軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53話 特殊建造物対策局職員、宮吉琉実の場合

宮吉琉実(みやよしるみ) は政界という世界に憧れていた。

小学生のころ、いつも生徒たちに怒鳴る先生が講義で呼ばれた政治家に謙る姿を見て、“権力”という力の凄さを知ったあの時から。

その日から政治家になることが宮吉の夢となった。

政治家の家で生まれる以外の人間が政治家として活躍するには相当な資金と相当な人脈が必須である。

田舎の貧しい家で育った宮吉にはどちらも到底手に入れられないものだ。だから勉強さえできれば誰でもなれる官僚をまずは目指した。

幸いにして宮吉は頭が良かったので、返済の必要がない給付奨学金をもらって国立の大学に行き、就職のことを考えて在学中は様々なボランティアに参加。国家公務員試験にも一般で合格し、省庁が行う面接にも合格した。その年では数少ないキャリアと呼ばれる官僚だ。

働き出してすぐに、幸運にも政治家の先生と話す機会があって、宮吉は積極的に自分を売り込んだ。便宜を図ってくれたらこちらも便宜を図ろうという言葉を引き出し、連絡先も交換できた。

それからの仕事も、人脈作りも、何もかも上手く行っていた。

だから今回のことだって上手く行くと信じていた。

それは、ゴールデンウィークが終わった少し後のこと。

「先生からの指示だ。行くぞ」

「わかってます。私にもメール来てるんですから。それより貴方は私の上司でもないんだから偉そうにしないでくれません?」

政府が密かに探していたダンジョンマスターの候補者が見つかったと伝えられたのが昨日。その時は現在所属している特殊建造物対策局の上司から確定するまで密かに動けと指示されていた。

けれどもついさっき、宮吉の元にメールが届いた。宮吉が繋がりを得た先生からだ。

そこにはダンジョンマスターを保護という形で必ず捕まえてほしいというような内容が書いてあった。

先生が使う人間は何も宮吉だけではない。今目の前にいる筒口だってそうだし、他にも同じ局内に何人もいる。

メールはおそらく全員に送られているのに対して捕まえるダンジョンマスターは1人。手柄の取り合いだ。だからといって焦って捕まえた人間がダンジョンマスターじゃなかったら大恥どころの騒ぎではない。

まずは友人から探って情報の正確性を確かめる必要がある。それは他の人間も同じ考えだったようで、先生に使われる者同士上手くバラけて話を聞きに行くことになった。

所属している部署が同じ筒口と一緒に、若島蒼斗という青年の元へ向かう。

宮吉には話を上手く聞きだす自信があったから、筒口は口下手だから無理だろうと言って、聴取の役割を奪い取った。これでうまくいけば手柄は宮吉のものになる。

こうして2人は若島蒼斗と対面した。

「お待たせしてすみません」

玄関から出てきたのは黒髪で落ち着いた雰囲気の男だ。

理屈的に話せばわかってくれそうという宮吉の第一印象とは裏腹に、最初の聴取では否定ばかりでこれといった情報は得られなかった。

久方ぶりに何かに躓いた宮吉は落ち込むメンタルを“難しい任務だから最初から上手くいく筈がない”、“他の人も誰1人情報を得られなかったんだからこれは仕方がない”、と思うことで立て直し、次の行動に移した。聴取を行った人達への監視だ。

手柄を独り占めしたがったが、任務に失敗したら元も子もないので仕方なしに他の者と協力して行った。

監視を始めてから5日後。

候補者とその友人達がカラオケに集まった。

店員に頼んで監視カメラを見せてもらうと、歌いもせずに話し合っているようだった。こんな場所で話すことなんて、どう考えても聞かれたくないヤバい事実があるとしか思えない。宮吉は品谷瑛士はダンジョンマスターだと確信した。

しかし、宮吉1人がそう思ったところで本人に否定されたら意味がない。“保護”をしてお礼に“協力”してもらう必要があるからだ。

やはり何かしらの証拠や証言がほしい。

集まりが解散するのを見届け、若島蒼斗が帰宅したのを確認してから、2回目の訪問を行った。

宮吉には今度こそ上手く話を聞き出せそうと意気込んだ。

けれど。

「そうだ、紫之宮さんって方ご存知ですか?」

「いえ、知りません」

「瑛士のテストの解答ってそんなにもダンジョンマスターみたいだったんですか?」

「……なんのことでしょう」

「前来た時は小嵜さんはダンジョンマスターで言ってることは正しいって言ってましたよね」

「似たような事は言ったかもしれません」

何故か宮吉が追求される側になっている。

紫之宮という自衛官が候補者の名前をあげたのも事実だし、探索者ライセンス試験にダンジョンマスターが引っかかるような問題があったのも事実だ。小嵜麻夢はダンジョンマスターだろうけど、人目を引く彼女を“保護”できないから放置している。

こんなの言えるわけがないし、バレるわけにもいかない。

必死に取り繕って、誤魔化して、煽られて、宮吉は……

「保護してもらったところで馬渕基久のように国に殺されちゃうかもしれないじゃないですか」

「どうしてそれを……」

1番認めてはいけない事実を認めてしまった。

国は馬渕を捕まえてから……いや、馬淵がダンジョンマスターということがわかってから情報の規制を行って、詳しい事は表に出ないようにしていたから、まさかこんな一般人がこの情報を持っているとは思わなかったのだ。

一度認めてしまったものを今更撤回できない。

「今の発言は忘れてくれないか。機密事項なんだ」

宮吉と共に来ていた筒口がフォローに入るももう遅い。手遅れだ。

「俺の望みはひとつだけ。これ以上あんたらのくだらない政治争いに巻き込まないでください。そうしたらさっき聞いた機密事項とやらも言いふらすつもりはありません」

機密事項を公にされたくない今は、この言葉を信じて若島蒼斗からの聴取は諦めるしかないのだ。

品谷瑛士の元に政敵の部下が向かっていようと、帰ってくれと言われれば帰るしかない。

宮吉は任務に失敗した。

「あり得ないです。絶対に変です!若島蒼斗はダンジョンマスター周りの情報に詳しすぎます!」

「品谷瑛士はほぼダンジョンマスターで確定だろうな。だが彼から情報をとることはもう出来ない」

「私の所為って言いたいんですよね!?すみませんでした!無理に詰め寄って逆に追求されて自爆した私が悪かったです!でもしょうがないじゃないですか。怪しかったんですから。馬渕基久のことを知ってるなんて相当な陰謀論者じゃないとあり得ないですよ。

仮に友人のために調べたとしても彼は情報を持ちすぎです。いったいいつ調べたって言うんですか。そもそも若島蒼斗はいつ品谷瑛士がダンジョンマスターって知ったんでしょうか。今日4人で集まっていたことから前々から知っていたんでしょうけど、いくらなんでも情報を隠すという点において結束が硬すぎます。

だってダンジョンマスターですよ?人智を超えた力を持っている人外ですよ?なんで友人としてそのまま接することができるんですか。誰かに相談してもおかしくないのにそれすらもない。変です彼ら。特に若島蒼斗」

「わかったから黙ってくれ。先生に報告する。それともお前が報告するか?」

「……今回は筒口さんにお願いします」

自分がミスをして情報を貰うどころか与えてしまったなんて言いたくなかった宮吉は、いつも率先してやる先生への報告を筒口に任せることにした。

次の日。

朝早くに宮吉は電話で起こされた。

内容はダンジョンマスターと名乗る動画が2本投稿されているということだった。

メールで送ってもらったURLを確認すると、候補者であった品谷瑛士がダンジョンマスターだと告げている。

政府はまだダンジョンマスターの存在を認めてないから、こうも表立って言われてしまうと“保護”ができない。

もう一方の方の動画を見てみると、そこにはサングラスとマスクで顔を隠した男が自分もダンジョンマスターだと告げていた。

宮吉は2回しか会っていないがそれでも声でわかった。動画に映っているのは若島蒼斗だ。

この時点では、宮吉はまだなんとかなると思っていた。動画をデマだと言えば。あるいは小嵜麻夢と同じように完全に無視すれば、ダンジョンマスターの存在を認めることにはならない。国が認めない限りはダンジョンマスターなんて都市伝説ということにできる。

知らん顔をして出勤して、通常業務を行って、空いた時間にはいつものようにダンジョンマスターの情報を集めて。そうして過ごしていると、なにやらフロアがザワザワしていることに気づいた。ダンジョンマスター、若島、配信などと言った単語が聞こえてくる。

朝送られてきたURLから若島蒼斗のチャンネルに行くと、どうやら配信をしているようだった。

普段忙しなく動いている同僚達も、今は配信を固唾を飲んで見ている。

そして……

『これは俺のスマホなんですけど、デフォルトで入ってる録音アプリありますよね?それ使って2回目に政府の人が来た時の会話を録ってたんです。作っただろと言われればそれまでですが、とりあえず今から流すので聞いてください』

その録音が流れ出してから、みるみる自分の顔が青ざめていくのを宮吉は感じた。

スマホの画面から顔を上げられない。周囲から視線を集めている気がする。今まで完璧な仕事をしてきたのに。積み上げていたものがこれで全部壊れた。先生に見捨てられる。

ぐるぐると嫌な思考が巡って、気づけば宮吉は家に帰っていた。癖でつけたテレビでは局長の檀関がダンジョンマスターの存在を認める記者会見を行っている様子が流れている。

ピロリンとメールの通知音が鳴った。

先生からだ。

メールには一言、残念だと書かれていた。

(あぁ……終わった。もう何もかも。私の夢は叶わない)

次の日から、宮吉はただただ静かに言われた業務のみを行うようになった。

同僚達からは話しかけられなくなった。

先生からは連絡が来なくなった。

減給はあったものの、それでもクビにならなかっただけマシだ。

朝起きて、仕事して、寄り道せずに帰って、家ではぼうっと過ごす。

そうして過ごして数ヶ月。ある日声が聞こえてきた。

『人類の皆様にお知らせです。ただいまを持ちまして、ダンジョンが新たに出現しました。さらなる出現を防ぐために、己を鍛え、ダンジョンに侵攻し、地球を守りましょう』

1度聞いたことのある声だ。

ダンジョンが新たに出現した。

ということはつまり、新たにダンジョンマスターが増えたということだ。

(新しいダンジョンマスターなら、まだいろいろと不慣れな筈……ボロを出す人がいるかもしれない)

何も考えたくないと止まっていた思考が動き始めた。

(もし私が1人でダンジョンマスターを捕まえられたら、先生は……)

宮吉の新たな目標が決まった瞬間だった。