軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 王妃のお茶会

10 王妃のお茶会

お茶会の招待状を出したのは、夜会から五日後のことだった。

本来ならば早くとも十日は準備に使う。だが、悠長なことは言っていられなかった。

こじんまりとした、ごく内輪の茶会。参加者は王妃が直々に選んだ十二名だ。発言力のある夫人たちを中心に、王家に近い家の者、そして一人ローズライン侯爵夫人エリザ。

王妃は微笑んだ。にこやかに、しかし目は笑わずに。

茶が運ばれ、菓子が並んだ。しばらくは当たり障りのない話が続いた。季節の話、子供の話、庭の花の話。

そして頃合いを見て、王妃は口を開いた。

「ところで、キャサリン嬢はどうなさっていますか?」

場が静まった。

「はい、それは、その」とエリザが答える。「勘当いたしましたので、今はもう侯爵家とは無縁の者でございます」

「ええ、存じております」と王妃は穏やかに言った。「ですが、長らく王宮にもお越しいただいていた方ですから。こちらも気になっておりまして」

「お気遣いは無用でございます。勘当した者のことは、家としては関知しかねます」

「では、あのまま、なにも持たせずに」

「はい。勘当いたしましたので」

「そうですか。夜会の後、どちらへ向かわれたかもご存知ではない?」

「それが」とエリザは少し間を置いた。「てっきり王城で保護されているものと思っておりました」

王妃は静かにエリザを見た。

「王城で?」

「はい。あの場は王城の夜会でございます。主人が勘当を申し渡したとはいえ、それまで公務もこなしておりました娘です。王城側でお引き取りになるのが自然かと。そのように判断いたしましたが、お見捨てになったのですね」

淀みなく出てきた言葉だった。

用意してきた、とすぐにわかった。

王妃は茶のカップをゆっくりと置いた。

「王城で保護されていると思っていたので、ご家族として探す必要はないとご判断なさった」

「はい、さようでございます」

「それで五日間、何もなさらなかった」

「王城にお任せすればよいと思っておりましたので」

エリザは視線をまっすぐに向けていた。嘘をついている顔ではない。いや、正確には、嘘をついているとは思っていない顔だ。自分の言葉を信じ込んでいる。あるいは信じ込もうとしている。

場の夫人たちは誰も口を挟まなかった。静かに、それぞれの茶を飲んでいる。

「残念ながら」と王妃は言った。

「王城にはいらっしゃいません。勘当と除籍の場に居合わせた方々もご存知の通り、あの娘はあの夜のうちに夜会の場を出ております。その後の行方が、今もって知れないのです」

エリザの顔が、わずかに動いた。

「そうでございますか。王城は目も手もあるから、安心だと思っておりました。今日は会えるかと思って参りましたのに……」

ローズライン夫人はまわりを見て

「では、娘はどこにいるのでしょうか?」

「それを伺いたいのはこちらです」と王妃は言った。「お心当たりはございませんか。友人でも、親しくしていた方でも」

「あの娘は」とエリザがゆっくりと言った。

「王宮の公務ばかりしておりましたので、友人と申しますか、そのような方のお話は聞いたことがなく」

「そうですか」

王妃はそれ以上は追わなかった。

友人がいない。行き先がわからない。家族は探さなかった。王城にいると思っていた。

その王城にもいない。

「キャサリン嬢の亡きお母様の宝石は、今もアビゲイル嬢がお持ちなのかしら」

今度は、場が完全に静止した。

「あれは、その、行き違いがございまして」

「行き違い」と王妃は言った。温度のない声だった。

「はい。娘が欲しいと申しまして、つい」

「つい、渡したのですか」

「きちんと整理するつもりでおりました。いずれキャサリンにも話をして」

「夜会の場で、キャサリン嬢はすでに渡してあるとおっしゃってましたね。三か月年上の妹様に」と別の夫人が静かに言った。

「アビゲイルは甘えん坊なので妹として扱っておりました。家族の冗談のような物です」

エリザは顔を赤くしてこう言った。

「宝石も冗談ですか?」

「いえ、あれはキャサリンも納得して」

「納得して、渡した?」と王妃は言った。「それとも、渡さざるを得なかった」

「納得です」

「そうですか」

王妃はそれ以上追わなかった。追う必要はない。この場の全員が、もう答えを持っている。

茶会はその後も続いた。話題は他に移り、笑い声も上がった。

だが、エリザはその後ほとんど口を開かなかった。

茶会が終わり、出席者は満足の笑みを浮かべて帰って行った。

扉が閉まった後、王妃はそっとカップを置いた。

王城にいると思っていた、か。

都合のいい思い込みだとは思う。だが同時に、まったくあり得ない話でもない。公務を担っていた娘だ。王城が引き取るという選択肢は、確かにあった。

あった、のに、しなかった。

王妃は小さく息を吐いた。

エリザを責める気にはなれなかった。あの言い訳は、そのままこちらへの問いでもある。なぜ王城は保護しなかったのか。なぜ誰も追いかけなかったのか。

答えられない。

窓の外に目をやる。青空が広がっていた。どこまでも、のんきな青だった。

とにかく、あの娘を見つけなくては王室の大きな傷になってしまう。