軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

府中ダンジョンマスター、蓮見朝陽の場合(三人称)⑥

しばらく峯川の件は不安があったが、1週間経ち、2週間経ち、1ヶ月も時間が経てば、その感情は薄れていった。

ダンジョンを訪れた蓮見に対して峯川は終始諭し続けた。

今なら間に合う。2人を解放して自首して、と。

2人はすでに廃人になってしまっているから、解放してももう手遅れなのだが、心優しい峯川は自分のことより2人の事を優先した。

けれども、その言葉が蓮見に響く事は無かった。

「自覚がないようだから言うけどさぁ……峯川さんは優しい自分に酔ってるんだよ。オレがいじめられてた時に何回も助けてくれたけど、根本的な解決をしようとしなかった。数回手を差し伸べて、それだけで満足してた。常に優しさを振りまける相手を無意識に探してたから。オレがいじめられなくなっちゃうと助ける相手がいなくなっちゃうもんね。

今だってそうだ。2人が手遅れって目に見えてわかるのに庇ってるのは、そういう自分に酔ってるから。結局は自分のためにやっている事だから、言葉が軽い。

で、なんだっけ。自分はいいから2人を助けて?嫌でーす。峯川さんも2人も死ぬまでここから出す気ないから」

峯川さんは最後にごめんねと一言謝って、もう喋る事は無くなった。

こうして、ようやく蓮見は平穏な日常を取り戻した。

それからは本当に平和だった。

通信制の数少ない登校日はちゃんと学校に行って、スポーツ大会や文化祭という行事に参加して、普通の友達もできた。

担任と親で行う2者面談は擬態薬で乗り切る。

うっかり死んじゃうかもしれないので、血は回復薬をかけながらなんとか取って挑んだ。

のびのびと過ごせているからか、勉強面も問題なく、中学生の頃よりも成績が上がっていた。

お金を自由に使えるようになったので、今まで有料だからと諦めていた本も読める。怒る人がいないから流行りのゲームだって買える。

過去最高に幸せな日々を更新し続けていた。

12月下旬。そんな蓮見の平穏な日常に危機が訪れる。

滅多にならないインターホンが鳴った。

2階の部屋から外の様子を伺うと、家のそばに怪しい黒い車が止まっている。

少し考えて、蓮見は居留守を使った。

その後2回ほどインターホンが鳴っても、ドアがノックされても、蓮見は息を殺して全力で無視した。存在感を無くすのには慣れている。

そのおかげか家に誰もいないと判断して来訪者は帰ったようだった。黒い車も走り去っていった。

警戒した蓮見は今日1日家から出ない事にした。

翌日、念の為窓から車が無いか確認してから家を出た。年末年始用の食材を買いに行くためだ。

近所のスーパーに出かけて戻ってくると、スーツを着た見知らぬ女が家の前に立っていた。

思わず足が止まる。

「この家になにか用?」

「 蓮見朝陽(はすみあさひ) さんですね。少々お話を伺いたくお尋ねしました。今お時間よろしいでしょうか?」

女は蓮見のフルネームを知っていた。

明らかに普通の人じゃない。

「全然良くないから帰って」

追い返そうとすると、女は蓮見に近づいてきた。

「見たところ、蓮見様はたった今お買い物から帰ってきたところでは?少しお話しするくらいなら可能だと思いますが」

「……帰ってって言ってるんだけど」

「そうですか……残念です」

女が手で合図すると、家の塀の裏から男が5、6人でてきた。女以外いないと思っていたので、驚いて逃げるのがワンテンポ遅れる。

「離せよ!」

買い物袋を手放して来た道を戻って逃げようとした時には男の1人に腕を掴まれてしまって、あっという間に蓮見は車に詰め込まれてしまった。

どこかを走っているようだが、車にはカーテンがかかっており、中から外の様子は見えない。

「オレをどうする気?」

「申し訳ございません。どうしても蓮見様とお話ししたくて強引な手を取ってしまいました。敵意はありませんのでご安心ください」

「じゃあ話を聞いたらさっさと解放してくれるわけ?」

「まずは自己紹介からしましょう。私、宮吉と申します。これが名刺です」

「特殊建造物対策局……?」

名刺には、所属と名前が書いてあった。

「ええ。これで少しは警戒心を解いてくれると嬉しいですね」

そんなこと言われても、蓮見は無理矢理車に連れ込まれているのだから、警戒心は解ける筈もない。

それに、蓮見は名刺に書かれている宮吉琉実という名前をどこかで聞いたことあるような気がした。

「お国の人間が誘拐みたいなやり方で連れてきて話したいことって何」

「ダンジョンが出現してからもうすぐ2年。最初はダンジョンを排除しようとしていた国の意向は、現在ではダンジョンから得られる資源を利用して日本を豊かにするという意見でまとまっています。

そのため、政府は国に協力してくれるダンジョンマスターを探しています」

「オレに関係ない話だね」

「いいえ。今回は府中ダンジョンのマスターである蓮見様の協力を得るために来ましたので」

「オレがダンジョンマスターだなんて……なにか勘違いしてない?府中ダンジョンは確かいかにもチャラそうな男がダンマスなんだろ?」

「ああ。 繰上宇宙(くりがみそら) は違いますよ。だって彼、もう死んでいますから」

「え?」

「貴方もご存知でしょう。ダンジョンのコアが破壊されたらダンジョンマスターは死ぬ。逆にダンジョンマスターが死んだらダンジョンは消える。繰上宇宙が死んでいるのに府中ダンジョンはまだ存在しているので、彼はダンジョンマスターじゃ無かったんです。

9月に新しくダンジョンができて、私頑張って協力してくれそうなダンジョンマスターを探したんですよ。でも、どこもうまくいかなくて、既存のダンジョンを改めて調べてみる事にしたんです。そしたら繰上が死んでいるという事がわかって歓喜しました。

だって、他にダンジョンマスターがいるということでしょう?それも、世間に存在がバレてないダンジョンマスターが。

だから府中ダンジョンについてたくさん調べたんです」

女は蓮見の返事を待たずにつらつらとダンジョンの事を話している。

蓮見の目から見て女は、とても正気とは思えなかった。

「そして調べてみると面白いことがわかりました。まだダンジョンが侵入禁止だった頃。貴方と同じクラスだった男子中学生3人が行方不明になったそうですね?男子中学生がダンジョンに入って行くところを見たと教師に証言した女子生徒も半年前に行方不明になっている。

他にも消えた人間が居ないかと調べてみると。貴方の父親は1月ごろから会社に出社しなくなっていました。不思議ですね、全部貴方の周りで起こっている事です。

私は確信しました。蓮見朝陽こそが府中ダンジョンのマスターだと。

安心してください。貴方がダンジョンを使って何をしたかは問い詰めるつもりはありません。ただ、我々に協力をしてくれればいいんです」

「普通に嫌だけど。てかオレダンジョンマスターじゃないし」

「貴方が協力してくれると言ってくれるまで、説得し続けます。時間はたっぷりありますから」

要するに、蓮見が頷くまで解放する気はないという事だった。

必死に逃げる方法を考える。

睡眠薬は持っているが、それは1人分だ。

(隣にいる女を眠らせて、その隙に車から飛び降りるとか?……でもそんな事できるかな?)

周辺の様子はわからないが、音から車通りが多い道を走っている事は間違いない。飛び降りた後無事でいられる保証は無いような気がした。

「貴方がダンジョンマスターだと周囲にバレないよう工作することも可能です。望む報酬はできる限りの範囲で用意しましょう。どうでしょうか。悪い条件ではないと思うのですが」

無視して対応を考える。

するとAIの声が聞こえてきた。

『ダンジョンマスターからの侵攻を確認しました』

昨日もあった通知だ。

今ダンジョンの様子を伺わなくても、相手が梅田ダンジョンのマスターである品谷だと予想できる。昨日確認した時相手が品谷だったし、調べたら友達と広島に行ってくるという動画を出していた。おそらく、連日ダンジョンの攻略をしているんだろう。

それでも不安だから今すぐダンジョンの様子は確認したい。けれど、この女の隣ではできない。

なんでこんなにもタイミングが悪いんだと考えて、なんとなく品谷という名前に引っかかるものを感じた。

そしてようやく思い出した。

宮吉の名前はとある切り抜き動画で見たのだ。

「なぁ、あんたさ、もしかして梅田と町田のダンマスにもちょっかいかけてた人?」

「ちょっかいという言い方には納得いきませんね。あの時はダンジョンを排除したい勢力が強く、善意で保護してあげようとしていただけです。それなのに悪意のある切り取り方をされて、我々がまるで悪いかのように印象操作をされてしまいました。

あいつがいたから、あいつさえ居なければ私は……いえ。失礼しました。とにかく今は関係ないことです。それで、どうでしょう?我々に協力してくれないでしょうか?」

蓮見はせっかく誰にも縛られることのない、自由な生活を送っているのだ。

協力なんてまっぴらごめんだった。

だいたい、世間では認知されていないダンジョンマスターを探しているだなんて怪しすぎる。

必死に逃げる方法を考えて、考えて、ふと小嵜麻夢というダンジョンマスターの存在を思い出した。自分のダンジョンの場所すら知らないダンマスがどうやって他のダンジョンを完全攻略したのかと。

「なぁ、ダンジョンの外でダンジョンのアイテムを設置する方法ってある?」

「急になんです?そんなのあるわけがないじゃないですか。というか、ダンジョンのことはダンジョンマスターである蓮見様の方が詳しい筈でしょう」

『回答。現時点ではお答えできません』

「協力ってそういう事かと思って」

「違いますよ。我々が協力して欲しいのはダンジョンのドロップアイテムの提供です。あとは……」

AIに問いかけたのは賭けだった。

AIが反応しないかもしれないし、変な質問をして怪しまれるかもしれない。

けれど、AIは答えてくれたし、女は疑うことなく馬鹿みたいに協力して欲しい内容を話している。

AIの回答はお答えできませんだったが、要するに何かしら方法はあるということだ。

そして蓮見は正解に辿り着いた。

「あれ。貴方、いつの間に瓶を……」

「何かあった時のために持ち歩いていた“回復薬”だよ。あげるから今日は返してくれない?本当に都合が悪いんだよね」

この回復薬は女が周りに指示を出している隙に蓮見が出してみた物だ。

今、手元に欲しいからと試しにアイテムの画像を手繰り寄せたらできてしまった。

「残念ですが、協力してくれるまで返すつもりはありません」

「やっぱりそうだよね……なら仕方がないや」

蓮見は世間に混乱をもたらすことになんの躊躇もなかった。

どうせこうなってしまうと、まともに暮らせなくなる。今逃げられたところで、また来られたら意味がないのだ。

だから、徹底的に潰してやろうと決めた。

「AI、ドラヴァインに最初のやつはもういいよって指示出して」

『回答。承知しました』

「どう言う意味ですか?」

「帰れないならここから指示を出そうと思って。あんたの話に関係ないから何も気にしなくていいよ」

「そう言われましても、こちらの話に集中していただきたいのですが」

『リザルト:59,429,263のダンジョンポイントを獲得しました。

59,429,263の経験値を獲得しました。

ダンジョンのレベルが41となりました。

レベルアップ報酬として3万のダンジョンポイントが付与されます』

大量にダンジョンポイントを手に入れた蓮見は、回復薬が出せたんだから、モンスターも出せるだろうと考えて、たった今得た5000万ポイントを使ってドラゴンを召喚した。

その大きさに耐えられず車は中から破壊されて、街中にドラゴンが放たれる。

《GAAAAAAAAAAAAA!!!!!》

広島の府中市にドラゴンの咆哮が響き渡った。