軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンハザード*2

「最悪ですが私は元気です」

「アスマ様が何もないところに向かって喋ってる……絶対に元気じゃないよあれ……」

「うん、まあ、そうだろうなあ……うーん……」

はい。リーザスさんから恐ろしい話を聞いちまった俺は一頻り『ヤダーッ!』と地面を転げまわり、スライムに埋もれ、スライムを揉み、スライムに揉まれて復帰した。元気だ。俺は元気だぜ。元気だぜ元気だぜ元気だぜ。

「まあ、『ダンジョンはここだけじゃない』ってことは、つまり、大聖堂の連中が他のダンジョンにも手ェ出してるってことだよな……?」

「そうだろうな。俺はそう思う」

「ふええぇ……」

早速元気が消えていく気がするが、なんとか気持ちを立て直していこう。俺は元気だぜ。

「ということは、そのダンジョンを利用して、また森を焼こうとしてるってことかなあ……」

「森……とも限らないだろうな。ダンジョンの位置にもよるが……町、の可能性もある」

リーザスさんは深刻な顔である。俺もそういう顔になってきた。ああ……。

「それができるだろう?ダンジョンの力があれば」

「うん……」

……やっぱり、技術ってのは人間を不幸にするんだろうか。いや、そんなことはないと、俺は思いたいんだけど……今回ばかりはちょっと、信念が揺らぎそうだぜ!

「さて。このままほっとけなくなっちまったぜ。どうする?俺、こういう時にどうしていいんだかわかんない」

はい。まあ、元気が消えそうな俺だが、それでも動かないわけにはいかない。特に今回はね、色々と絡んできちゃってる話だからね……。

「ああ、ひとまずの動きとしては、当該ダンジョンの制圧ということになるだろう。幸い、そのダンジョンの情報は喋ってくれたぞ」

「あ、そこの情報はあるんだ……ありがてえなあ」

どうやら、ラペレシアナ様達の尋問によって、次に俺達が何とかしないといけないダンジョンの情報は手に入っているようなので、まずはそこ、ってことになるんだろうなあ。よしよし。

「……問題は、その後だな」

うん。よしよしじゃねえな。そうだな。うん。俺もその可能性には思い当たっちゃってたんだけど、やっぱり、そうか。うん……うん……。

「大聖堂の連中が、ダンジョンを支配する方法を他の誰かに漏らしていた場合……厄介なことになるぞ」

……うん。そう。

俺達が警戒しなきゃいけないダンジョンは、今、大聖堂の連中がなんかやってるらしいダンジョン1つのみならず……『今後、支配される可能性がある全てのダンジョン』なんだよなあ……。

「あいつらが知っている限りでは、『ダンジョンの主を殺して腕輪を奪い取ることでダンジョンを奪える』ということらしい」

「成程なー。そこのところは俺達が持ってる情報と大差ねえのか」

さて。今のところ、俺達の方が情報的に優位とか、そういうこともなさそうである。やべえな。情報でトントンだと、本当にやばい。

「そして、エルフの森のダンジョンを奪ってドラゴンを出して森を焼いていたことを考えると……他のダンジョンでも似たようなことをやるだろうな、と思われる」

「だよなあ……」

何せあの連中、普通に放火してるからね。自分達の『祝福』を高く買わせるために森を焼いてるわけだからね。どういう頭してんだあいつら。

「えーと、エルフの森のダンジョンを奪ったのは、エルフの森を焼いて、食べ物を無くして、それでエルフ達を困らせて交渉の座に引きずり下ろすことだったんだよね?ということは、エルフの森のダンジョンが初めて支配したダンジョンじゃない、っていう気がする!」

「そうだな。俺もそう思う。……恐らくは、他のダンジョンで『ダンジョンを支配する方法』を知ってから、エルフの森へ来ているんじゃないか?」

「あー……となると、アレか?エルフに対して『パニス村には世界樹がありますよ』とか言ってたのって、単なる命乞い目的だけじゃなくて、何かの時間稼ぎとか?或いは、パニス村ダンジョンを巻き込むための……?」

考えれば考えるほど、事態は広がりを見せていく。いや、本当にこれ、『今後支配される可能性がある全てのダンジョン』が対象の話になってきちゃったぞおいおいおい。

「エルフの里で捕虜にされている奴が2名。エルフの森ダンジョンから死体で見つかったのが4名。生きて見つかったのが1名。合わせて7名だが、国外追放されたのは10名以上に上るわけで……まだまだどこかに大聖堂の残党が居て、そして、ダンジョンを利用しようとしている、のか……」

全く、大聖堂の連中の目指すところがまるでわかんねえなあ。世界征服したいってんでもなけりゃ……ただ自分達が良い暮らしをするために森を焼くだのなんだのって、やるかぁ?やるのか。やるんだろうなあ、あいつらなら……。

「あーくそ、一旦、色々調べてみないことにはどうしようもないなこれ」

「だよねえ。ひとまず、大聖堂の人が確実に居るってわかってる奴だけでも!」

……まあ、結局のところは、そういうことになる。

俺達はとにかく、ダンジョンを攻略していかなきゃならんらしい。

で。

翌日、俺達はエルフの森を辞すことになった。エルフ達には、スライムダンジョンと化してしまったこのダンジョンで手いっぱいになってもらうこととする。

大聖堂の連中の情報については、『ダンジョンの中でなんか悪さしてたっぽいが、生き残った奴は下っ端だったのであまり情報が得られなかった。代わりに、他の生き残りが潜むというダンジョンの情報を得たのでそちらを探索する』ということで誤魔化した。

……エルフ達にダンジョンの主についての情報を流すのはあまりにも危険だからなあ。味方になってくれりゃいいが、よき味方になってくれるビジョンがあんまり思い浮かばねえので、エルフについては今後もこういうお付き合いの方法になりそう。

……で、そんな中、ミシシアさんは寡黙な弓エルフと何か話していた。

「行くのか」

「うん。私の居るべき場所はここじゃない。パニス村なの」

ミシシアさんは晴れ晴れとした顔でそう言った。

……ミシシアさんが元気そうで、俺としては何よりだ。彼女、エルフの里っていうか、エルフっていうもの自体に、なんかちょっと思うところがあったみたいだから……それが少し晴れたっていうんなら、よかったな、と思う。

「だからもう里には帰ってこないよ。あっ、でも、スライムいっぱいのダンジョンは気になるから、遊びにくることはあるかも!」

ミシシアさんが笑うと、寡黙な弓エルフも、ちょっと笑っていた。

エルフ5人組の中ではかなり話が通じそうな方だと思ってたが……彼もまた、ミシシアさんに対してなんかちょっと歩み寄りたい気持ちがあったのかもね。

「……戻ってきたなら、客間くらいは空けるぞ」

「ほんと?なら野宿しなくて済むね!えへへ、ありがと、叔父さん」

ん!?

「じゃあさ、今度、母さんのお墓参り、一緒に行く?」

「……それは」

「あ、うん。そっちはまだ気持ちの整理、つかないか。まあ、えーと、じゃあ、いつか!100年でも200年でも先でいいから!ね!」

……うん。

あの2人、血縁だったのね!?

ということで。

「いやびっくりした……ミシシアさん、あのエルフと血縁だったのね……?」

「え?うん。彼は私の母さんの弟にあたる人だよ」

次のダンジョンへ向かう車の中、俺はミシシアさんに聞いて、けろっとした顔で頷かれた。

「母さんは死んじゃったし、父さんは人間だから、もう生きてないと思うし……私の血縁は彼くらいだなあ」

「そっかぁ……」

なんか、ミシシアさんはけろっとしてるんだけど、俺は滅茶苦茶居た堪れない思いである。ミシシアさん、そういう身の上だったんだな……。

「あ、えーとね?エルフって、人間よりも、家族っていう意識が薄いっていうか……その、血が繋がってるかどうかって、あんまり重要じゃないの。里で皆で暮らしてるものだし。だから彼についても、叔父さん、っていうか……他のエルフと大体一緒、っていうか……」

ミシシアさんはそう言うと、ちょっと息を吸って、意を決したような顔をして……。

「だから……彼をぱんつ一丁でスライムに埋めたことは、後悔してないよ!」

「あっそういやそうだった」

……ミシシアさんは、『気にしてない!気にしてないんだよ!』と言っていたが、まあ、流石にちょっとは気にしてる、のかもしれない……。

ま、まあね?ほら、エルフって、パンイチでもあんまり気にしない種族っぽいから、その……ミシシアさんの罪も、そんなに重くねえよ!多分!寡黙弓エルフ本人も多分気にしてないから!大丈夫大丈夫!ね!気にせずいこ!ね!

「まあ、ぱんつでスライムの話は置いとくけどさ……」

ミシシアさんは、『ちょっと置いておく』みたいなジェスチャーをして話を区切ると……俺の方を見て、にこ、と笑った。

「私にとっての家族は、血縁じゃなくて、同種かどうかでもなくて……一緒に居るかどうかで決まるんだ。そう決めることにした!だから私の家族は、パニス村の皆!アスマ様も私の家族ね!」

ばっ、とミシシアさんの腕が伸びてきて、俺を捕まえる。そしてそのまま、むぎゅっ!と抱きしめられちまったぜ。参ったね、どうも。

……まあ、ミシシアさんが家族だって思ってるんなら、俺もそういう風にするかな。

ただ、こう、小学生扱いはちょっとね?ちょっと、思うところはあるんだけどね……?おいおいおいミシシアさんよぉ、俺を抱え直すんじゃないよ。あと背中をぽんぽんやるんじゃないよ!寝ちゃう!寝ちゃうからぁ!そうやってあっためられたら俺の小学生ボディはおねむまっしぐらなんだからぁ!ちょっとぉ!

車の中でうっかり寝たが、起きたので問題無し。

俺が起きたらミシシアさんが俺を抱えたまま寝ていた。このままだと、俺を抱えているミシシアさんの脚が痺れてしまいそうなので、俺はミシシアさんの膝の上からそっと降りといた。

……すると、俺が離れてちょっと涼しくなっちゃったからなのか、ミシシアさんはすぐ目を覚ました。あっ、起こしちゃったか。ごめん。

「2人とも、起きたか。そろそろ目的地だぞ」

が、丁度良かったっぽい。ミラーで俺達の様子を見たらしいリーザスさんが運転席から声を掛けてくれたので、俺もミシシアさんも、伸びなんぞしつつ前方を確認。

「……アレが、例のダンジョンかぁ」

「ああ。大聖堂の残党が居るというダンジョンだな」

フロントガラス越しに見える景色の中、ぽつん、と佇むのは……塔、である。

どうやら、俺達がこれから攻略することになるダンジョンは、地下洞窟型ではなく、タワー型であるらしい。

「珍しい形だなー」

「そうか?……ああ、まあ、そうだな。アスマ様が今まで見てきたダンジョンは全て地下洞窟系統か……」

こういうダンジョンもあるんだな、と思っていたら、リーザスさんのこの反応である。ということは多分、タワー型ダンジョンもそんなに珍しくはないんだな?

「気を付けよ。塔の形をしたダンジョンは、より残忍で狡猾であると聞く。罠も多く、攻略には難儀するそうだぞ」

ラペレシアナ様の反応はコレなので、ということは……えーと。

「ダンジョンの主の知能が、塔を建設し、その中に罠を設置できる程度には高い……つまり、人間がダンジョンの主をやっている可能性が高い、と。そういうことですね?」

「ああ、そうだ」

成程ね。真っ向から攻略しようとしたら、酷い目に遭いそうだ。

俺だって、いくらでも悪辣な罠は考え付くからな。相手だって、それくらいは考えてくるだろ。

ということで。

「シアン化水素が余っててよかったぜ」

「またアレやるの……?」

「あたぼうよ」

ほら、折角作って持ってきたシアン化水素だし。

これさえあれば、ダンジョン攻略は怖くないよね!