軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話 出発

夏休みも近づいた時、王城に呼ばれた。

いつもの応接室に案内され、用意された上品な香りのする紅茶を楽しみながら待ち時間を過ごしていく。

程なくして応接室に国王、エリック公爵、マグナ宰相の三人が入ってきた。カインは立ち上がろうとするが、国王が手で制す。

「待たせたなカイン、そのままで良い」

そのままいつもの中央の席に座り、その両隣にエリックとマグナが席に座る。

「以前に話していた聖女様の件だが、こちらに向かう日程がわかった。それでだな、その前にマリンフォート教国との国境の街であるシルベスタまで迎えにあがって欲しい。詳しい事はマグナから説明させる」

カインは説明に頷いていく。そしてマグナの説明が始まった。

シルベスタの街は王都から南東に五日の距離にあり、領主はラグナフ・フォン・ルーベスト・シルベスタ伯爵が治めている。教国に近いこともあり、熱心なマリンフォート教徒が多く、ワインの産地で有名で他国にも輸出するほど生産に力を入れている。

カインが王都でお披露目会のために仕入れたワインもシルベスタ産だと説明された。もちろん未成年でまだアルコールを飲んでいないカインにとってはピンとこない。

「それでだ、学園の夏休みに入ってから十日のうちにシルベスタへと到着することになっている。少し前にシルベスタに入ってもらい、ラグナフと準備をして欲しい。ただな……」

マグナが少し言いにくそうに国王に視線を送る。その視線を感じてか、国王が補足を始めた。

「ラグナフなのだがな……熱心なマリンフォート教徒でもある。少し行き過ぎた事があるかもしれんから、お主が止めるようにしてくれると助かる。決して悪い奴では無いのだが……」

国王は苦虫を噛み潰したような顔をしながら説明をする。

熱心な教徒にとっては聖女というのは神の遣いとも定義され、その聖女に口答えするということは神に逆らうと同義なのだ。

また面倒な事に巻き込まれそうな予感をしながらカインは話を聞いていく。

「それでじゃ、ラグナフを止めるにもあちらは伯爵、お主は子爵だ。止められないかもしれん。それでコレを渡しておく」

テーブルに置かれたのは白金でできた貴族の証明書だ。カインが持っている子爵の証より明らかに豪華に出来ている。但し、その証に施されている紋章はこのエスフォート王国の国旗と同じものだ。そう、王家の証がそこに置かれていた。

「これは王家の者が持つ事ができる証だ。もしくは王家の代理の者に貸し出される。お主には王家の代理として役目を果たして欲しい。これならラグナフが暴走しても止められるだろう……きっとな……」

「この証ですが、シルク嬢が持てばいいのでは……」

聖女は女性ということもあり、シルクが必然的に多く接することになる。シルクに権限を持たせておけばカインは護衛の役目に専念できると思っていた。

「それはならん。この証を持つのは貴族の当主のみなのだ。貴族の家族にまでその権限を委譲することはない」

国王はカインの言葉を否定した。たしかに貴族の家族は準爵扱いになるため、貴族として扱われるが貴族の当主としての権限はない。しかも王家の証を持つことなど許されてはいないのであろう。

「――わかりました。では、大切にお預かりいたします」

カインはテーブルに置かれた王家の証を受け取りアイテムボックスの中に仕舞った。

「では頼んだぞ」

その言葉を残し三人は部屋を出て行く。一人で応接室に残ったカインは天を仰いだ。

「何もないことを祈るしかないか……」

◇ ◇ ◇

そして夏休み前日を迎えた。明日から夏休みとなり二ヶ月間学園が休みとなる。そしてシルクと共に聖女の出迎えのためにシルベスタへと向かう日となっている。

「カイン様とシルクが二人きりで旅行……」

テレスティアは最終日の学園の教室で少し不機嫌な顔をしている。もちろん理由はカインとシルクが二人で聖女のお迎えに出かけるからだ。

何度も国王に同行出来るように嘆願したが、さすがに王女を向かわせる訳にもいかず許可されなかったとのことだ。

「うふふ、大丈夫よ。すぐに戻るから。テレスは王城で待っていてね!」

テレスティアと打って変わってご機嫌なシルクがそう言う。

その満面の笑みにテレスティアはさらに不機嫌になっていく。

「旅行じゃないからね? 貴族の仕事だから! お迎えに行ったらすぐに帰ってくるからね? お土産になりそうな物があれば買ってくるから!」

そう諭すのがやっとだった。お土産と聞いて少しテレスティアの表情も次第に和んでくる。

「カイン様、約束ですよ? 忘れないでくださいね」

テレスティアの言葉にカインは何度も頷くのであった。

◇ ◇ ◇

夏休み初日。王城の前に数台の馬車が用意され、同行する従者や護衛の騎士が準備に追われている。

未だカインの専属の護衛騎士はおらず、聖女の出迎えもあって近衛騎士団から派遣されている。

カインの荷物は全てアイテムボックスに仕舞ってあり、準備が終わるのをメイドが淹れてくれた紅茶を飲みながらテラスで過ごしていた。

隣には見送りのためにテレスティアが座っている。

「カイン様と少しの間会えなくなるのが寂しいです……」

二人で雑談を交わしていると、そこに公爵家の紋章をつけた馬車が王城前につけられた。馬車から降りてきたのは旅装に包み込まれたシルクだった。

「カインくんお待たせ! もう少し用意がかかりそうだね。わたしも紅茶をいただこうかしら」

シルクはカインの対面に座り、そばに控えているメイドに視線を送る。何も言わずにメイドはすぐに紅茶の準備を始めた。

「わたしも行きたかったな……シルクが羨ましい……」

未だに同行を許可しなかった国王への愚痴を言いながら紅茶を口に含む。

三人いると会話は次第に弾んでいくが、用意が終わったようで騎士が呼びに来た。

「お待たせいたしました。準備が整いましたのでお願いいたします」

騎士に促されるように、カインとシルクの二人は席を立ち、馬車に向かう。

二人が乗る馬車は王家で用意された十人乗りの大型の馬車だ。馬が四頭繋がれており御者と護衛を近衛騎士団が担う。護衛の数も二十人と今までにないほど厳重だ。

馬車に乗り込むと、エリック公爵が見送りにきてくれた。

「カインくん、シルク、しっかり頼んだよ」

「はい、もちろんです」

「わかったわよ」

エリックの言葉に返事を返す。

「あ、それとカインくん。……まだ同衾は駄目だからね?」

「えっ?」

「はっ?」

「なっ……なんですって!」

エリックの言葉に一番反応したのはテレスティアだった。

「カイン様がシルクと同衾……わたしともしたことないのに、先に同衾されるなんて……」

ブツブツと下を向きながら呟くテレスティアに、すぐさまカインは否定する。

「テレス! それはないから! 大丈夫だから!」

「はっ! そうよね……。まだ婚約の発表もしていないのに同衾なんて」

「そうだよ。まだ発表もしていなのにそんなことできないから。ねぇ? シルクからも――」

横にいるシルクに視線を送ると、下を向いて真っ赤な顔をしたシルクが「カインくんと同衾……」と小言で呟いている。

「ちょっ、シルク! こっちの世界に戻ってきて!」

カインの言葉にはっとしたような顔をしたシルクが顔を上げる。

「テレス、ダイジョウブヨ。同衾ナンテシナイカラ」

その表情は頬を赤くし、頭の中はすでに妄想に入っているようだった。

「申し訳ないですがそろそろ……」

護衛の騎士が申し訳なさそうに口を挟んでくる。

カインが周りを見渡すと、すでに出発の準備が終わりカインの出発の合図を待つだけとなっていた。

「あ、すいません。ほら、シルクも馬車に乗って。乗ったら出発でお願いします」

カインはシルクを馬車に乗るように促し、シルクの後に乗り込んだ。

「それでは、しゅっぱーーつ!」

カインの言葉に先頭の護衛が進み始め、その後を馬車が進み始めた。

カインは窓から顔をだし、テレスティアに向かって手を振る。

「テレス、行ってくるね!」

「カイン様、気をつけてくださいね。お待ちしています!」

テレスティアの姿が見えなくなるまで、カインは手を振り続けた。

そして馬車はシルベスタの街へ向けて出発したのだった。