軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

避けられない、酒*8

ということで、俺はブランデーの改良に乗り出した。

……本当だったら、寝かせたブランデーと寝かせていないブランデーの成分の比較をして見てみたいところなんだが、この世界にはまだ、『熟成ブランデー』が存在していない。俺達が完全なるパイオニアだ。ありがたくねえ。

つまり、比較ができないって訳だ。となると、分解吸収再構築のダンジョンパワーでブランデーを熟成に似た状態に持っていくのは難しい、とも思われるが……。

……それで諦めてちゃ、現代日本人、かつ高等教育課程を修了した者である俺の矜持ってもんが廃る訳ですよ。学士課程はね、まだ途中だからね、あんまり大きい顔できないけどね……。

なので、比較できない状態ではあるが……ブランデーの成分を分析する。

そして、『ここがこうだったらもっと飲みやすくて美味しいんじゃないの?』っていうのを、試行錯誤してみようと思う。

「お酒いっぱい飲めるの!?楽しみだなあ……アスマ様、よろしくね!」

……まあ、試飲係が絶対に酔い潰れないであろうことが、何よりの幸運だ!よし!いける!

では、いくぞー!でっでっでででで!かーん!

「まず、見た目からしてアレなのよなあ……」

さて。

最初に気になるのは、できたてブランデーの色合いである。

「透明だよね。きらきらして綺麗!」

「そーね。……ほんとは琥珀色になってほしいんだけどね」

「えっ、そうなの!?」

まあ、当たり前だけど、無色だ。マジで、無色だ。……できたてブランデーは、無色!

そりゃそうだよ。これ蒸留酒なんだもんよ。色がつくようなブツは蒸留過程で全部除去されちゃうんだよなあ。

……つまり、ここから先、樽の中に入れてブランデーが熟成されていく過程で、色がつくことになるんだよな。うん……うん。

「タンパク質が入ってるならメイラード反応とか起きてるのかな、って思うし、糖分が入ってるならカラメル化反応とかかな、って思うけど、これ蒸留酒なのよね……」

「また難しいこと言ってるねえ、アスマ様……」

うん。そうなのよ。難しいのよこれ。

……正直なところ、褐変する理由がマジで分からん。俺の知識が足りねえ!足りねえよぉ!折角ならTOEICの参考書じゃなくて、高校化学の教科書とか分解吸収できたらよかったんだけどな!あああああ!

「えーと、これを樽に入れている間に、樽の色が移る、ってこと、かな……?なら、楢とか樫とかの木とかがいいんじゃないかなあ。私だったら樅とか松とかにするけれど、多分、人間にはちょっと癖が強すぎるよね?」

「樽!?そっか!樽か!樽だわぁ!」

……が、やっぱりここは、森の民ミシシアさん!

そうか!そうだよな!酒が酒だけで、酸化とか蒸発による濃縮とか、そういうのだけで色がつくんじゃないんだ!

木製の樽に入れるから、ああいう色になるって考えた方が自然だよなあ!ありがとうミシシアさん!

ということで、ミシシアさんと一緒にパニス村の裏の山をちょっと見て回って、『この木がいいと思うよ』『こっちの木も面白そうだよ』なんてアドバイスを頂きつつ、いくらか木材を調達!ありがとう森の民!

そしてそれら採れたての木材は、『活用されている実際の木材』と比較を行って、いくらか、水分とか揮発しそうな成分とかを抜いておいた。こういうことができるから比較って楽なんだよなあ!

……で、それらの木材で、樽を作る。この作業は、実際にワイン造りで利用されている樽を分解吸収させてもらって、その構造で作る、ってかんじで行った。

でもって、その木材に含まれる水溶性の成分とか、揮発しそうな成分とかをだな、確認してだな……。

……それから、できたてブランデーの方も成分を分解吸収で確認してだな……。

「わぁー……案外ケトン類とかあるんだな……できたてのブランデーにはアセトンが含まれる……ここから催涙剤作れる……?いや、流石に効率的じゃないか……」

「アスマ様、大丈夫?ねえ、大丈夫?」

「多分、エタノールがアセトアルデヒドになってくんだろ?ってことは、酢酸も増えて然るべきだよな……?」

「アスマ様ー、おーい。アスマ様ー」

「なんちゃらフェノールとなんちゃら酸がくっつくんだろうな、ってのはなんか推測できるぞ……?あっ、酢酸エチル!お前いたのか!酪酸エチル!お前もか!ということはなんちゃら酸エチルが多い方が香りが強いんじゃないかな!?えっ!?じゃあこいつらが増える!?それとも他成分の揮発で濃縮されるだけ!?」

「あっ、駄目だ!エデレさん呼んでくるね!」

「おあああああ!やっぱり木材の方に糖類居るじゃねえか!お前らだお前ら!褐変の原因は多分お前らだよぉ!」

……ということで。

俺が夢中になって頑張っていたところ、ミシシアさんによってエデレさんが召喚されてしまった。

そして、タオルケットで包まれ、エデレさんの胸に抱かれ、ゆったりゆらゆら揺すられて、俺は寝かしつけられた。

いいところだったのにぃ!

……そうして、数日後。

「わぁあ……すっごく美味しい……!」

出来上がった『熟成させたっぽいブランデーもどき』をミシシアさんに試飲してもらったところ、ミシシアさんの目がきらきら輝いた。

「キツいところが減って、香りが豊かになって……まろやかになった!まろやかになったよ、アスマ様!」

「それは何より。リーザスさん、どう?」

「うん……これは、以前のものより飲みやすくなったな。間違いない。これならいける」

そしてリーザスさんのお墨付きも頂いたので、多分これでヨシ。お疲れ様でした!これが正解なのかは分からないが、とりあえず『度数高めで、しかしまろやかで芳醇な香りで美味しいお酒』が完成した!よかった!苦労した甲斐があった!

「まあ、アルコール度数は下がってるからね。今のコレは、ワインの2倍ぐらいの度数しか無いんだ」

まあ、実際、飲みやすいのは飲みやすいと思うよ。何せ度数、下がってるから。

いくら19歳だって言っても、『ワインはアルコール度数12%ぐらい、ブランデーとかウイスキーは40%ぐらい』みたいな知識はある。

で、熟成させたら当然、揮発しやすいエタノールからガンガン揮発していくんだろうから……って想定して、今、ここにある『熟成したブランデーっぽい何か』は、度数25%程度のよわよわブランデーである。

つまり、まあ……熟成させる前の状態で、もっと度数が高くないといけないんだよな。本来は。

「多分、熟成の前にね、2回か3回、蒸留するべきなんだと思う。で、度数70%ぐらいにしないと……」

「なんと……」

……今、ワイン状態からブランデー状態にするまでに、1回しか蒸留してないんだよね。でも多分……それを更に蒸留する、みたいなのが、必要、なんじゃないかな。本来は。本来はね……。

「それでも、ワインよりは強いお酒なんだよね?でも、そんなかんじしないよ。すごく飲みやすいと思う。これならもっと強いお酒でも大丈夫だと思うよ!」

ミシシアさん、はそう言ってくれるが、彼女、エタノールそのまま飲める人だからなあ。アテにならねえよ。

「まあ……そうだな。鼻につく香りが軽減されているからか、かなり飲みやすい。これならもう少々強くてもいけるだろう、とは思うが……」

えっ、リーザスさんもそう言うの?ならいける?ほんとにぃ?

「お待たせしました。エタノール増量版です」

ということで、再構築でエタノール分子を増やした奴を作ってみた。こっちはアルコール度数40%にしてある。普通のブランデーである。

「……うん、少しキツいが、まあ、十分に飲める、な……いや、俺が強い酒に慣れてしまったからかもしれないが……」

「あー、慣れってあるもんねえ。うん、おいしい!」

……リーザスさんの反応を見る限り、これでも十分にいけるっぽいな。まあ、慣れってもんがあるだろうが……。となると、教会関係者にお出しする奴は、最初はよわよわブランデーにしておいた方がいいかなあ。

「……で、ここからが魔改造だ」

さて。

ここまで大変苦労して参りましたが……それでもここまでは前哨戦だった。

そう。ここからが本当の魔改造。ファンタジーなパワーによって、最強のお酒を作るという、禁忌に手を出す時が来た!

「ここに……例の、ファンタジー力をぶち込む……!」

ジェネリック君のあれこれから発見された、『おいしい』魔力!あれをぶち込んだらどうなっちまうんだ!?おらワクワクしてきたぞ!

「これ、一般流通はやめとこう」

「ね。美味しくて飲みすぎちゃうよアスマ様ぁ……もう一杯頂戴!」

「ダメ!もうダメ!」

……結論から言うと、リーザスさんが潰れました。リーザスさんは床で寝てる。そして今、元気に生き残っているミシシアさんが『もう一杯!もう一杯!』とやっている。もう駄目です!あげません!

あげませんよアピールしたら、ミシシアさんは『じゃあこっち飲む!』と、昨日漬けておいたトマト漬けブランデーを飲み始めた。『おいしい!』だそうです。よかったね。

……まあ、かくして美味しくて飲みすぎるタイプの酒ができてしまった。これは一般に流通させてはならぬと俺の第六感と理性が告げているぜ。

「リーザスさん、割と真面目な人なのにコレだもんなあ。これは期待が持てる」

だが逆に言っちまえば、まあ……これだけの力がある、『やたらと美味しいブランデーもどき』なわけだからな。教会の人だってへべれけになってくれることだろうな!

「これを出したらきっと、教会の人達も酔っ払うね!」

「いや、これは出さない」

……が、俺にはちゃんと、考えがある訳だ。

「これの、『おいしさ魔力200%増量版』を出す……!」

仕留めると決めたら、確実に仕留める!それが俺のやり方だ!

ということで。

「ようこそ。お待ちしておりました」

……ついにその日がやってきた。

教会の人達のお出ましである。

「うむ……この村には邪教がはびこっているとか。しっかりと視察させていただきましょう」

「はい。あなた方が邪教と仰るものがどのようなものか、是非ご覧になってくださいな」

……真っ向から喧嘩を買うエデレさんに痺れつつ憧れつつ……俺はしっかり、裏で準備を進めていく。

俺が用意しているものは……例の、美味しすぎるブランデーもどきから色成分だけを抜いた、無色透明の『お清め用のお酒』である!

どうも、彼らの儀式で使うらしいから!いやー!こいつら合法的に飲酒してるんじゃん!禁酒できてねえじゃん!ならそことっかかりにしてバンバン飲ませちまうからね!ヒャッハー!