軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07 ギルドマスターは考えた

07 ギルドマスターは考えた

ギルドマスターのバートンは執務室の椅子に深く腰を落とし、机の上に広げた書類を眺めながら、額に手を当てた。

頭が痛い。実に頭が痛い。

だが、口の端はどうしても上がってしまう。

マイクから報告を受けたのは三日前のことだ。

「あの娘、侯爵令嬢です。婚約破棄と同時に勘当されて、その日のうちに冒険者登録をしたらしい」

バートンは最初、信じなかった。

夜会でそんな騒ぎがあったのは耳にしていた。だが、まさかその当事者が、当日に自分のギルドに転がり込んでいたとは思わなかった。

「それで、本人はどういう様子だ」

「飯を美味そうに食って、クレープを頬張って、兄とおぼしき男に絡まれても目を細めて鼻で笑っていましたよ。未練の欠片もない。むしろ楽しそうだ」

マイクは苦笑混じりに言った。

バートンは腕を組んだ。

「なるほど」

「ただ、あの家は追いかけてくる可能性がある。本人が拒否しても、引きずり戻そうとするかもしれない」

「ギルドはギルド員を守る。それはそうだ」

「それは、バートンさん。頼もしい」

とマイクはバートンを揶揄うが「まぁそれとなく見張っておきます」と笑った。

そして今日、薬師ギルドからフィリップ・ミードがやって来た。

「ケイトさんの薬草の品質、ご存知ですか? 王都じゅうの薬師がこぞって欲しがっています。薬師ギルドとして専属契約を結びたい」

バートンは書類に目を戻す。

薬草採取の品質記録。初心者ではあり得ない丁寧さだ。

倉庫整理の件もある。倉庫を見た時はバートンも驚いた。

「あの量を一人であの短時間で。しかも埃一つなく」

普通の収納能力ではない。規格外だ。

そして今、フィリップは薬師ギルドでのポーション作りの指導を申し出た。本人もそれを望んでいるという。

バートンは書類を机に置いた。

整理しよう。

まず、ケイトという娘は薬草の採取が出来る。それも相当な精度で。

収納の能力が、通常とはまるで違う。

水魔法の使い手で、かつ別の魔法も複数持っているらしい、とマイクは言っていた。

ポーションを学ぼうとしている。

そして、一切の未練なく貴族の身分を捨てた。

逃がさない。それは決まっている。

問題は、どうするかだ。

ギルドが囲い込みをするわけにはいかない。そんな真似をすれば、本人が逃げる。

あの娘は賢い。利用されていると感じた瞬間、さっさと国を出るだろう。

「国を出るつもりです」とマイクに向かって言ったらしい。

本気だと思う。

だから、力で縛ってはいけない。

では、どうするか。

バートンはゆっくりと立ち上がり、窓の外を見た。

街が夕暮れに染まっている。

答えは出ている。

マイクだ。

あの男はすでにケイトと関係を築いている。同じホテルに滞在しているのは偶然だが、使えない偶然ではない。

護衛という名目は悪くない。あの兄やらが絡んでくるのは目に見えている。いつ王宮の人間が動くかもわからない。

だから護衛をつける。それは事実だ。

ただし、もう一つの役割もある。

見張り、などと言うと聞こえが悪い。

監視でもない。

「つなぎ止め」が近いだろうか。

ケイトがここにいることを、居心地よく思い続けるように。

この街が嫌いにならないように。

マイクなら出来る。あの男は、人を居心地よくさせる才があった。

バートンは扉の方を向いた。

「マイクを呼べ」

部下に向かってそう言ったのは、窓の外が完全に暗くなる少し前のことだった。

呼ばれたマイクは、バートンの話を黙って聞いた。

「護衛ですか?」

「そうだ。実際、護衛が必要な状況ではある」

「どうして俺に?」

「言わなくてもわかるだろう」

マイクは少し間を置いてから、苦笑した。

「マスターも人が悪い」

「褒め言葉として受け取っておく」

「わかった。引き受けよう」

マイクの顔に浮かんだ複雑な表情には気づかない振りをした。