軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グラリオサ(執事)45歳

この屋敷に勤め始めたのは、当主であられるハス様が二歳になられた頃だった。

当時、二十二歳になったばかりの私は、赤子の抱き方など知るはずもなく、乳母に世話をされるハス様を遠巻きに見ていた。

お顔は、正直、とても地味だった。

あまりに地味だからなのだろうか?

時折、乳母が、我が子のように叱っているのを見かけた。

乳飲み兄弟と本当の兄弟のように馴染んでいたが、乳母は、平民。

公爵家の嫡男が、馴染んではいけない気がしていた。

10代になられると、様々な家庭教師がつき、勉強や剣術に時間を使うことになる。

この方の不思議なところは、決して得意というわけじゃないのに、そつなく、ある程度のところまで成長されるところだ。

何か特筆して他の方より優れる所があるわけではないのに、常に、中の上あたりにいらっしゃる。

目立たない事で皆気付いていないようだが、常に八割以上を取ると言うことは、なかなか出来ることではない。

しかも、剣術に、算学に、政治経済、語学、一つのジャンルに留まらない。

『○○の申し子』のような肩書きは付かないが、これだけの事を平然と出来ることは、褒められるべきではないのだろうか?

また、絶世の美女、ダリア伯爵令嬢の心を射止めたと話題になった時も、ダリア様の『地味好き』という独特の志向は話題になったが、誰一人として、ハス様を責める方は居なかった。

どうも、『あの顔が良いと言われたら、戦える気がしない』ということのようだ。

美しく着飾ることはできても、地味になる事は、なかなか難しいと言うことか?

そんなハス様のご嫡男が、ダリア様の容姿を全てを引き継がれたケイトウ様。

天才的頭脳をお持ちで、一度読んだものは忘れない絶対記憶の持ち主。

ただ、空気を読む事と思いを言葉にするのは苦手なようで、時々ダリア様の鉄槌が落ちている。

そして、今、この屋敷で一番の話題は、ハス様の雰囲気をそのまま凝縮したようなセリお嬢様。

視界から外れると、再び見つけ出すのが難しいほど影が薄く、似顔絵を描こうにも特徴が全くないという折り紙付きの地味顔。

なのに、我が屋敷では、絶大なる人気を博している。

あるメイドの話では、皸を我慢して洗濯をしていたところ、突然小さな手が伸びてきて、自分の手に軟膏らしき物を塗ってくれたらしい。

驚く彼女に、小さな缶を手渡し姿を消したセリお嬢様。

メイドの手は、その日から、荒れることがなくなり水仕事も苦ではなくなったとのこと。

また、別のメイドの話では、裏庭で草むしりをしていた際、ブンブン飛び回る虫に弱り果てていたらしい。

すると、何処からともなく現れたセリお嬢様が、シュッシュッと何かを吹き付けてくださった。

その後、彼女は虫に刺される事なく、作業を終えることができたと言う。

それら全てが、セリ様がご自身で作られた物だと知った時の我々の驚きを、ハス様は理解されていらっしゃらない。

「凄いね〜、偉いね〜、ありがとうね〜」

とお手伝いした子供を褒めるくらいの軽さで頭をナデナデされるだけ。

ケイトウお坊っちゃまに対しても、

『ちょっと物覚えが良いからって、そんなに期待しないであげて』

と笑うだけ。

ハス様、やはり貴方は、本質的にズレている。

ただ、こんな不思議な方々と生活を共にしていると、我々も、これが普通なのかと錯覚するようになってきた。

「グラリオサさん、そこ、邪魔です」

「あ、すまない」

セリお嬢様専属メイドのクローバーが、大きな荷車を押していく。

その上には、服を泥で汚したお嬢様が、大量のクッションの上でスヤスヤ寝ていた。

どうやら、またしても、土いじりをしている最中に寝てしまったようだ。

これは、本当に公爵家の日常なのだろうか?

私は、釈然としない気持ちで二人を見送った。