作品タイトル不明
ルドベキア11歳
セリ嬢のくれたお茶を飲むようになって、僕の体調は、凄く良くなった。
なにやら、紅花と言う花で作ったお茶らしい。
癖がなくて飲み易く、毎日有り難く愛飲させてもらっている。
セリ嬢が言うには、僕は、冷え性らしい。
今まで考えたこともなかったけど、こうやって血行が良くなって来ると、指先まで血が通う感覚に驚かざるを得ない。
そして、一つ良い方向に転がると、色んなことが変わって来た。
食欲も、体力も、気力も、日に日に改善している気がする。
でも、一番変わったのは、僕の心持ちだ。
いざと言う時の為に、セリ嬢を守る力が欲しくて、剣術にも力を入れ始めた。
恥ずかしくて、彼女には伝えてないけど。
「あら、ルドベキア、また、大きくなったのではなくて?」
母上が、目を細めて僕を見上げてくる。
前々からヒョロ高かったけど、今は、筋肉も付いてきたから、余計大きく見えるらしい。
確かに、少し制服もキツくなってきた。
「小さなお姫様は、貴方に、どんな魔法を掛けてしまったのかしら?今頃になって、ブンブン蝿が煩く飛び回り出したようだけど、気をつけなさいね」
揶揄う母上に、僕は、苦笑した。
セリ嬢とは、とても良い関係が築けているとは思うけど、改めて言われると、なんだか、照れ臭いな。
彼女のおかげで、僕は、胃腸が強くなり、必要な栄養源をキチンと取れるようになって筋肉もついた。
痩けていた頬も、顔色が良くなったことと、肉付きがほんの少し増した事で、少しマシになった。
ただ、困ったのは、今まで俺を嘲笑っていた奴等が、急に僕との距離を縮めようとしてきたことだ。
特に、女性は、鼻が曲がりそうな強烈な香水の匂いを漂わせ、元の顔が分からないような濃い化粧をしている。
彼女達に声を掛けられるたびに息を止め、まともに会話すら成り立たない。
それを、ニヒルだとか、精悍だとか、男らしいとか、美辞麗句で飾られても、気持ちを逆撫でされるだけだと何故気付かない?
僕のあまり宜しくない目付きは、セリ嬢とその身内を除き、更に悪くなっていった。
そんな僕の二面性に気づいたセリ嬢の兄ケイトウは、訝しげな視線をいつも向けてくる。
この前、剣術の模擬戦で戦った時も、つい本気を出し過ぎて、ドン引きされてしまった。
いけない。
彼女の家族にだけは、嫌われたくない。
僕は、鏡の前で、笑顔の練習をしてみた。
目が笑ってなくて、余計恐ろしげに見えた。
「ルドベキア、どうかしたの?」
「母上、僕の笑顔は、変ですか?」
「貴方は、どんな顔でも、それ程変わらないわ」
僕と同じで、あまり感情表現が得意でない母上が、真顔で言い切った。
「そうですか。残念です」
「そう落ち込まないで。貴方、小さなお姫様の話をする時だけは、とても良い表情なのだから」
僕は、顔に血液が一気に集まるのを感じた。
全てを見透かされているようで、かなり恥ずかしい。
「あら、その表情も、とても良いわ」
「母上、揶揄わないでください」
僕は、母上に背を向けると、登校の準備をしに自分の部屋へ戻った。