作品タイトル不明
第41話・条件
「アリア! 無事かっ!」
「リカルド様!」
アリアはディスタルに回復魔法をかけながら、顔だけリカルドの方へと向けた。
ディスタルは瀕死の状態で、治療を止めればすぐに息が止まってしまいそうな状態だったのだ。
「コウリンとカゲツヤが助けてくれたので、大丈夫です!」
アリアはそう答えたが、リカルドはアリアがディスタルの治療を行なっている事に気づくと、顔をしかめた。
リカルドの隣に居たクリスが、
「何してるの、姉様! そんな奴、助けなくてもいい! 放っておいたらいいんだ! 死んでしまえばいいんだ!」
と叫び、アリアにディスタルの治療を止めさせようとする。
「駄目よ、クリス! 今治療を止めたら、この人は死んでしまうの! 私はもう、誰にも死んでほしくないの!」
「でも、そいつは悪い奴だ! ひどい奴だ! さっきだって、乱暴に姉様をさらって行ったじゃないか! それをわかっててやってるの?」
「わかってるわ! それでも、私はこの人に死んでほしくないの!」
アリアがそう言い切ると、
「うん、わかった」
と、リカルドが頷いた。
「アリアが優しい事を、僕は知っているし、わかっている。僕は、そんな君が好きなんだ。ただし……」
リカルドは腰に下げていた剣を引き抜くと、ディスタルの喉元に突きつける。
「ただし、ディスタルが降伏する事――。それが条件だ」
「リカルド様!」
「アリア、もう治療は止めても大丈夫だ。ディスタルから離れなさい。ディスタル、もう起きているんだろう?」
リカルドがそう言うと、目を閉じていたディスタルは、フッと笑って目を開いた。
「バレていたか」
「あぁ、すぐに気付いたよ。アリア、ディスタルから離れなさい。もう治さなくてもいいから」
ディスタルの喉元に剣を突きつけたまま、リカルドは言った。
アリアはリカルドの言葉通り、ディスタルから離れる。
「ディスタル、降伏しろ。お前たちウクブレストは、フレルデントには勝てはしない。もう理解できただろう」
「あぁ、そうだな」
ディスタルが素直に頷いた事に、アリアは驚いた。
だがディスタルは、ただし、と条件をつけようとする。
「お、お前! 自分の立場をわかっているのか?」
降伏するのに条件を出すなんて厚かましい、とクリスは怒ったが、リカルドは深いため息をついた後、聞いてから考える、と答えた。
「俺を、ウクブレストに戻してくれ」
それが、ディスタルが出した条件だった。
ディスタルの身柄は、今はフレルデントの王宮の一室にあった。
途中で治療を止めたせいで、ディスタルは上手く体が動かせない上、何人もの兵士が彼の見張りについていた。
「そんな事、聞く必要ないですよ! あいつは悪者だ! このまま処刑してしまえばいいんだ! 今だって、牢屋にぶち込んでやればいいんだ!」
爵位を奪われ、屋敷を奪われ、姉の喉を潰され、さらに目の前でさらわれた、ディスタルに恨みを持つクリスはそう叫んだが、実際のところ、いくら敵だとはいえ、一国の王子を処刑するのは難しかった。
とはいえ、このまま釈放すると、また他の国を責める可能性もある。
フレルデント王宮では、ディスタルをどうするかという会義が行われていた。
「さて、どうしようか、リカルド」
フレルデント王が困ったように言った。
「そうですね……僕に任せてくださるというのなら……本人の望み通り、ウクブレストに戻すのがいいんじゃないかと思います」
「そうか。では、クリスが納得できるように、その理由を説明してやってくれないか」
「えぇ、わかりました」
リカルドは頷き、クリスをちらりと見ると、話を続けた。
「ウクブレストに向かわせたステファンから、報告がありました。ウクブレスト王、王妃、ターニアを救い出したとの事です。だから僕は、ディスタルをどうするかは、ウクブレスト側が決めればいいと思うのです」
「なるほど。では、ディスタルをウクブレストに戻した後、ディスタルが同じ事を繰り返したら、どうする気だい?」
「そんなの、決まっています。同じ事を繰り返し、また王や王妃、そしてターニアが、ディスタルに同じ事を繰り返させるというのなら……今度こそ、俺があの国ごと滅ぼしてやりますよ」
そう言ってリカルドは笑ったが、その目は全く笑っておらず、それを見たクリスは背筋がぞっとした。
リカルドは、おそらく本気で言っているのだろう。
彼は、姉であるアリアを愛してくれた自慢の義兄ではあるが、クリスは最近彼に対し、底知れない何かを感じるようになっていた。
「どうだろう、クリス。私は、リカルドの言う通り、ディスタルはウクブレストに戻ってもらうのがいいのではないかと思うのだが」
フレルデント王に問われ、クリスは頷いた。
もしも同じ事が繰り返されたら、リカルドは容赦なくウクブレストを滅ぼすのだろう。
ある意味、ウクブレスト側にとっては、フレルデント側にディスタルを処分してもらった方が良かったのかもしれなかった。