軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もてなせ!ダンジョンの村*3

リーザスさんがやってくると、騎士団がざわめいた。

そして……。

「リーザス・エクエス。久しいな」

ラペレシアナ様がそう言って、少し笑う。その前で、リーザスさんはすぐ、跪いてみせた。

「殿下におかれましては、益々ご健勝のことと……」

「ああ、よい。そのように畏まるな。共に戦場を駆けた仲だろうが」

が、ラペレシアナ様はひらひらと手を振って苦笑する。リーザスさんも、『そう言われるだろうなあ』とは思っていたのか、ちょっと気まずげな笑みを浮かべつつ、立ち上がった。

「……息災か。その、色々と、あったであろう?」

「ええ……まあ、はい。色々と」

2人は握手しながら、苦笑する。うん、まあ……『色々』の中身は、ラペレシアナ様も知ってるんだろうなあ……。

それから、リーザスさんが大分やさぐれ人間になって、冒険者崩れと一緒に犯罪紛いのことしてた、っていうのも、もしかしたら知ってるのかも。そこは知らなかったとしても、失意のどん底に居たリーザスさんのことは知ってるんだろうしな。

だからか、ラペレシアナ様はリーザスさんを見て、安心したような顔をしている。まあ、そうだよな。今にも死にそうなかんじだった人が、生活の状況が安定して、割と元気そうにしてるの見たら、嬉しいよな。

「今は平穏に暮らしています。アスマ様をお守りしながら、ダンジョンの見回りを生業としておりまして……」

が、リーザスさんがそんなことを言い出したので……その場の全員の視線が、俺に向く。

いや、まあ、いいけど。いいんだけどさ。リーザスさんが俺の保護者やってるっていうそれこそが、世を忍ぶ仮の姿なわけで、全然、いいんだけどさ……。

「アスマ、というのは……」

「あ、俺です。はじめまして!」

とりあえず笑って挨拶して誤魔化しておくことにする。流石にお姫様の前で注目されたくはないよ!

「……彼は少々、訳のある少年なのです」

「そうか。訳、というと……」

とりあえず踊って誤魔化しておくことにする。はーどっこいしょどっこいしょ。そーらんそーらん。やさえーえんやー、さーあのどっこいしょ。

「……聞かないでおこう」

「……そうしていただけると助かります」

あ、誤魔化せた?うん、どうもね。はい。すみませんね、ほんと。

そうして、ラペレシアナ様は代表して、ダンジョン前受付で受付処理を始めた。ダンジョン内の注意事項とか、解毒剤の販売とかはエデレさんがやってくれている。

で、その間、こちらはというと……。

「お前……くそ、心配かけやがって!騎士団を辞めたって、俺は後から聞いたんだぞ!?」

「そうだ!せめて一声くらい、かけてくれたってよかったじゃねえか!」

わっ、と盛り上がった騎士団によって、リーザスさんが囲まれてしまった。

……リーザスさん、ちょっと嬉しそうだな。うん。よかった。

なんか、騎士達の文句を聞いている限り、リーザスさん、辞職する時にもスルッと1人で辞めちゃったみたいだし、多分その時って、片腕と片目を失くしたばっかりで、その上、奥さんと同僚までひでえことになってて、帰ってきたってのに、失意のどん底に居たんだろうから……。

……そんな、失意どん底リーザスさんが、今、こうしてちょっと元気になってる様子をかつての同僚達に見せられたのは、俺としては嬉しいよ。うん。

そうしてしばらく、リーザスさんはもみくちゃにされていたわけだが……当然、気づく人が出てくるわけである。

「ところでお前……腕は、義手か?いい義手だな」

そう。腕。無くなってたはずなのに、今は何故か存在している、あの腕だよ!

「いや、これは……」

リーザスさんの目が、ちら、と俺を見た。『話してもいいのか?』という顔だ。

……えーと、世界樹の存在は、ちょっとまだ伏せておきたい。リーザスさんの元同僚の人達だから、まあ、多分、悪い人じゃないんだと思うんだけどさ。でも、未だに彼らの視察の目的が分かってないから、ちょっと保留しておきたいんだよな。

だが治っちまってるもんは治っちまってる訳だ。これは誤魔化しようがねえんだよなあー。

……なら、仕方がねえ。

「その腕、エルフのおねーさんがくれた薬で治したんだよ!」

ミシシアさん。ミシシアさん……ごめん!ちょっと隠れ蓑にさせて!ごめんミシシアさん!マジでごめん!

「エルフの薬……?」

「んー、なんか、材料を故郷から持ってきてた奴で作ったやつ」

騎士団の皆さんは、『エルフの薬かあ……』『なら、そういうこともあるか……』と、なんか納得してくれた。まあね、ミシシアさんの話を聞く限り、エルフの里ってのが、人間ウェルカムなかんじの里じゃないってことはなんか分かるしな……。

「そうか……。貴重な薬なんだろうしな。そう多くは存在しないか……」

……騎士団の皆さんが落胆している理由は、まあ、分かるよ。多分、彼らもかつてのリーザスさんみたいに、体のどっかが無かったり、不自由してたりするんだろうから。

「ああ……その、腕は難しくても、古傷の痛みは、この村の温泉で大分和らぐらしい。ここのダンジョンに来る冒険者達にはそう評判だ。是非、試してくれ」

「そうかぁ、それは楽しみだ!」

「いやあ、俺は腕が残ったが、膝の傷がまだ痛むんだ。それが和らぐってんならありがたいよ」

あー……その、なんか、いたたまれなくなってきたよ。俺、この人達全員分の薬、作っちゃ駄目かなあ……。

「それに……なあ、リーザス。そのエルフさんっていうのは、薬を作るのが上手いのか?なら、手足や目玉は駄目でも、その、傷痕に効く薬は……」

……と、考えていたら、騎士の1人がそう、言い出した。

「エルフさんに、取り次いでもらえないか?この村に滞在している間に、どうか、なんとか……」

「ん?それはどういう……」

騎士達がひそひそと声を潜めて、リーザスさんが首を傾げていると……。

「手続きが終わった。これよりダンジョンに入る」

受付を終えたラペレシアナ様が戻ってきていた。途端に騎士達は姿勢を正して、口を噤んだ。

「全員知っての通り、このダンジョンには温厚なスライムしか出ないという。だが、罠の類はいくらでもある。これ以上怪我を増やさぬよう、細心の注意を払って進むように」

ラペレシアナ様の言葉に全員が揃って返事をして、ついでにリーザスさんまでつられて返事をして、他の騎士達に『何だよお前、復職するか?』と小突かれていた。

……そんな騎士達とリーザスさんを見て、ラペレシアナ様はまた、少し笑っていた。

だが……ちょっと、寂しそうにも見えた。

さて。

そうして視察団御一行様を案内すべく、俺とリーザスさんが先導して、洞窟へ突入する。

先導とはいえ、騎士達は割と好き勝手に動き回るし、『へー、こういうかんじのダンジョンかあー』ってやってるんだけどね。

……だが、おかげですぐに分かった。

この人達、この間の聖騎士達とは全然違う。

「ん?そっちの壁、ちょっと妙だな……いや、床か。落とし穴なんじゃないか?」

「そっちは止めておくか」

好き勝手動き回ってる割に、彼らは罠には引っかからない。特に、落とし穴とかの大がかりな、分かりやすい奴はキッチリ見抜いてくる。

「ちょっと風の流れが妙だな。ってことは、矢が飛んでくる罠か何か、あるかもしれない。注意しろー」

矢のトラップは無いが、確かに換気用の通風孔を目立たないように作った個所があったら、それもなんとなく警戒される。

「おー、宝石だ!成程、これが冒険者達の稼ぎになる訳だな?」

「あの、おじさん。宝石、拾わないの?」

「ん?ああ。おじさん達はな、あくまでも視察に来ただけだからな。お給料は貰ってるし、なら、この宝石は必要な奴が拾った方がいいだろうさ」

……そして、金にがめつくない!

いいのに!持って帰ってくれていいのに!俺、この人達をおもてなししたくて、今日のダンジョンにはちょっと宝石多めに出してるのに!おもてなしさせろ!おもてなされろよ!ねえ!

「俺達は十分、恵まれてるからなぁ」

……こう、聖騎士達と色々違いすぎて、なんか、俺、滅茶苦茶面食らってるんだけど!なぁにこれぇ!全員いい人すぎるじゃない!

……だが、まあ、そんな彼らがダンジョンを観察している様子を見守りつつ、俺はリーザスさんにコソッ、と聞いてみた。

「ねえ、リーザスさん。この騎士団の人達、全員、どっか体の調子、悪い人達?」

……いや、流石に気になるからさ。うん。

騎士達は、目立つ人もそうでない人もいるけれど……全員、どこかしらか、悪いように見える。

流石にさ、こう、体に不具合ある人ばっかり集めた騎士団ってのは、どうなの?ってとこだよな。ついでに、そういう騎士団を、王女様が率いてる、ってのも、なんかこう、不自然、っていうかさあ……。

「ああ……そうだな。うーん……」

リーザスさんは少し考えて……それから、そっとため息を吐いた。

「……彼らは、戦で体を駄目にした奴らだ。俺も彼らと共に戦場に居たから、よく知ってる」

「全員?ってことは、この騎士団って……」

「まあ……恐らくは、お察しの通りさ。恐らく、この第三騎士団は、そういう……もう、実戦投入できないような騎士を集めて作られた騎士団なんだろう」

……うん。まあ、そっか。騎士をクビにはできないから、彼らが戦えなくなっても、名目上は雇っておかなきゃいけなくて、そんな彼らをとりあえず集めて放り込んだのが、この第三騎士団、と。うーん……。

退役軍人の次の職、と言うには過酷な気がするし、そもそも、だな……。

「えーと、王女様が居る騎士団なのに、大丈夫なの?」

気になるのはそこだよな。王女様が団長やってるんだったら、せめて1人2人は護衛兼ねて誰か、入れとくもんでもないの?ってのは、滅茶苦茶に気になる。

「んー……まあ、ラペレシアナ様は、大層お強いからな。彼女1人で、千の敵兵を倒せるとまで言われたお方だ」

千かぁー。……このファンタジー世界においては、それが比喩じゃない可能性があるのが怖いところだよな。うん。マジで千人やれちゃう人かもしれん。

「だが、気になるところではある、な……」

俺がこの世界のファンタジー力に思いを馳せている横で、リーザスさんは何か、難しい顔をしていた。

「……この時期に、こんな場所の視察だ。ラペレシアナ様に、何も無ければ、いいんだが」

……え?なんかあるの?ねえ、なんかあるの?