軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十四話 マルビーク領

「お世話になりました」

カインは元気な声で見送る人たちにお礼を言った。

昨日お世話になったゲレッタ家の人たちが見送ってくれる。

「手紙のことを頼んだ。それにしても本当に馬車で送らなくていいのか?」

サントスの問いにカインは首を縦に振る。

「冒険者として移動していますからね、それに一人のほうが早いですから。手紙は確実に両親に渡します」

ガルムとサラに宛てた手紙を懐に仕舞い、カインは最後に頭を下げ「次は家族と一緒で」と言ってから背を向けて歩き出した。

屋敷に来るときは馬車だったこともあり、街を眺める余裕はなかったが、一人で歩くことによって、この街が栄えているのがよくわかった。

朝から人々が行き交い、露天も数多く見受けられた。

「いい街だな……。今度は母上とレイネ姉さまを連れてこないとな」

カインは呟きながら街並みを抜けて門へ向かう。

門を抜け街道をマルビークに向けて歩きはじめる。そして人がいなくなったことを確認し 飛翔(フライ) で一気に飛び上がる。

地上から数十メートルの高さを街道に沿ってカインは飛んでいった。

マルビーク領が近づくにつれ街道は護衛を連れた馬車が行き交うようになってきた。

そして目的地であるマルビーク領都が見えてきた。

マルビーク領都は山々に囲まれた場所にある。街の後ろは山に囲まれており、いたるところから煙が立ち上っている。

「もしかして……温泉?」

カインは前世の記憶を持ち、元日本人として風呂は人一倍好きだった。そして温泉にも目がない。

もしかしたら温泉に入れるかもと期待しながら、少し離れたところに降り立ち領門に向けて歩き始めた。

領門では門番である衛兵が、積荷の検査を行い、許可を得てから通行している。

カインは並んでいる列の最後尾に並び、少しずつ進んでいった。

「よし次! みない顔だな? その格好は冒険者か?」

カインの番となり、身なりを眺めて衛兵が問いかけた。

「はい、冒険者です。この街に来てみたくて一人で旅してきました」

カインは懐からギルドカードを提示する。 金色(ゴールド) に輝くAランクのカードを目の当たりにして衛兵は驚いた。

「その年でAランクとは……。荷物は……それだけか。よし、通っていいぞ」

衛兵の許可をもらい、カインは門を抜けていく。

街は公爵領という割には、そこまでは大きくなかった。ただ、街中を歩くと、温泉宿と思われる建物が並んでいる。

宿の前では呼び込みをしている人が多くいた。

「お客さん! うちの温泉は最高だよっ!? 是非入っていって」

「こっちのほうがいい温泉があるよ~!」

呼び込みの客引きを切り抜けながら、カインは街の中を眺めながら進んでいく。

「こんなにいっぱい温泉宿があったら、どこがいいかわからないよ……」

すでに通った通りだけで既に二十軒を超える宿が並んでいた。

「うーーん。どこがいいかわからないや。あ、ギルドで聞いてみるのがいいか」

この街の宿については、その街の人に聞くのが一番だと思い、カインは通行人にギルドの場所を聞き小走りで向かった。

ギルドは街の中心地区に剣と盾の看板が掲げた建物を構えていた。規模は冒険者の街ドリントルには及ばないまでも立派な佇まいだ。

カインは両扉を開け中に入る。一瞬、中にいる冒険者達からの視線が集まるが、子供だと分かるとすぐに外れた。

そのまま空いている受付嬢の前に立ち、声を掛ける。

「すいません。今日、この街に来たんですが、お薦めの温泉宿ってどこですかね?」

受付嬢は依頼かと思っていたのが、温泉宿を聞きにきたことに笑みを浮かべる。

「――温泉宿ですか……。冒険者はランクによって紹介できる宿が変わりますけど」

「登録ならしてます。冒険者カード出しま――」

「邪魔だよ、ガキがっ。 鉄(アイアン) が風呂だと? 贅沢だよっ! 風呂なら呼び込みの奴らに聞いてこいっ」

カインが懐からカード出そうとしたタイミングで、後ろから如何にもガラの悪い声が掛かる。

またテンプレ的な絡みかと、ため息をつきながら振り返れば、大柄で戦士のような出で立ちの、少し酔っているらしい顔の赤い冒険者の男がいた。

「……君、すぐに出て行ったほうがいいよ」

後ろの受付嬢から声を掛けられるが、カインは無表情のまま男に言葉を返す。

「今、聞いているところなんで、邪魔しないでもらえますか? 終わったらすぐに出ていきますから」

カインは気にした様子もなく、酔った男に一言告げると、また受付嬢の方を向いた。

その言葉に酔って赤くなった顔が、更に赤くし男は怒り始めた。

「このクソガキがっ!」

男が手を振り上げた途端、カインは一瞬で振り向き、男の足を払った。そして正拳を倒れた男の顔の前につき出す。

「まだやりますか……?」

カインの一言に、どうして転がったのか理解できていない冒険者は、呆気に取られていた。

もちろん野次馬気分で見ていた冒険者たちもだ。

そして懐からギルドカードを出し、カウンターに置く。

目の前の少年は、まだ子供にしか見えないが、出されたカードは 金色(ゴールド) に輝いていた。

「え、え、Aランク!? 失礼いたしました」

流石に受付嬢も驚きを隠せない。ホールが静まり返っていたこともあり、受付嬢の声はホール中に響いた。

カインに絡んだ冒険者や野次馬達も同様に驚いた。

Aランクということがバレてしまったことにカインはため息をつく。

周りの冒険者たちが小さい声で話し合っているのを聞きながら、カインは受付嬢に話しかける。

「多少金額は高くてもいい。いい風呂と料理があるところをお願い」

「は、は、はいっ! 少しお待ちを。すぐに資料をお持ちいたします」

急によそよそしくなった受付嬢は、急いで席を立ち資料を取りに行った。

すぐに資料を用意してくれ、説明を始める。

「Aランクでしたら、こちらの宿をお薦めしております……。露天風呂もあり、食事も評判が良いです。ギルドカードをご提示いただければ割引になると思いますので」

「うん、そこでいいよ」

カインは周りから受ける視線を感じながら、案内図をもらい早々にギルドを出た。

「酒飲むとなんでこう子供に絡むのかな……」

紹介された宿はギルドから少し離れたところにあり、街中を色々と物色しながら歩いていく。

そして、紹介された宿の手前でカインは路地に入った。

そう、後ろから数人が尾行していたからだ。

追ってきた数人が路地に入ったところでカインは振り向き笑顔を向ける。

「なんか用かい?」

驚きもせず、笑顔を向けられた冒険者たちは立ち止まり剣を抜いた。

先ほど転ばされた戦士風の男を含め五人いる。

「ガキがAランクだって? ふざけんなよっ。イカサマしたか誰からかの預かりもんだろ? しかもさっきはよくも恥をかかせてくれたな?」

「このガキ、いい宿に泊まろうとしてたから、たっぷりと持ってんだろ? さっさと出せよ。そうすれば半殺しで許してやるよ」

五人がニタニタと笑いながら近づいてくる。

カインは早く宿で露天風呂に入りたいという欲求に駆られ、すぐにケリをつけることにする。

すでに相手は剣を抜いており、容赦するつもりもなかった。

一瞬にして一人の男の懐に入り、腹に拳をめり込ませる。バグと思われるほど圧倒的なステータスを持つカインとしては、普通の人が見えないスピードで動くことができるからだ。

「グホッ」

一人がカインに殴られ、大通りまで吹き飛ぶ。

路地からいきなり人が飛び出し、大通りでも騒ぎが起こり始めた。

「よし、次!」

カインはそう言って、次の男に回し蹴りをいれる。

「グハッ」

ギルドで絡んできた男以外を次々と大通りで投げ出した。

「あと、お前だけだね……」

カインの圧倒的な強さに震えた男は、手にしている剣で斬りかかる。カインの頭を目掛けて。

頭に届いたと思った瞬間に、カインは人差し指と中指の二本で剣を挟んで止めた。

「こんなもんで僕をやれると?」

その一言で、男は剣を投げ出し尻餅をつきながら後ずさる。

「バ、バケモノ……」

「こんな子供に絡んでおいてバケモノとか……。ひどいよね?」

カインは尻餅をついて丁度いい高さにある顔に蹴りを入れた。そして男も大通りまで吹き飛んでいく。

「まったく。温泉が待ってるのに……」

小さく愚痴って大通りに戻った。

路地を抜け大通りに戻り、宿に向かおうと思ったところで声を掛けられた。

「そこのお前だっ! この者たちをやったのはお前だろ?」

振り向くと衛兵が寄ってくる。

「こいつら、ギルドから尾行してきて、金を出せとか言ってきた挙句、最後には剣で斬りかかってきたんですよ? 正当防衛でしょ。そいつらに事情は聞いてください」

カインは早く温泉に入りたい欲求から、まくしたてるように一息で説明をして、温泉宿に向かおうとしたときに、さらに増援が来た。

今後は衛兵ではなく、五人の騎士だった。その中でも豪華な鎧を着た一人が前に出てくる。まだ成人したばかりの年頃で薄紫色の短髪の青年だ。

衛兵から状況を聞いたあと、カインに近づいてくる。

「私はデリータ・フォン・サンタナだ。状況はどうあれ、この街での暴行は許せぬ。一度ついてきてもらおうか」

そのまま逃げることもできたが、『サンタナ』という名前を出したことで、カインは素直に頷いた。

(この人絶対にシルクの家族だよな……)

カインがデリータの言葉に従順の意思を表したことにデリータは満足する。

「うむ。そう言ってもらえると助かる。おい、そこに転がっている奴らを運べ! こいつらも連れて行く」

デリータの指揮で、転がって気を失っている冒険者たちを衛兵が運んでいく。

「それでは君も付いてきてもらおうか。悪いようにはせん。ただ、両隣には付いてもらうが」

カインの両隣には騎士が立ち、デリータの先導の元、歩いていく。

(温泉入らせてもらえるかな……)

カインの頭の中にはすでに温泉しかなかった。

そして数刻後、カインは牢屋に入っていた。