軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ここはそういうダンジョンなので*1

でかい。でかすぎる。なにこのクソデカスライム。

普通に普通の部屋ぐらいの大きさがあるわけで、それがもっちりむっちり泉に詰まってるもんだから、もう泉じゃないよこれ。スライム。単なるスライムになってる!

「わー、ぽよぽよだねえ……」

「どうしてこんなに大きくなったんだろうなあ……」

ほら見てよ、ミシシアさんとリーザスさんの、途方にくれた困惑顔!いや、ミシシアさんはスライムをつっついて楽しんでるけど!

いや、そうだよなあ。こんだけでかかったら、そりゃ触るよ。透明で、ぷにっとしてて、もっちりもっちり、なんとも気の長そうな様子で泉に詰まってるスライムなんて、そりゃ触るわ。

……ということで、俺も触る。

「……うわあ」

いい。これ、すごくいい。触る前から分かってたけど、これ、めっちゃいいな……。

あんまりにも触り心地がいいから、つい、よじ登ってみる。この小学生ボディにのみ許されるわんぱくを見よ。こういうことしちゃっても許されるんだぜ小学生ボディだから!

……いや、多分、俺が大学生ボディだったとしても、同じことやるけどさ。やらずにいらいでか、このクソデカスライム。

「わああ……」

だって、乗ってみて分かるこの寝心地の良さ!ひんやり、ぷにっと!全身をゆったりもっちり優しく受け止められるような、この包容力!このクソデカスライムは、実質、エデレさん!

「アスマ様ー、なんかどんどん沈んでるよー、大丈夫ー?」

……が、どんどん体が沈み込んでいくので、流石にちょっと降りる。降り……。

「降りらんない……」

「あーんもう、言わんこっちゃない……」

3mのもっちりもっちりにはな、よじ登ることはできても、残念ながら、そこから降りるとなると、めっちゃ勇気が要るんだよ。だって3mよ?無理でしょこんなん。

仕方がないのでミシシアさんとリーザスさんの救助を待つかぁ、と思っていたところ……スライムが、もよん、と大きく沈み込んだ。

えっ、と驚いている間に、俺の身体はすぽんとスライムの中。

「アスマ様ぁ!?」

食われた!?と思って、俺は一瞬慌てたものの……直後、もよん、と、スライムの横から吐き出された。

……うん。

なんだこのスライム。めっちゃ便利じゃん!便利じゃん!

ということで、一頻りスライムで遊んだ後で。

「そもそも、なんでこのスライムはこんなにデカくなっちゃったんだろうか」

蟻さんマークの引越センターじゃねえんだぞ、スライムは。真面目にやってたからってデカくはならないんだぞ、普通は。

「うーん……スライムも魔物だからなー。魔力がいっぱいになったら大きくもなる、のかもよ?」

まあ、そういうことなら納得はいくんだよな。何せこのスライム、魔力たっぷりの水の泉にもっちり詰まって、魔力たっぷりの水を好き放題飲みまくってたんだろうし。そりゃでかくもなりますわ。

「俺はてっきり、このスライムがダンジョンの門番になった、ということかと思ったんだが……」

が、リーザスさんの見解はまた別らしい。

「ボス?」

「ほら、大きいダンジョンって、階層ごとに強い魔物が居るじゃない?」

「なぁにそれぇ」

ミシシアさんもご存じのようで。成程ね、知らないのは俺だけか。おかしいなあ、俺が一番の当事者のはずなんだが。

「アスマ様はご存じなかったか。その……ダンジョンには、その階層を守る魔物が居ることが多い。特に、大きなダンジョンでは、そうだな」

「へー」

まあ、イメージは湧く。要は、フロアボスみたいなかんじだろ?生憎、この迷路と毒物だけで完結しちゃってるダンジョンには縁のない話だけど……。

「聖騎士達との戦いで、アスマ様のダンジョンも成長した、ってことじゃない?」

「そっかー、まあ、そういうこともあるのかもなあ」

俺自身としては、全く何の実感も無いんだけどな。でもまあ、敵を撃退して経験値を得た、とかはあり得るのかもしれない。その結果としてスライムがデカくなった、となると、色々とわかんなくはあるが。

「この巨大化したスライムも、ダンジョンの中に入れておけば、門番として働いてくれるのかもしれないぞ」

「いや、それでやっつけられちゃったらかわいそうじゃん……」

「……それもそうか」

うん。まあ、そういうことだよ。そういうことなんだよ。

このスライムがどういうつもりでデカくなっちゃったのかはさておき、ダンジョンの中で戦わせるのはちょっとなあ。だってスライムだし。デカくなっても、スライムだし。

さっきみたいに、俺を飲み込んで吐き出す、みたいなことはできるだろうけど、それでも、俊敏さとか攻撃力とかにはまるで期待できそうにないし……第一、剣で切られたり炎で焼かれたりしたら、かわいそうじゃん!デカい分、いい的になっちゃうだろ!

「じゃあ、このスライムは……えーと、村で飼う、ってかんじでいい?」

「うん。いい。そうしよう」

……まあ、スライム本人がどう考えてるのかはさておき、このクソデカスライムも村の一員として頑張ってもらおう。こんだけデカいからな。なんか、デカいもの植えたいよな。果樹とか。ベリーの茂みとか。あと、大きな蕪とか……。

と、まあ、そういう風にしてクソデカスライムとの邂逅を果たした俺は、改めてもう一度、ちゃんと泉を整備しておいてやることにした。

いや、だって、クソデカスライムが詰まるもんだから、他の、普通サイズスライム達が困ってるんだよ。ほら見ろ、もっちりもっちりと彷徨い歩いて……あー、うん、あんまり困ってないのかもしれない。駄目だ、分からん。スライム共の考えてることは分からん。というかこいつら、何かを考えてるんだろうか……。何も考えていない気がする。

「ま、スライムはさておき、聖騎士だ聖騎士」

スライムはさておき、聖騎士の方をどうにかしないとな。俺はそのために起きたようなもんだし。状況が状況だから、ほっとけないし。

「えーと、牢屋に入れてあるところまでは確認してあるよ」

「……何故か全員、下着姿だったんだが、あれはアスマ様が何かしたのか?」

「あ、うん。武装解除ついでに、全員パンイチで統一した」

よかった。ちゃんと武装解除はできていたらしい。あと、パンツはちゃんと残ってるっぽい。いやー、うっかりパンツまで分解吸収してないか、ちょっと心配だったんだよな。

早速、村の牢屋まで見物に行ってみた。すると、冒険者達が『おう!連中なら中でエデレさんと話してるぜ!』と眩しい笑顔を見せてくれた。どうやら彼らが自発的に見張りを買って出てくれているらしい。ありがてえ。

さて、じゃあどんなもんかな……と中に入ると。

「そういうわけで、町の教会と大聖堂、両方にお手紙を出すつもりよ。だから、あなた達がダンジョン攻略に失敗した、ということも知らせることになるわね」

「つまらない真似を……!」

エデレさんが、聖騎士達の前で堂々と話していた。聖騎士達は一生懸命に威厳とか出そうとしてるっぽいんだが、全員パンイチだから威厳も何も無い。

「あなた達の身柄については、彼らからの返答待ち、ということになるわね。それまではここに居て下さる?」

「ふざけるな!何故、我々がこのような扱いを受けねばならないのだ!」

「……流石に、無辜の民の村を焼こうとしておいて、それは無いんじゃないかしら」

聖騎士達、威厳が無い。繰り返すが、威厳が無い。既に、エデレさんの方が立場が上だ。

「そもそもあなた達、本当に聖騎士様?鎧もお召しになっておられないようだし……本物の聖騎士様方のお顔は、見ていないから本人かどうか、分からないのよねえ。もしかして、本物の聖騎士様方は皆、まだダンジョンを攻略してらっしゃるのかも……」

「な、何を言う!我々こそ、真の……」

「確か、教会関係者の身分を偽ることは重罪よねえ……?」

……ほら見ろ。エデレさんの脅しに、聖騎士共はようやく自分達の立場を理解し始めたらしい。

「……慈悲深い教会の方々が、『ダンジョン攻略に失敗した』あなた達の身分を保証してくださるといいけれど……ああ、そうなると、もしかしたらあなた達、『ダンジョン攻略に失敗した』ことはお手紙に書かないでおいた方が、いいのかしら?」

そう!今、奴らの生殺与奪は、教会からの返事と……エデレさんに握られているのだ!

……ということで。

「はい、確認したわ。『パニス村およびパニス村ダンジョンには一切の危険が無く、また、神の御意思に背くものでもないと判断された。従って調査任務を終了し、これより帰還する。』署名もちゃんと全員分あることだし……これなら問題ないでしょう」

パンイチの聖騎士達は、キッチリ全員の署名入りの報告書をエデレさんの目の前で書かされることになったのであった。

「分かっていると思うけれど、これはあなた達が自発的にお書きになったものよ?当然、そうよね?だって、聖騎士ともあろう方々が、『書かされる』ような状況に陥るはずがないものね?」

「あ、ああ……。勿論だ。今後もこの村とダンジョンには手出ししないと約束しよう。だからくれぐれも、このことは内密に……」

「勿論。私達も、不幸な目に遭う方は少ない方が嬉しいですもの」

そう。エデレさんの策略によって、聖騎士達はこう考えたらしい。

『教会に裏切られる前に、教会を裏切っておこう』と……。

……ということで、実に円満に終わるかに思われた終戦処理だったが。

「し、しかし、我々の剣と鎧は、どこに……?」

聖騎士達が、そう、声を上げ始めたのである。

「……困窮する村の為に、質に入れて下さったのよね。感謝いたしますわ」

「い、いや、そういう訳にはいかないぞ!我々が鎧も纏わず、剣も失って帰還したとなったら、間違いなく教会の調査が入ることだろう!」

「そう仰られても……ダンジョンの中で起きたことは、私達にはどうしようもありませんもの」

……成程。こいつらをパンイチにして返すのは、失策だったか。確かに、鎧って彼らのユニフォームな訳で、ユニフォームってのは、身分証明でもある訳で……。

いや、でもなあ。あの状況じゃ、武装解除しとかなきゃまずかったしなあ……。出荷後、冒険者の皆に任せることになってた訳だから、ダンジョンの外に放り出す段階では、出来る限り無力化しておきたかったんだよなあ……。

一応、返却しようと思えば、できるよ。再構築すれば、奴らの鎧と剣、ちゃんと戻せるし。

けど……返却手段が!手段が無いんだよなあ!

だって、いきなり鎧と剣が出てきたら問題があるだろ。おかしいだろ。どう考えてもおかしいだろ!

ぺいっ、てダンジョン入口から鎧とか剣とか出すか!?いや、それもそれで怖いよなあ……。

困った。聖騎士共の剣と鎧をどうやって返却するか、という、至極どうでもいい内容で悩む羽目になるとは思っていなかった。

これにはミシシアさんとリーザスさんも『あー』って顔だ!そりゃそうだよなあ!

何か無いかなあ……リーザスさんに、『ダンジョン奥で発見したぞ』って回収してきてもらう?いや、でもそれはそれで不審だし、リーザスさんがマークされたら困るしなあ。

なんか、こう、居ないかな。ダンジョンの中の装備品を回収して戻ってきてくれてもおかしくない、よく分からない生き物……。

……うん。よし。閃いた。

何かを回収してくる能力があり。

ダンジョンの中に入っていても、『まあそういうもんか』でスルーされそうで。

何より……『どこでこれを拾った!?』とか聞かれても、そういう質問に一切応じる義理の無い奴。

というか、問答が一切、できない奴!居たわ!

成程ね?あのクソデカスライムの出番はここってことね?オーケー、完全に理解した!