軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第85話 S級魔石の使い道と命の天秤、あるいは最高会議における悪魔の抽選会

ダンジョンゲートが世界に出現してから、一年と五ヶ月。

マリアナ海溝でのリヴァイアサン討伐という、人類史における最大のレイドバトルが終結してから、すでに数ヶ月の時が流れていた。

世界は今、かつてないほどの安定と、そして水面下の猛烈な資源獲得競争の只中にあった。

リヴァイアサンという規格外の存在が遺した報酬は、これまでの常識を覆すほどの質量と品質を誇っていた。

SSS級からA級に至るまで、山のように積み上げられた高純度の魔石、そして現代科学では解析不能な未知の素材の数々。

それらは討伐に参加した探索者たちの権利として分配されるのが本来の筋だが、現状では「現金による給付金」という形で、一時的な支払いがなされているに留まっていた。

理由は明白だ。

「価値が不明」だからだ。

F級やE級の魔石であれば、エネルギー資源としての相場が形成されている。だが、A級以上の魔石や、神話の怪物が落とした固有素材となれば話は別だ。

現在、世界中で覚醒しつつある『錬金術師』や『ポーション作成師』といった生産系のユニークスキルを持つ者たちであれば、それらの素材を活用して強力なアイテムを作り出すことは可能だろう。

だが、その素材一つで小国が買えるほどの価値を持つかもしれない状況下において、各国の政府がやすやすと現物を探索者個人の手に渡すわけがないのだ。

結果として、膨大な報酬の現物は、日米が主導する国際公式探索者ギルド連盟――I・G・Uの厳重な管理下にある巨大な地下金庫に、お預け状態として凍結されていた。

そして今日、その凍結された至宝の「使い道」を決めるための、最高レベルの会議が開催されることとなった。

場所は、ニューヨークの国連本部地下に増設された、I・G・Uの最高意思決定機関専用の会議室。

円卓を囲むのは、アメリカ合衆国大統領、日本国総理大臣、ロシア大統領、中国国家主席、イギリス首相、フランス大統領、そして中東の王族をはじめとする、世界の文字通りのトップたちだ。

そして、その円卓の特等席――議長席のすぐ隣に座っているのが、I・G・U最高技術顧問にして、ギルド「アルカディア」のマスターである俺、八代匠だった。

「――以上が、現在I・G・Uで保管しているリヴァイアサン討伐報酬の目録となります」

事務局の職員が、震える声で読み上げを終えた。

スクリーンに表示されたリストには、見たこともないアイテム名と、信じがたい魔力数値の羅列が並んでいる。

「……信じられん量だ。これだけの富が、ただ倉庫で眠っているとはな」

フランス大統領が、ため息交じりに呟く。

彼の目には、喉から手が出るほど欲しいという欲望が隠しきれていなかった。

他の首脳たちも同様だ。彼らはこの莫大な資源を自国の利益にどう結びつけるか、その皮算用で頭がいっぱいなのだ。

「しかし、ヤシロ殿」

アメリカ大統領が、重々しい口調で俺に話を振ってきた。

「保管しておくのが安全だという君の主張は理解している。

だが、市民や探索者たちからは『現物を分配しろ』という声が日増しに強くなっているのも事実だ。給付金だけでは、彼らの強欲な胃袋を満たすことはできない。

特に、リヴァイアサンからドロップしたという『S級魔石』。これが計30個あるそうだが……。

我々には、このS級魔石が一体どれほどの価値を持ち、何に使えるのかが全く想像もつかないのだ。

君の『眼』と知識で、この石の使い道を教えてもらえないだろうか」

大統領の言葉に、全首脳の視線が俺に突き刺さる。

俺は手元に置かれたグラスのミネラルウォーターを一口飲み、ゆっくりと立ち上がった。

彼らは知らないのだ。

S級魔石という存在が、単なるエネルギー資源の枠を完全に逸脱し、現実世界の法則そのものをねじ曲げる「奇跡の触媒」であることを。

「ええ、お答えしましょう」

俺は室内の照明を少し落とし、ホログラム・プロジェクターを操作した。

円卓の中央に、輝くような純白の結晶――S級魔石の立体映像が浮かび上がる。

「現在、我々の手元には、リヴァイアサンから得られた30個のS級魔石があります。

これを、我がアルカディアが擁する最上位の『錬金術師』や『生産特化職』のユニークスキル持ち、そして私の知識と技術を掛け合わせることで、大きく分けて『3つ』の規格外アイテムを創造することが可能です」

「規格外のアイテム……」

日本の総理が、ごくりと唾を飲み込む。

「一つずつ説明します。

まず一つ目は、【 万能修復液(リペア・エリクサー) 】です」

俺がスワイプすると、ホログラムが白銀に輝く液体が入った小瓶の映像に切り替わった。

「S級魔石を特殊な工程ですり潰して液状化させ、その膨大な魔力を触媒として用います。そこに『あらゆる物質を新品に戻す』……すなわち『時間の巻き戻し』という概念の術式をインプットして作られます。

使い方は極めてシンプルです。壊れた物に、この液をかけるだけ」

「直る……というのか? 接着剤のように?」

イギリス首相が訝しげに尋ねる。

「接着や補修といった次元の話ではありません。エントロピーの法則を完全に無視し、局所的に時間を巻き戻して『壊れる前の新品の状態』に完全に復元するのです。

残念ながら、人間などの生物には使用できません。魂や生命活動の時間を巻き戻すことは、S級魔石の出力でも不可能ですから。

ですが、無機物……『物』であれば、何でも直すことが可能です」

俺は首脳たちの顔を順に見据え、彼らの想像力を刺激する言葉を投げかけた。

「想像してみてください。

戦闘で墜落し、完全にスクラップの山と化した最新鋭のステルス戦闘機。これに数滴垂らせば、工場出荷時の状態に戻ります。

火災やテロで失われた歴史的建造物の瓦礫にかければ、一瞬で再建される。

……さらに言えば、核廃棄物でメルトダウンを起こし、人が近づくことすら不可能な原子炉の炉心でさえも、ドローンの遠隔操作でこの液を散布すれば、事故が起きる前の新品同様の炉心へと戻すことができるのです」

「なっ……!?」

「原子炉のメルトダウンを……無かったことに……!?」

ロシア大統領と日本総理が、同時に息を呑んで立ち上がりかけた。

当然の反応だ。

兵器の修復コスト削減などというチンケな話ではない。現代社会が抱える後戻りできない致命的な物理的損失を、たった一瓶の液体で「リセット」できる。

それは国家の安全保障と経済を根底から覆す、究極の免罪符だ。

「バ、バカな……そんな魔法のような……いや、これが魔法なのか」

フランス大統領が震える手で顔を覆う。

「これが一つ目の選択肢です。

続いて、二つ目に行きましょう」

俺は間髪入れずに次のホログラムを表示させた。

今度は、内部で青白い嵐が渦巻いているような、美しくも恐ろしいクリスタルの球体だ。

「二つ目は、【 広域気象制御石(ウェザー・コア) 】。

この球体を特定の場所に設置し、マナを込めて起動すると、指定した範囲――おおよそ都市一つ分、半径数十キロメートルの範囲の天候を、一ヶ月間にわたって完全に支配し、固定することができます」

「天候の……支配だと?」

中国の国家主席が、鋭い目つきで身を乗り出した。

「はい。

例えば、農業地帯に設置して『恵みの雨』と『適度な日照』を完璧なバランスで降らせ続けることも可能です。どんな不毛な土地でも、一ヶ月で穀倉地帯に変えることができる。

逆に、巨大な台風やハリケーンが直撃するルートに設置し、そのエリアだけを『絶対無風の快晴』に固定すれば、自然災害の被害をゼロに抑え込む防災の要となります」

農業生産力の爆発的向上と、自然災害の完全無効化。

国家を運営する者にとって、これほど魅力的な響きはない。天候に左右されるという人類古来の弱点を、石一つで克服できるのだから。

「……だが、ヤシロ殿」

アメリカ大統領が、低い声で尋ねてきた。

「それは『平和利用』の側面だろう?

もし、その石の設定を……悪意あるものに変えたら、どうなる?」

「ご明察です、大統領」

俺はニヤリと笑い、その恐るべき軍事転用の可能性を口にした。

「このウェザー・コアは、当然ながら『兵器』としても運用可能です。

例えば、特殊部隊を使って敵国の首都の中心部にこれを潜入させ、『絶対零度の猛吹雪』や『視界ゼロの豪雨』、あるいは『竜巻を伴う暴風雨』に設定して起動する。

……一ヶ月間、その都市は完全に機能不全に陥ります。太陽の光は一切届かず、交通網は麻痺し、経済活動は停止する。一発のミサイルも撃たずに、敵国の心臓部を兵糧攻めにすることができる、究極の環境兵器です」

議場に、凍りつくような沈黙が落ちた。

核兵器に次ぐ、いや、放射能汚染がないという点では核以上に使い勝手の良い、最悪の戦略兵器。

中東の王族や、軍事力を背景にする国々の代表の目に、危険な光が宿るのが分かった。

「これが二つ目です。

そして最後……三つ目の用途についてお話ししましょう。

恐らく、ここにいらっしゃる皆様にとって、最も価値があり、最も喉から手が出るほど欲しがるものになるはずです」

俺の言葉に、首脳たちはピクリと肩を震わせた。

国家の復興、あるいは最強の環境兵器。それら以上の価値があるものなど、存在するのか。

俺はホログラムを切り替えた。

空中に浮かび上がったのは、まるで凝縮された血の雫のような、不気味なほどに美しい「赤い宝石」だった。

「三つ目は、【身代わりの 聖石(サクリファイス・ストーン) 】。

これは、対象者の『命の保険』となるアイテムです」

「命の……保険?」

「はい。

この赤い宝石を身に着けている所持者が、暗殺による凶弾、テロによる爆撃、あるいは搭乗している飛行機の墜落といった『外因による死(即死級のダメージ)』を受けた瞬間……この石が自動的に発動します」

俺は彼らの目を一人ひとり見据えながら、ゆっくりと、その絶対的な効果を告げた。

「石が発動すると、対象者の魂と肉体にかかる因果律を強制的に改変し、『死んだ』という事実そのものを『無かったこと』にします。

そして、所持者を無傷の状態で、その場に蘇生させるのです」

「……は?」

イギリス首相が、間の抜けた声を出した。

「そ、蘇生……!? 死を無かったことにするだと!?」

「そんな神の領域の奇跡が、石一つで可能なのか!?」

「ええ。ただし、病気や老衰、寿命といった『内因性の死』には効果がありません。それは運命の寿命ですから。

また、一度効果を発動すると、この石は役目を終えて砕け散り、消滅します。

ですが……交通事故、狙撃、毒殺、爆発。あらゆる『不慮の事故や殺意』から、1回だけ確実に、貴方たちの命を守り切ることができる」

俺の説明が終わるか終わらないかのうちに、会議室の空気は一変した。

それまでの「国家元首としての冷静な損得勘定」という仮面が、音を立てて剥がれ落ちたのだ。

彼らは世界の頂点に立つ権力者だ。

金も、名誉も、軍隊も、すべてを持っている。

だが彼らが日常的に最も恐れているものは何か?

それは、狂信者によるテロ、政敵による暗殺、あるいは不運な事故による「突然の死」である。

どんなに屈強なSPを何百人侍らせていようと、防弾ガラス張りの車に乗っていようと、死の恐怖からは逃れられない。

権力の座に長く居座れば居座るほど、その恐怖は濃くなる。

それが、この親指ほどの赤い宝石を一つポケットに入れておくだけで、完全に払拭されるのだ。

「残機が1増える」。

ゲーマーにとっては当たり前の概念が、現実の彼らにとってどれほどの福音となるか、想像に難くない。

「ヤ、ヤシロ殿……!」

真っ先に立ち上がり、机をバンッと叩いたのは、先ほどまで静かにしていた中東某国の王族だった。

「その『身代わりの聖石』! 素晴らしい! これこそが真の至宝だ!

リヴァイアサンからドロップしたS級魔石は、全部で30個あると言ったな!

ならば、30個! その30個全部を、身代わりの聖石に加工しようではないか!!」

「賛成だ!!」

ロシア大統領が怒号のように同意する。

「戦闘機や気象など、後からどうにでもなる! 我々指導者の命あってこその国家だ! 30個すべてを聖石にするべきだ!」

「いや、我が国も同意見だ!」

「30個と言わず、もっと作れないのか!?」

我先にと声を上げる首脳たち。

先ほどまでの、原子炉のメルトダウン修復や、農業革命の話など、完全に彼らの頭から吹き飛んでいた。

結局のところ、人間の最も根源的な欲望は「自身の生存」なのだ。

見苦しいまでに剥き出しになった権力者たちのエゴ。

だが、それを冷たく制止するのが俺の役目だ。

「……ちょっと待って下さい、皆さん」

俺はわざとらしくため息をつき、両手を挙げて彼らの熱狂を鎮めようとした。

「30個全部を聖石にする? 冗談じゃない。

それはあまりにも『近視眼的』で、愚かな選択です」

「愚かだと……? 命を守ることが愚かだと言うのか!」

アメリカ大統領が不快そうに眉を寄せる。

「命を守るだけでは、この世界は生き抜けませんよ、大統領。

思い出してください。我々には【黄昏の港町アジール】という、異世界と繋がる巨大なハブが存在することを」

俺はホログラムの映像を消し、彼らを落ち着かせるように諭した。

「S級魔石というのは、単なる素材ではありません。

アジールにいる異世界の商人たちや、上位次元の存在と取引するための『 超高額紙幣(カレンシー) 』でもあるんです。

今後、彼らがアジールの市場に、地球の常識を覆すような『神話級アーティファクト』や、人類の戦力を根本から引き上げる『規格外の装備』を持ち込んできた時……。

我々の手元に、支払うためのS級魔石が一つも残っていなかったら、どうしますか?」

その言葉に、首脳たちの顔にハッとした表情が浮かんだ。

「せっかくの最強の武器や、人類を救う技術を、資金不足で他国や異世界人に買い叩かれて見送る。

そんな失態を犯せば、それこそ国の存亡に関わりますよ。

強い装備やアーティファクトをアジール経由で入手できる可能性を考えると、S級魔石の半分は『流動資産』として、そのままの形で残しておくべきです」

俺はきっぱりと断言した。

「なので、30個のうち、加工に回していいのは半分の『15個』までです。

残りの15個は、今後の緊急時の取引、あるいは未知の事態に備えて、I・G・Uの金庫で厳重に保管しておきましょう。

これ以上の譲歩はしません。私が技術顧問としてストップをかけます」

俺の強硬な姿勢に、首脳たちは顔を見合わせ、やがて渋々と頷き始めた。

アジールの存在と、そこに眠る未知のアイテムの価値は、彼らも身をもって知っている。手持ちの弾をすべて使い切るのが悪手であるというロジックには、反論できなかったのだ。

「……わ、わかった。ヤシロ殿の言う通り、15個は保管に回そう。

君の判断に間違いはないからな」

アメリカ大統領が悔しそうにしながらも同意する。

「それで、加工する15個の分配についてだが……」

ロシア大統領が、鷹のような鋭い目で議場を睨み回した。

「我が国は、是が非でもその『身代わりの聖石』が欲しい。

1個欲しい。

対価は払う。とりあえず、100億ドル(約1兆5000億円)出そう。足りなければさらに上乗せしてもいい」

「100億ドルだと!? ふざけるな、そんなはした金で独占できると思うな!」

中東の王族が鼻で笑い、机を叩いた。

「こっちはオイルマネーがある! いくらでも買うぞ! 500億ドルでも、1000億ドルでも、言い値で払ってやる!

15個すべて、我が国が買い取ろうではないか!」

「なんだと!? 金で全てが解決すると思うなよ!

これはI・G・Uの共有財産だ!」

「我が国にも配分されるべきだ! 中国の貢献を忘れたか!」

議場が再びカオスと化した。

「命の保険」がたったの15個しかないと決まった瞬間、彼らはなりふり構わず札束で殴り合う醜いオークションを始めようとしたのだ。

国家のプライドも外交の礼儀もなく、ただ「自分が死なないための石」を求めて、何兆円という金を平然と口にする。

「……待って下さい」

俺はわざと大きくマイクを叩き、ノイズで彼らの口論を遮った。

「札束ビンタで買うのは駄目です。

そんなことをすれば、金を持たない国との間に決定的な亀裂が生まれ、I・G・Uは崩壊しますよ。

我々はリヴァイアサンを全員で倒したはずだ。金だけの問題じゃない」

「では、どうやって決めるというのだ! この15個という半端な数を!」

フランス大統領が苛立たしげに叫ぶ。

「公平に、抽選でもしてください」

俺がそう言い放つと、全員の目が点になった。

「ちゅ、抽選……?

一国の命運を、くじ引きで決めるというのか……!?」

「ええ。それが一番角が立たない。

I・G・U加盟国すべてに平等に権利を与え、厳正なる抽選で15の当選枠を決める。

……ただし」

俺はここで、悪魔のスパイスを一滴だけ落とすように、ゆっくりと口角を上げた。

「それでいて、抽選結果の権利を『別の誰かに譲る』のは、ありにしましょうね」

「……譲る?」

「そうです。

自分の命が惜しくない、あるいは国家の財政が火の車で現金が喉から手が出るほど欲しい国は、当選した『聖石を受け取る権利』を、他国に売ればいい。

あるいは、他国に無償で譲って、莫大な『外交的な貸し』を作ってもいい。

当選枠の譲渡・売買は自由とする。

これなら、オイルマネーを使いたい国は、当選した小国から直接交渉で買い取ればいいだけの話です。

I・G・Uの公式の場が荒れることはありません」

俺の提案に、首脳たちの目の色が変わった。

なるほど。

表向きは「公平な抽選」というクリーンな形を保ちながら、裏では「権利の売買」という名目で、結局は金と権力による外交ゲームができるのだ。

金持ちの国は裏で小国に圧力をかけて権利を買い集めればいいし、小国は一発当てれば国家予算が潤う宝くじになる。

誰も損をしない、極めて政治的な抜け穴。

「……ふむ。

ヤシロ殿がそういうなら、そうしようか……」

日本の総理が、俺の意図を察したように、しかしどこか疲れたような声で同意した。

彼もおそらく、日本が当選した枠をどうやってアメリカに高く売りつけるか、あるいは自国の防衛のために残すか、頭の中で計算を始めているのだろう。

「異存はありませんね?

では、残りの15個はアジール用の予備資産として凍結。

加工用の15個は、後日厳正な抽選会を行い、その後の権利のやり取りは各国の裁量に任せる。

これで本日の議事は終了とします」

俺はそう締めくくり、足早に通信を切断してVRゴーグルを外した。

現実のマスターオフィスに戻り、大きく息を吐き出す。

「……ふぅ。どいつもこいつも、命が惜しい老人ばかりで助かるよ」

俺はソファに深く沈み込みながら、一人でほくそ笑んだ。

これでいい。

俺が「譲渡・売買の自由」を提案したのは、彼らに外交ゲームを楽しませるためだけではない。

市場に「権利」という流動性を持たせることで、俺たちアルカディアが裏から介入する余地が生まれるからだ。

例えば、当選したものの金に困っている小国から、俺が直接権利を買い叩き、それをさらにアメリカや中東に恩を売りながら高値で転売する。

あるいは、俺自身のために『身代わりの聖石』を数個、誰にも知られずに確保する。

抽選というブラックボックスを通せば、誰が最終的に石を手に入れたのか、追跡は極めて困難になる。

「世界のトップが、たった15個の石ころに踊らされる……。

滑稽だが、これが人間の真理だな」

俺は冷え切ったコーヒーを喉に流し込み、次なる「アジールでの買い物」に思いを馳せた。

残した15個のS級魔石。

これを使えば、どんな理外のアーティファクトが手に入るのか。

俺の『ダンジョン・フロンティア』攻略は、まだまだ果てしない欲望と共に続いていく。