軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14 なんですって!

14 なんですって

翌日の夕方、冒険者ギルドの前の広場は、昼間の喧騒が少し落ち着き始めていた。

屋台からは甘い焼き菓子の匂いが漂い、帰ってきた冒険者たちが思い思いに食事を取っている。

ケイトは薬師ギルドでの講習を終え、肩掛け鞄を揺らしながら歩いていた。

今日はポーションの温度管理について教わったのだ。

煮立てすぎると薬効が飛ぶ。逆に弱すぎると抽出できない。

なるほど、面白い。

やっぱり新しい知識を得るのは楽しいわね。

そんなことを考えながら広場を抜けようとして、ふと足を止めた。

見覚えのある顔が並んでいたからだ。

パーシーと、王太子の側近とか侍従とかそれに騎士たち。

ただ、前回と違うのは、妙に慎重なところだった。

以前のようにずかずか近づいて来ない。

誰かに怒られたのかしら。

そう思って見ていると、彼らは屋台で果実水を買い込んでいた。

しかも、ちらちらとこちらを窺っている。

なんなの。

ケイトが少し警戒していると、その横でマイクが小さく息を吐いた。

「今日は学習したらしいな」

「ですね」

「まぁ、近づいてくるだろう。嫌なら止める」

「いえ、大丈夫です。何を言うのか気になりますし」

ケイトがそう答えると、マイクは片眉を上げた。

「余裕だな」

「だって、今日は薬師ギルドで褒められましたから。機嫌がいいんです」

「そうか」

マイクは苦笑した。

その時だった。

パーシーたちが、マイクのいない側から、そろそろと近づいて来た。

まるで大型犬を刺激しないように近づく泥棒猫みたいだ。

ケイトはちょっと面白くなった。

パーシーの後ろにいる男が、おそるおそる果実水を差し出す。

「の、飲みませんか?」

「あら、ありがとう」

ケイトはにっこり受け取った。

そして、そのまま自然な動作でマイクへ渡す。

「マイクさん、蓋あけて」

「はいはい」

マイクは慣れた様子で蓋を開ける。

「ありがとう。マイクさん」

「どういたしまして」

そのやり取りを見て、パーシーたちの顔が微妙に引きつった。

なんなのかしら。

ケイトが果実水を一口飲むと、パーシーが意を決したように口を開いた。

「なぁ、キャサリン。戻ってこないか? 助けて欲しい」

ケイトは瞬きをした。

それから、くすりと笑う。

「わたしのありがたみが分かったってこと?」

「そうだ」

即答だった。

以前のような高圧的な態度は薄い。

むしろ少し疲れている。

ケイトはその顔をじっと見た。

「あら。人海戦術は試した?」

「その……」

パーシーが言葉に詰まる。

後ろにいた男が慌てて口を挟んだ。

「視察だけでも!」

「視察?」

「そうだ」

「視察!」

ケイトは急に目を輝かせた。

「そういえばハーベスト村の式典はどうだった? あの水害から立ち直ったのよね。みんなどうしてた?」

その瞬間、空気が変わった。

パーシーたちの顔が強張る。

ぎこちない沈黙。

やがて、一人が答えた。

「はい、元気でした」

だが、その声は妙に硬かった。

ケイトは笑みを消した。

じっと、その男を見る。

「本当のことを言いなさい」

「え」

「ちゃんと挨拶できたの?」

「はぃ」

声が震えた。

周囲で聞いていた者たちが、ぶふっと吹き出す。

「なんだその返事」

「怒られてる子供みてぇだな」

「貴族様、視察失敗したのか?」

ひそひそ声が広がる。

パーシーのこめかみに青筋が浮かんだが、今日は怒鳴らなかった。

その代わり、ぐっと拳を握りしめている。

ケイトは小さく息を吐いた。

たぶん、現地で歓迎されなかったのだろう。

当然だ。

あの村に、キャサリンは何度も足を運んだのだ。

炊き出しをして、一緒に泥まみれになって働いて、一緒に泣いた。

それを知らない人間が形式だけで行っても、上手くいくわけがない。

ケイトは少しだけ考え、それから言った。

「依頼を受けるわ」

「本当か!」

パーシーが勢いよく顔を上げた。

「ただし、料金とか条件とか、そういうのは全部ギルドマスターと話し合って。わたしは冒険者だから、手順は守ってもらうわ」

「よし!」

パーシーの変に明るい声が、夕暮れの広場に響き渡った。

ケイトはそんな周囲を気にせず、果実水をもう一口飲んだ。

甘くて冷たい。

悪くないわね。

隣でマイクが低い声で言った。

「受けるのか?」

「あの村、気になるから自分で予定を立てて公務としていきます」

「優しいな」

「違います」

ケイトは即答した。

「ちゃんと報酬が出るなら、仕事をするだけです」

そう言うと、マイクが吹き出した。

「なるほど。冒険者らしい答えだ」

「当然です」

ケイトは胸を張った。