軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖なる刺客*1

「教会の……?」

「うん。えーと、白っぽい、ずるずるした服の。胸に教会の紋章のペンダントを下げてたから、そうだと思う」

あー、確かにそういう人、居た気がする。へー、そっか。教会の……。

「……教会、って、パニス村が不作で寄付金出せなかったからって祝福ケチった奴ら?」

「うん。そう。そうだよアスマ様!」

そっかー、成程ね。うん……。

こういうの、良くないかもしれねえけどさ、先入観って、やっぱあるよね。うん。

俺はパニス村の人達と先に出会ってしまっているので、正直、教会とやらには今のところ不信感しかねえ。なんてったって、パニス村の困窮の間接的な要因だからな、教会。

「で、なんで俺を教会の人から隠したの?」

「え?だってアスマ様、教会の人が信仰する神様じゃない神様だから……」

……あっ、成程ね?つまり、パニス村が邪教認定されかねないからってことね?いやー、これは割と困るやつだな。俺が邪神扱いされるのは嫌だし、それに巻き込まれてパニス村の人達が邪教徒扱いされるのも嫌だ。

「いや、でも、他の村の人達とかも、そんなに真剣に教会の信仰に身を置いてるわけじゃないんだよね?それが普通なんだよね?なら、パニス村の人達が罰せられるとか、そういうこと、無いよね?」

「うん。まあ、大丈夫だとは思うけれど……ごめんね、なんとなく心配で」

「いい。俺も心配だから!ありがとう!」

まあ……ちょっとミシシアさんが心配性だったかも、ってのはさておくとして、慎重になっておいて悪いことは無いだろうからな。よしよし。

俺が表立って崇められてるとか、そういう場面に遭遇しなけりゃ、教会の人とやらもパニス村を邪教徒認定はしてこねえだろ。多分。だってそれやってたらキリがなさそうなかんじだし……。

「でも、なんで教会の人が?」

「うーん、なんだろうねえ……。1人だけだったし、何か、町にでも行ったついでに寄ったのかな。治療の魔法のために町に呼ばれる、とかはよくあるみたいだし」

へー、治療のため、か。……うん。

「えーと、治療のため、っていうのは、どういう……?」

「あ、そっか、アスマ様はあんまり詳しくないよね。ええとね……教会の人達の中には、そういう魔法を使える人が居てね、寄付するとその分、魔法で怪我とか病気とか治してくれるんだよ」

また寄付かー。いや、まあ、サービスに対する正当な報酬ってことでやってるんならそれはいいんだけどさ、その、なんか微妙に胡散臭さを覚えるのは、宗教絡みだからか?

「だから、そういう人が1人町に呼ばれることってそれなりにある訳で、そのついでにここに寄ったのかもね、って思って」

「寄る意味あるぅ……?寄らなくてよくない……?」

「私もそう思うけど、彼らとしても寄付金は欲しいんだろうしなぁ。『癒しの魔法はご入用ではありませんか?』って、呼ばれてもない村や町を回ってることもあるよ、あの人達」

あー……飛び込み営業みたいなかんじに?そっか、大変だな、彼らも。

だがまあ、ちょっと色々気になるなあ。ただ飛び込み営業に来てくれたんならいいんだが、そうじゃなかった場合……なんか、まずいことになりそうな気がする。

教会の人はさておき、今日も村は賑やかだ。

食堂に向かう予定だったんだが、教会の人を避ける都合でちょっと遠回りして、そこらへんを歩いてみる。それだけで、ダンジョンから出た宝石をそのまま売ってる人の露店があったり、宝石を加工してアクセサリーとかにしたものを売ってる露店があったり。薬を売ってる人も居るし、実に賑やか。

パニス村にも人が増えて、今や、滅びかけだった頃の面影は無い。全く無い。

「皆、すっかり元気になったなあ」

ミシシアさんも何やら感慨深い様子だ。まあ、俺よりパニス村と付き合いが長いんだろうしなあ。

「エデレさんもね、喜んでるんだよ。村の皆の暮らしが楽になって、笑顔が増えた、って。……アスマ様のおかげだね」

「いやいや、俺じゃなくてスライムのおかげじゃないかなあ……」

俺としては、まあ、そんなに色々やってないからなあ。今も尚、パニス村の根幹たる食の部分を支えているのはスライムだし。……うん。本当にスライム達は働き者でな。今日も元気にもっちりもっちりしてたけど。

ダンジョンについても、スライムが育ててくれた薬草や毒草や毒消し草でお世話になってるしなあ。本当に、スライムには頭が上がりません。もっちりと頭を下げるしかねえ。

「うーん、アスマ様が思ってるより、アスマ様が村に与えた影響って大きいんだけどなあ……そりゃ、スライムはスライムでかわいいし、便利だけど」

「ミシシアさん、あんまり言わないで。俺、照れちゃうから」

「照れちゃうの!?かわいい!アスマ様、かーわいい!」

あああ、またミシシアさんにぎゅっとやられちまった!この人、俺のこと時々ぬいぐるみか抱き枕か何かだと思ってない!?ねえ!ちょっと!

「ああ、アスマ様、ここに居たのね」

そうしてミシシアさんにぎゅうぎゅうやられていた俺のところに、せかせかと歩いてきたエデレさんが声をかけてきた。

「エデレさん、どうしたの?」

「ええ、ちょっと……伝えておかなきゃいけないことがあって」

エデレさんの慌てた様子から、何か良くないことがあったんじゃないか、ということは分かったんだが……。

「教会からの使者が、ダンジョン前受付に来たの。それで……ダンジョンを視察する、って」

……教会の人、ダンジョンに入るの!?マジで!?

「ええええー……ダンジョンに?なんで?」

「分からないわ。私もてっきり、村長代理である私に寄付金の無心をしに来たんだと思ったんだけれど、どうも違うみたいで……あ、寄付金の話はそれとなく出たけれどね。やんわり逸らしちゃったわ」

「それでいいと思うよ、エデレさん!」

エデレさんが逞しい。だがそれでいいと思うぜ。金の切れ目が縁の切れ目だっていうんなら、向こうが切った縁をもう一回繋いでやる義理は無いと俺は思うよ。

「それでね、ダンジョンに入る前に毒消しの薬をお買い求めになったから、『在庫が今無いので取ってきますね』っていうことで、ちょっと待たせてるんだけれど……どうしましょ」

おお、ナイスだエデレさん。

教会の人は、まあ……言っちゃ悪いが、俺にとっては警戒対象である。そいつの時間稼ぎをしてもらえた、っていうのは、俺にとってはありがたいことで……。

……ありがたいことなんだけども……。

「いや、そのまま通しちゃっていいや」

「えっ、いいの!?アスマ様、いいのぉ!?」

「うん。よく考えたら、入られて困ることってそんなに無いっていうか、ダンジョンに入れないことによって変に勘繰られたりやっかまれたりする方が困るっていうか」

ダンジョンに『神様』が居ることなんて、向こうは知らない訳だし。ダンジョンは広く一般に開放してるんだから、教会の人であっても入れないわけにはいかないだろうし。

「……入れたくないなら、『寄付金を払えなかっただけで祝福を寄越さなかったあなた達には私達の富の源であるダンジョンに立ち入る許可は出せない』って言っちゃうこともできるのよ?」

「でも、それやっちゃうと、エデレさん達が教会に喧嘩を売ることになっちゃうし……」

エデレさんは俺を気遣ってくれているが、まあ、そこまでご心配には及ばないとも。多分。

「それに……相手の出方を知りたいのは、こっちもそうだし」

ま、何より、俺は教会っていうのをよく知らないからな。情報収集がてら、1人ちょろっと入るのを許可してもらっちゃった方が、得られるものが大きいだろう。

……ちょっと、緊張はするけどね。

ということで、エデレさんは毒消しポーションの瓶を詰めた箱を持ってわたわたと受付へ戻っていった。

そして俺は……。

「今できることをやろう。即ち、毒消しポーションの増産だ」

「本当に!?本当にそれでいいの!?」

……俺は、例の仮の家に戻って、そこで毒消しポーションを増産しておくことにした。いや、だって、他にやること、無いし……。

「うん。いや、流石に教会の人をダンジョン内で殺すとか、そういうのもアレでしょ……」

「それはそうだけどぉ……」

「ってことで、ミシシアさんもポーション詰めるの手伝って!」

「あ、うん……いいの?ねえ、いいのぉ……?」

ミシシアさんは俺よりも緊張しているというか、慌てているというか。つくづくこの人、いい人だなあ。

「アスマ様、居るか?なんでも教会の奴がダンジョンに来たとかで……」

「あっリーザスさん、こんにちは。うん。教会の人が来たのは知ってる。で、俺は今、毒消しポーションの増産体制に入っている」

「な、何故……?」

更に、リーザスさんもせかせかとやってきて報告してくれた。この人もいい人だなあ。

「ほら、リーザスさんも瓶詰め作業、手伝って」

「あ、ああ……いいのか、本当にこんなことをやっていて……」

折角なので、リーザスさんにも毒消しポーションの生産を手伝ってもらう。人手は多い方がいい。ちまちまとポーションを瓶詰めする時には、特に。

「教会の人が来たところで、隠れる以上にできること無いし。何かするつもりも無いよ」

「だが、ダンジョンの宝石を持ち出されるかもしれない」

「冒険者達にも持ち出させてるし、そこのところで区別しなくてもいいかな、って思ってる」

まあ、宝石が魔力を含んでいて、それが魔石として何らかの効果を持つってことは俺も分かってるんだが……教会の人がそれらを持ち出したとして、1人で持ち出せる量は限りがあるし、だったら、冒険者達から買い取るのも大して手間は変わらないだろうしな。どうせ教会って、金持ってるんだろうから。冒険者達の小金稼ぎ程度でどうこうなる連中じゃないだろ、多分。

ということで、俺達はひたすら毒消しポーションを増産した。

俺が毒消し草と薬草と水で毒消しポーションを大量に作ったら、ミシシアさんがそれを瓶に詰めていく。尚、瓶は焼き物である。小さいとっくりみたいな形の青白磁だ。ほんのり青みがかった白の、つるんとした表面が中々綺麗で気に入っている。

で、ミシシアさんがその瓶にポーションを詰めたら、リーザスさんがそこに栓を詰めていく。尚、栓はコルクに似たかんじの樹皮を抜いて作ってある。この世界でも普通に使われているものだ。

……そして、最後に俺が、瓶の蓋に封蝋を垂らして、もすっ、と封印を押す。この封蝋はエデレさんに貰ったやつ。再構築するのが面倒だったので、町への買い出しの時に一緒にお願いしている。封印は適当に金属を再構築して作った。『パニス村』って書いてあるデザインだ。

なんで封印なんざ一々施さなきゃいけないかって、毒消しポーションの中身を使った後、空き瓶に適当な水とか入れて再販されたら面倒だからだな。

そういうわけで、パニス村謹製ポーションの蓋には、ちゃんと封印が施してあるし、封印が無いものは詐欺です、と販売所で注意してもらっている。

「どんどんできるねえ」

「これが終わったら毒薬作っておこうかな。そろそろダンジョンで使ってる分が無くなっちまうし……」

ひとまず、当面の分の毒消しポーションが瓶詰めできたら、次は毒薬を作っておこう。

ダンジョンの中の毒トラップは、放置しておけばそれでいいようなトラップに限られた。……えーと、冒険者がワイヤーに足引っかけたら降ってくる毒の雨とか、落とし穴の中に毒針を仕込んでおくやつとか、そういう系統の。

が、冒険者達からある程度離れた位置で、かつ、冒険者達が認識していない場所については離れていても分解吸収再構築ができると分かったので、『留め具を分解することによって毒針が射出される仕組み』とか、『高温の水を瞬時に再構築することによって動かす蒸気機関で毒霧を噴射する仕組み』とかが使えるようになってしまった。

ならバリエーション豊かにいきたいよな、ってことで、毒をストックしておきたい場所が大分増えちまったというわけである。よって俺はひたすら毒薬のストックを作っておくことになる。まあ、作って分解しておけば、再構築は楽なんで……。

……と、諸々の作業をしていたところ。

「あれっ!」

俺の意識に、とんでもないものが引っかかった。

「どうしたの、アスマ様」

「いや……その……」

俺は、これを言うべきか言わざるべきか、と考えて……だが、言うことにした。

「教会の人、落とし穴に落ちて、そこの毒針にやられて動けなくなっちゃった……」