の解析ってのはかなり難しかっただろうし……これでも色々、分かるはず。多分。多分ね。うん。
そうして俺達は、聖女サティにまた色々やってもらい、パニス村へ一度帰った。
……尚、あのスーパークソデカスライムはあのままである。王立第三騎士団が責任を持って管理してくださるそうだ。いや本当に頭が上がらねえ!ごめんなさい!あんなにアホみてえにでけえスライムを生み出してしまって本当にごめんなさい!
まあ、そんな反省の念を抱きつつ、帰りの馬車の中……。
「……馬車、大丈夫か?」
御者台、つまりチャリの上のリーザスさんが、気づかわし気に、ちら、と振り返る。が、俺もミシシアさんも、返事はできない。
……今!俺達は!馬車の中でスライムに埋もれているからねッ!
土だの種だの水だの持ち帰る都合上!スーパークソデカスライム分の空きができても!それでも往路以上に!復路が!ミッチミチ!
「すまない、大丈夫じゃなさそうだな……もう少ししたら交代しよう」
うん……リーザスさん、本当にごめんね……。いつもありがとうね……。
そうして俺達はパニス村へ帰ってきた。あいむほーむ。
「俺自身がスライムになるかと思った」
「私もスライムになるかと思った」
「……すまん。俺の図体がでかいばかりに、交代できないとは……」
……尚、馬車は一切の交代を挟まず進んだ。何故かって?ミシシアさんが抜けてリーザスさんが入ろうとすると、スライムが収まりきらなくなっちゃうからだよ!
ミシシアさんの方がリーザスさんより体が小さいからね。彼女ですらミッチミチだった馬車の中、リーザスさんが入ろうもんなら、スライムか土か種か俺かが零れ落ちる、っていう状態で……まあ、そうなるくらいなら俺とミシシアさんがミッチミチになっていようね、ということだったのさ。
「うん、まあ、次からは持って行くスライムの数は調整しよう。向こうでデカくなることも考えた数を持って行くということで……」
「今回は余裕を持った数、連れて行っちゃったもんねえ……。その結果、余裕がなくなるとは思わなかったなあ……」
……まあ、第1回農場試験から得られる反省は多かった、ということで。うん。次からはまた調整しましょうね。ほんとにね。うん……。
さて。
「早速分解吸収分解吸収分解吸収……」
俺は、持ち帰った土やら種やら水やらを、全部まとめて分解吸収した。ついでに、スライムをほんのちょっとだけ削り取らせてもらって、それも分解吸収した。スライムにはちょっと不機嫌そうな仕草をされた。申し訳ねえ、ということで、肥料をやったらご機嫌になった。単純である。
「さーて、『祝福』の正体はなーにかな、なーにかな、と……」
スライムのご機嫌取りも終わったところで、改めて分解吸収のデータを確認してみると……。
「おー、見えた見えた見え……なぁにこれぇ」
……ちょっと、不思議なものが分かったのである。
「どうだった?アスマ様、どうだった?ねえどうだった?」
「えーとね、魔力が動いてる」
「はぇ?」
……なんか、『祝福』を受けた種や土は……魔力が、やたらとよく動いている。
それこそ、魔法を使ってる最中みたいな、そんなかんじに。