軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

沼の底へ*1

聖女サティのことが気になった俺は、翌日早速来てくださったラペレシアナ様に相談することにした。

「ラペレシアナ様。聖女サティって今後、どうなるんですか?」

「聖女サティか?」

ラペレシアナ様は、牢屋の捕虜達の輸送およびその前の尋問の指揮を執っておいでだったのだが、ちょっと手が空いたっぽかったので遠慮なく話しかけさせていただいた。いや、捕虜の尋問が本格的に始まる前に聞いといた方がいいだろうと思って。

「教会も大聖堂も、今回のごたごたがあって全て取り潰すこととしたのでな。『聖女』ももう必要ない。そういう訳で、彼女は親元に返そうと思っている」

「よかった!」

そして、朗報。聖女サティ、お家に帰れる!よかったね!

「……ふむ。聖女サティと、ダンジョンの守り神にしてこの国の守り神でもあるアスマ様の婚姻、というのも悪くないとは思うのだが」

が!悲報!俺と聖女サティの婚姻話、再浮上!

「いや……その、俺、流石に7歳児はちょっと……」

「……そう大きく齢が離れているようには見えんが」

「こう見えて、俺、19なんです……」

ラペレシアナ様は『まあ、婚姻の話は冗談だが』と前置きしてから、ちょっと困ったように小首を傾げられた。

「到底、19には見えん。まあ、神と人との時の流れ方は、エルフと人のそれのように異なる、ということなのだろうが……」

「それとはまたちょっと事情が違うんですけどね……」

……時の流れ方が違うっていうか、俺、時が遡っちゃってるのよ。あと、オウラ様もそうなんだっけか。なんだろうなあ、この、ダンジョンの『とりあえず若返らせとこ』みたいなの、なんでなんやろなあ……。

「ふむ……しかし、アスマ様」

俺が『なんでだろうなあ』と考えつつ踊り出したところで、ラペレシアナ様がまたちょっと困った顔で俺の頭を撫でてきた。

「聖女サティ本人は憎からずアスマ様のことを思っているように見えるぞ?」

「……ひええ」

あの、ラペレシアナ様。それは俺の頭を撫でている場合ではないのではないですか?これ、事案じゃないんですか!?

うおわあああ!罪深い!俺、罪深い!懺悔します!なんか、7歳女児に憧れられてしまっています!多分、『クラスでかけっこが早い男の子』ぐらいのノリで憧れられてしまっています!懺悔懺悔ーッ!

「どうしてこんなことに……」

一通り懺悔したところで、俺は頭を抱えた。はっけよーい、困った!困った!うおおおおお!困った!困った!

「……まあ、そう言ってやるな。アスマ様からすれば不本意であろうが、聖女サティからしてみれば、齢が近く見える、賢い男子だ。気遣われ、そのやさしさに触れていれば憧れもするだろう」

「見た目が悪いんですよね?つまりこれ、俺の見た目が悪いってことですよね?」

「19には見えぬでな。まあ、そういうことになるか……」

うおお……やっぱりこれ、大問題では?俺、この世界に来ちまって、ダンジョンの主にされちまって……大いに被害を被っているのでは?

いや、小学生ボディ、便利なこともあるけどさ。『やーいお前の母ちゃん火縄銃の名手ー!』とか低レベルな囃し方をしても許されるのは小学生ボディならではだけどさ。でも、被害も被害よ。少なくとも、俺の精神と聖女サティの初恋が犠牲になってるよ!なんてことしてくれやがるダンジョン!

……というか、よ。

「俺、そろそろ元の背格好に戻りたいんですよね……」

戻りてえよ!俺、すっかりコレ忘れてダンジョン改革だ村興しだってやってきたけど!

そもそものこのボディ!ここからなんとかしてえよ!

女児に恋されちまうのは、俺が小学生ボディだからだよ!

俺、いい加減この小学生ボディを脱却してえのよォー!

「ということでミシシアさん。なんかこう、老けられる薬とかありませんかね」

「えー、聞いたことないよう」

ということでこういう時の頼れるミシシアさんを頼ってみたところ、駄目であった。ガッデム。

「リーザスさんも何か知りませんかね」

「悪いが知らん。時の流れをどうこうするのは、並大抵の魔法じゃないだろう?難しいんじゃあないか?」

あ、そういうもんなの?そっか、まあ、そうだよね……。いや、でも、逆行は難しくても、順行ならいけない?ねえ、いけない?

色々と聞いてみたし、王都で買った魔導書の情報を見返したりもしてみたんだけど、やっぱり、『頭脳は大人、見た目は子供になっちゃった場合の体を元に戻す方法』っていうのは分からなかった。ガッデム。

「えーと、アスマ様は元の姿に戻りたい、んだよね?」

「うん」

「……そもそも、なんでアスマ様って、ちっちゃくなっちゃったの?かわいいから?」

「かわいくねえよ!……いや、なんで、って言われると、知らない、としか……」

そうなのよ。解決策を考えるにもね、まず、事の原因が分かってねえから。

……思い出してみるが、俺、ダンジョンの中にいきなり放り出されてて、で、気づいたら小学生ボディだわ荷物無いわパンツ無いわでてんやわんやだったんだよなあ。

それからは、食料の確保とかのサバイバル方面に一直線で、原因の究明ってところにはあんまり力と時間を割けないままだった。

そんな俺は、ちょっとばかり考えて……それから。

「ダンジョンに情報、残ってねえかな」

そう、結論を出したのである。

「多分、俺の荷物って『分解吸収』されちまったんだと思うんだよね」

まず、俺の推理はここから始まる。

俺のボディについてはさておくとして……消えた荷物については、ある程度の法則性があったからな。

「えーと、靴とかパンツとかは多分、俺のボディがサイズダウンしたことによって脱げて、そのまま落っこちて分解吸収、ってかんじだったと思う。けど、荷物については、残ってるものと消えたものの差が顕著だったんだよね」

俺は思い出しつつ、この世界に来た時に残っていた自分の荷物一式のコピーを出してみた。まあ、鞄と、参考書や教科書やノート、ってかんじか。

「消えたのは、PCとスマートフォンとスマートウォッチ。この3つが見事に消え失せちゃったのよ」

改めて、鞄を探ってみて分かることは、『なんか値段の高いものばっかり消えやがった!』ってことである。

そう。消えたもの、他にもいくつかあるけど……PCとスマホとスマートウォッチ、という俺のデジタルデバイス3種の神器が消えてるんだよなあ!

「スマートウォッチ……っていう、えーと、手首に腕輪みたいに付けとくものまで消えてるのは、おかしいんだよね。自然に外れて落っこちた、とか、流石に考えにくいし」

手首が子供サイズになっちゃったにせよ、今の小学生ボディの俺の手の大きさが19歳の俺の手首の太さに負けるとは思い難い。流石に。

となると、スマートウォッチは自然と落っこちたんじゃなくて、ある程度『意図的に』、或いは『選ばれて』分解吸収された、と思われる。

「スマートフォンについては自然に落っこちた、と言えるかもしれない。けどなー、ノートPCについては……PCケースだけ残ってて、中身のPCだけスルンと消えちゃってるからね……」

こっちはもう、言い逃れのしようもない。ケースだけあって中身だけ無いってどういうことなの。どう考えてもノートPCだけ消えてるだろこれ。

……と、考えていくと、まあ、分かるよな。うん。

「情報量の多いものが消えてるんだよね……」

本何冊分にも及ぶデータの収納庫。それがデジタルデバイスだったわけで……それらがインターネットに接続されていたことを考えると、そこからもデータ引っ張ってこられたんじゃない?とか、色々推測できてだな……。

……まあ、情報量が多いブツが、分解吸収されちゃった。そういう風に、考えられるって訳だな。

ということで、まあ……ここで1つ、恐ろしい可能性に行き当たっちゃうわけよ、俺は。

「で……俺の持ち物の中で、相当な情報が詰まってるはずのものがあるんだけど……それは残ってるんだよね」

「あっ、そうなんだ。それはよかったねえ。本か何か?」

「いや、脳」

……そう。

俺、本当に無事なんだろうか、っていう疑問がここにある!

「脳……?頭の中ってこと?」

「うん……」

ミシシアさんが首を傾げているが、脳ってのはな、すごいんだぞ。

情報ストレージとしての役割は勿論、体のあちこち管理するためのプログラムが備わってるし、脳に接続された種々の感覚器官から得られた情報を統合したり、取捨選択したり、補正かけたりしながら『認識』するだけの機能があるわけで……。

……まあ、言っちまえばコンピュータなわけよ。脳ってのは。それも、かなりの高性能コンピュータだよな。そこは疑いようのない事実だと思うよ。

と、いうところまでは、ヨシとして……ここで、疑問が出ちゃうわけだ。

『じゃあ、その脳は本当に分解吸収されてないんですよね?』っていう。

「まあね、その、俺がここで生きてて、考えてる以上は、脳は存在してるはずなんだよ。それは間違いない」

それはまあ、間違いないと思う。ほら、デカルト先生も言ってたし。我思う、故に脳有り。そういうことである。

「でも……うっかり脳が損傷していたとして、それを損傷した脳で認識できるんだろうか……?俺は、俺が認識していないだけで、何か脳の機能を失っているのでは……?」

でも、思ってる『我』が本当に『我』なのかがわかんねえのよ!狂人には自分が狂人であることを認識することができない!損傷した脳では脳が損傷していることが分からないかもしれない!

というか!記憶が一部消えていたとして、記憶が消えたということすら忘れていたら、記憶が消えていることを認識できないままの可能性が高い!

「……というか、俺、丸ごと分解吸収された後で、再構築されてない?で、材料不足で、小学生ボディになっちゃってる可能性もあるんだよな……?となると俺、何……!?俺って何なの!?もしかして俺ってスワンプマン!?」

「すわんぷまんって何?」

「沼男ぉ!」

「沼男って何!?」

うわああああああ!考えてたらドツボに嵌ってきた!こわい!こわいよぉ!俺って一体、何なの!?俺、何者なのぉ!?

「人間は考える葦である。俺は考えている。よって俺は人間である。いや、俺は葦かもしれない」

「アスマ様……その、温泉にでも入ってきたらどうだ?疲れている時に物事を考えても、碌なことにならないぞ」

……そうして俺が無理のある三段論法をやっていたら、リーザスさんにそっと諭されてしまった。はい。その通りです。現にこれ、碌なことになってねえもん!

「考えても分からないことを考えるなら、風呂の中がいい。或いは、酒を飲みながら……あ、いや、アスマ様は酒は駄目か」

「あっ、じゃあせめて、お腹いっぱいになって考えた方がいいと思う!ね!何か食べよ!それで、ゆっくり寝て、それから考えよ!ね!」

「うん……」

……色々と思いつめてもいい事ねえもんな。ここらで一旦、怖い考えの深掘りは止めておこう。

リーザスさんとミシシアさんの言う通り、飯食って風呂入って、ゆっくり寝てから考えよう。

「俺、2人が居てくれてほんとによかったと思うよ……」

「えっ、そう?そう?……えへへ、嬉しいなあ」

「俺も役に立っているなら、まあ、それはよかった」

俺はリーザスさんとミシシアさんに挟まれて、温泉に向かって歩く。もう今日のところは、さっさと寝ることを考えよう。そうしよう……。

……俺自身が分解吸収されたというのならば、その情報がダンジョン内に残っている可能性がある。

ゆっくり寝て起きてから、それを調べ始めよう。そうしよう。