軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ここはそういうダンジョンなので*3

さて。

それから1週間以内に、パニス村のエデレさんのところに聖騎士達からお金が届いた。

俺のスライム出張サービス代金もそこに入っていたので、分配してもらった。……そういやこれ、俺がこの世界で初めて手に入れる貨幣だ!ワァオー!ちょっと興奮しちゃうね!

貨幣は、銀に刻印があるやつの、大きさ違いで2種類、合計4枚だ。それぞれ刻印が違うから、大きいのと小さいのとで価値が違うんだろうな。

料金を決めてくれたのはリーザスさんなんで、後で『これって幾ら分なの?』ってのはそっちに聞こう。

で、心配だった教会の対応なんだけど……今のところ、何も無し。

まあ、聖騎士達はちゃんと約束を守ってくれたらしい。よかったよかった。

教会の上層部としては、『もうちょっとなんか無いの!?』ってかんじかもしれないが、実働部隊である聖騎士達が『いや、あの村には何もないので……』って皆揃って言い始めちゃったら、動くに動けねえ、ってことか。そういう意味では今回、最高の結果だったな。

さて。で、聖騎士達が来て帰って行ったことによって、ちょっとばかりダンジョンに変化があった。

まず、村の様子。

「おう、アスマ様!今日も元気か!?ちゃんと飯食ってるか!?」

「食うぜ!俺は食うぜ!」

「あ、うん。ちゃんと食ってるよ。そっちもめっちゃ食ってるようで何より」

……村は、大分賑やかになった。えーと、今回のあれこれを経て、冒険者達の一部が、『ずっとここで稼ぐんだったらいっそ、この村に住んじゃった方がいいね!』と気づいちゃったからである。

おかげで、冒険者達が畑を耕したり、スライムを撫でたり、はたまた自分で採ってきた宝石を売る店を始めたりしながら村に定着した。

まあ、これについては実に嬉しいことだな。元々、男手の少なかったパニス村だし。冒険者達が居付いてくれれば、今後、また今回みたいなことがあった時に村を助けてもらえそうだし。

続いて、『ダンジョン前受付』の様子。

「あのー、すみません……ダンジョンの中で落とし物をしてしまったんですが……」

「はい。では特徴をこちらへご記入くださいね。お代金は1日につき小銀貨1枚ですよ」

……エデレさんが、冒険者の応対をしている。それは、ダンジョンで新しく始まったサービス……『アスマのスライム屋さん~ダンジョンの落とし物、捜索いたします~』である。

やっぱり、ダンジョンには時々、冒険者達の落し物がある。で、当然ながら、それらは俺が一発で分解吸収できちゃうし、再構築も余裕である。

となったら、まあ、落とし物発見率100%の落し物捜索サービスが可能って訳だ。まあ当然、100%の達成率にしちゃうとあまりにも怪しすぎるから、適当に成功率は落とすけどさ。

「ああ、そちらの方!昨日の落し物が届いてますよ。はい、どうぞ」

「わあー!ありがとうございます!よかったー!」

……まあ、こうして冒険者達の笑顔が見られるので、悪い仕事じゃないよな。一応、これで俺の『世を忍ぶ仮の姿』としてもいいかんじに機能してくれるし……。

で。

最後に、『ダンジョン内』の様子も変わった。

……というのも、二酸化炭素気絶コーナーを常設しておくことにしたのだ。じゃないと、聖騎士達の時だけなんか豪華だったことになっちまうからね……。

まあ、未だに『なんか急に眠くなってきて、気づいたら意識が消えてて、気づいたらクソデカスライムに救助されてもっちりもっちり運ばれてるところだった』っていう認識にしかならないらしいんだけどね。二酸化炭素トラップの仕組みが解明される日は来るんだろうか。来ねえかもしれねえ。

それから、宝玉樹。アレのライトアップは、滅茶苦茶に好評だった。

が……『輝く宝玉!』っつって、電球そのものを持っていこうとする奴が居たため、電球は天井付近にまとめて置くことになった。まあ、そりゃそうだよね……。

それでも、細く滝が落ちてきて、小さな地底湖が作られる空間で、ライトアップされて煌めく宝石の樹……っていうのはやっぱり浪漫がある訳で。冒険者以上に、俺が気に入ってるんだよなあ!

……という風に、色々な変化がダンジョンにあった訳だが。

「アスマ様!アスマ様!アスマ様!」

「どしたんミシシアさん」

そんなダンジョンで、恐らく最も大きな変化だったものは……ミシシアさんが興奮気味な理由に直結する。

「世界樹!大きくなってる!」

……そう。

ミシシアさんが植えた世界樹、元々デカかったけれど……あれから益々、デカくなったんだよな。

ということで、ちょっと久しぶりに来たダンジョン最深部。

相変わらず、天井の割れ目からは不思議な光が落ちてきていて、世界樹が明るく照らされている。

「嬉しいなあ。世界樹が大きくなった!」

ミシシアさんは嬉しそうに世界樹を見上げてにこにこしている。

「やっぱり、世界樹が大きくなると嬉しいもん?」

「そりゃあね。私の使命だし、片割れ、半身……うーん、世界樹は、私にとっての生きてる意味、みたいなものかも」

成程ね。その感覚がどんなもんか、量りかねる部分もあるけれど……ま、大事なもの、ってことだよな。分からんでもない。

「……私、エルフの里ではあんまり上手くやれなかったから。世界樹を植える場所も、見つからなかったし。そんな場所、永遠に見つからないかも、って、思ってたんだ」

ふと、ミシシアさんが零す。目は相変わらず世界樹に向いているけれど。

「でも、パニス村で受け入れてもらえて、こういう風に世界樹も無事に大きくなって……ここに世界樹の種を蒔いてよかったなあ、って、思うよ」

「……そっかぁ」

ミシシアさんは、視線を世界樹から俺に落として、にこ、と笑った。いつも通りの、元気な顔だ。

「だから、アスマ様、ありがとう!このダンジョンに、この村に、私と世界樹の居場所をくれて!」

「そんなに大したことはしてないんだけどなあ」

感謝されてもなあ、とは思う。ミシシアさんがここに世界樹を植えたのは、半分くらいは事故みたいなもんだったわけで……そこに若干の申し訳なさがあるくらいだ。

けれど、まあ、彼女が喜んでるなら、いいことだよな。うん。

「樹は土地に根付くものでしょ?エルフだって、そうだよ。いくら半分しかエルフじゃないっていったって、私だって、土地に根付くものでありたかったから」

「そっか。じゃあ今のミシシアさんは、根っこ生えたかんじかあ」

「うん!ここに根を下ろして、のびのびしてるところだよ!」

根無し草は寂しいもんなあ。まあ、ミシシアさんは根有り草としてここに居てくれるらしいので……今後もよろしく。

「……いつか、エルフの里にも伝えたいなあ。私は私が生きる場所を見つけたよ、って」

「手紙とか書く?」

「うん。それもいいかも」

ミシシアさんが嬉しそうなので、俺もなんとなく嬉しい。

世界樹も、ミシシアさんが嬉しそうだからか、なんとなくわさわさと枝葉が揺れて、嬉しそうに見えた。

「それにしても……やっぱり、このダンジョンが魔力に満ちてるから、かなあ。成長がすごく速いみたい」

さて。

そうしてミシシアさんが見上げる世界樹は、のびのびと成長して、ますますデカくなったわけだ。ついでに、枝葉もつやつやして元気そう。よかったね。

「魔力、ねえ……。あ、そういや聖騎士の鎧とか分解吸収した時、めっちゃ魔力が手に入ったなあ」

で、魔力、とやらについて、よくよく思い出すと……アレ、何だったんだろうな。聖騎士の鎧。アレがたまたま、そういう素材だった、ってことなのか……。

「あー、聖騎士の装備って、魔銀でできてるって聞いたことあるよ」

「魔銀?」

「うん。魔力が含まれた銀。軽くて強い、武具に向いてる金属だよね」

へー、そういうのあるのか。ファンタジック合金まで出てきちまうとなると、いよいよこの世界は俺には難しすぎるなあ。

「そっか……魔力が多い素材がダンジョンに落ちると、ダンジョンの魔力が増えて、ダンジョンが元気になるんだね?」

「そうかもしれないね」

俺自身、このダンジョンのことがよく分からない時も多いんだが……まあ、魔力があればダンジョン内が潤う、ってのは間違いないんだろうな。

「もっと聖騎士が来たら、もっと世界樹が大きくなるのかな……」

まあ、魔銀とやらが大量に手に入れば、ダンジョンは潤うだろうなあ。魔力が多くなってコレなんだろうし、クソデカスライムも魔力の影響、ありそうだし。

成程。魔力、ねえ……。

……いや、でも、よくよく思い出してみたら、よく分からないやつ、あったな。

ほら。このダンジョンに来て最初。参考書を分解した時、なんかやたらと魔力、手に入ったことあったよな。

そろそろアレを解明してみないとなあ、と思っていたところなので、折角だしもうちょい解明してみることにした。

ということで。

「エデレさーん、何か、消えてもいい本、無いー?」

「き、消えてもいい本!?どうしたの、一体!?」

ということで困った時のエデレさんをやったら、エデレさんをすげえ困惑させてしまった。そりゃそうだ。誰だってこうなる。俺だって多分こうなる。

「な、何に使うのかしら?押し花とか?」

「えーと、ダンジョンの実験をちょっとしたくて……」

どう説明したもんかなあ、と思って、結局そんなかんじの話になってしまう。まあこれもしょうがないよな……。未だに、ミシシアさんだって、リーザスさんだって、『アスマはなんかよく分からないがダンジョンで物を作ったり消したりできるらしい』くらいにしか思ってないと思うし。

「そう……ええと、消えてもいい本、よねえ……?」

すると、エデレさんはちょっと考えて、それから『ちょっと待っててね』とごそごそ棚をやり始めて……。

「はい、これなら消えても大丈夫よ。使わないものだから」

……なんか、本、くれた。そんなに厚くない本だけど、何だろうな、これ。

「この間の聖騎士さん達がお金と一緒に送ってくれた、教典よ」

うん。

えーと。

まあ、うん。

……うん。

「ありがとう!エデレさん!」

「いいえ。どうしようかしら、って思っていたところだったから、丁度よかったわ」

エデレさんはにこにこしながらそう言ってくれるんだが……いや、何も言わねえ!最早、何も言わねえよ!よし!この教典は確かに有効利用させてもらうからな!悪く思うなよ、パンイチ騎士団!あと教会の人達!

さて。

ということで早速、俺は貰ってきた教典を分解吸収した。

……すると。

「おっ……やっぱり魔力量が多い!」

面白いことに、やっぱり魔力量がなんか変なんだよな。

この本、紙に活版印刷っぽいかんじで刷ってあるものなんだけど……当然、紙とインクだけの魔力とは比べ物にならないような魔力量だ。

「うーん……?やっぱ、本は滅茶苦茶に魔力が多いんだよなあ……?」

不思議なもんだよなあ。なんだろ、印刷で滅茶苦茶手間がかかってる分、魔力が多いとかそういうかんじ?手の込んだものの方が高価で、高価なものほど魔力が多い、とか?宝石とかも、高価だから魔力が多い、みたいな……?

……うーん、わかんね。わかんねえが、まあ、これはもうちょっと知っておきたい。

魔力が手に入る条件がハッキリ分かったら……俺が、元の世界に帰るための手段が、もしかしたら、手に入るかもしれねえし。

見上げた先には、世界樹の枝葉。立派に伸びたそれらが……以前、階段を伸ばそうとして結局失敗したあの時とは違って、天井の割れ目へ、近づいていっている。

確かミシシアさんが言ってたよな。『世界樹は世界を繋ぐ樹とも言われている』って。

もしかしたら、それって、そういうことなんじゃないか、と、俺は思う訳だ。

魔力を大量に仕入れて、世界樹をもっと育てることができたら……俺は、あの割れ目を通って、元の世界へ戻れるんじゃないだろうか。