軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38話 特殊建造物対策局、局長の場合(三人称)

檀関一喜(だんぜきいっき) 。特殊建造物対策局の局長である。ダンジョンや探索者、特殊素材などについての決定権を持っていて、特殊建造物対策局の中では1番偉い人だ。

檀関がいつものように執務室で作業をしていると、部下が飛び込むように部屋に入ってきた。

「局長!大変です!」

「なんだ騒々しい」

「マークしていた品谷瑛士、およびその友人である若島蒼斗がダンジョンマスターを名乗る動画を投稿しました」

「どうしてそうなる」

檀関は候補者として名前の上がった品谷瑛士には直接接触せず、まずは慎重に動いて証拠を集め、事実確認をするように指示を出していた筈だ。

なのに何故対象者とその友人は動画なんて出したのか。こちらが探ってるとバレておちょくられているのではないかと思ってしまうほど、檀関には理解ができなかった。

「その、品谷瑛士はうちの人間が彼の友人に接触した事で、友人に迷惑をかけるくらいならと動画を出したようです。若島蒼斗の方は友人が名乗り出るなら自分も、とのことで」

「待て、友人に接触したのか?」

「はい。証拠を集めるように言われましたので」

「俺は慎重に動いて証拠を集めて事実を確認しろと言ったんだ。対象者の友人に接触する事のどこが慎重なんだ」

「え?でも……」

この部下の反応を見て檀関は全てを察した。どうせ自分以外の誰かからそうしろという指示があったんだろう。

命令の横槍はよくある事だ。

実は、特殊建造物対策局の局長は檀関で3代目である。

初代局長は大変野心が高く、例の記者会見後に新しく設立された特殊建造物対策局の局長に自ら立候補し、他にいた候補者を押しのけ、半ば強引に局長になった。

この初代局長が不運だったのは、ありとあらゆる手を尽くしてダンジョンの情報を吐かせたはずの馬渕がまだ情報を隠していたことだ。馬渕はもしかしたら殺されるかもしれないと思い、ダンジョンとダンジョンマスターの命が密接に繋がっていることを言わないでいたのだ。

その事実を渋谷ダンジョンが攻略された際に馬淵はうっかり言ってしまった。

これに上層部は慌てた。本来華々しい成果となる筈の渋谷ダンジョン完全攻略が、自衛隊が人を1人殺したという醜聞に変わってしまったからだ。さらに初代局長のあずかり知らぬところで事態は進み、貴重な情報源である筈の馬淵は殺されていた。

結局、情報源から情報を聞き出せなかった事と、その情報源を失った事から初代局長は辞めさせられた。

その次に局長になったのは初代局長に敗れ、当時局長になれなかった男だ。そして情報源が殺された事実に漬け込み、初代局長を引き摺り下ろして自分がトップになった。

けれど2代目局長も運が悪かった。

一般市民が梅田ダンジョンの攻略に挑み、死傷者を出したから、ダンジョンが管理不足だったという事で責任を取らされたのだ。

立て続けに2人の人間がクビになった役職になりたがる人なんていない。そもそもダンジョンはわからない事が多すぎる。いくら局のトップというデカすぎる立場でも、クビになる可能性が高いなら、それは泥舟の船長になるのと同じだ。

3代目はどうしようかとなった時に白羽の矢がたったのが、檀関一喜である。

彼は昔から真面目だけが取り柄で、融通が効かず、権力争いは避け、後ろめたい事をなに一つしないから弱みもなく、使い辛い男と評価されていた。そんな彼なら難しい立場でも真面目にこなしてくれるだろうと他方面から推薦があった。面倒な立場を押し付けられたとも言う。

檀関一喜(真面目な男) は推薦を受けた。

自分が余計な事をしないお飾りの局長になって欲しいと望まれているのをわかっていながらも、真面目だから断る選択肢はなかった。

このような経緯で檀関は局長になったので、命令がうまく通らないことはしばしば。勝手に名前を使われて部下を動かされることもある。

檀関は政治家達の間でダンジョンを利用したい派閥と完全に消滅させたい派閥があるということだけ知っていた。国家公務員でもそのどちらかの派閥に入っていることが多い。単純に政治家の下につくと美味い蜜を吸えるからだ。

檀関はそういうのを避けてきたため、どちらにも所属しておらず、情報があまり入ってこなかった。

けれども自分がそのどっちかに所属する人間に利用されていることくらいは知っている。

今回のもそれだろうと考えて、部下に詰め寄るのを辞め、動画をとりあえず見ることにした。

そして2本の動画を見て後悔した。

品谷瑛士の方は特殊建造物対策局の人が一般人に迷惑をかけたと遠回しに言っているし、若島蒼斗の方は自衛隊の特殊部隊の事を話題に出している。何より2人ともダンジョンマスターの証拠としてダンジョンのドロップ内容を変えたと言っていた。

ダンジョンマスターの存在は国民に伏せるよう、檀関のもっともっと上の立場の人間から厳命されていた。さらに自衛隊の特殊部隊がダンジョンマスターを探しているなんて、その部隊に所属する人以外では片手で数えるほどの人数しか知らなかった筈なのに、何故か 若島蒼斗(ダンジョンマスター) がその事実を知っている。

檀関一喜は今回のことで、何もしていない。むしろ慎重に動くよう言っていた。それでも特殊建造物対策局の局長という立場だからなんとかしなければならない。

部下にネット上で2本の動画は全てデマ。ドロップ内容変わったのも偶然だという噂を流すよう命令をだした。

できれば動画を消させたかったが、不自然に動画が削除されたら市民にどう思われるのかわからない。それに現時点で動画は20万再生を超えていて、今消させたところでどうせ誰かが動画を保存しているだろうし、その動画を拡散させるだろう。

だから動画はデマだという噂を流すくらいしかできることがなかった。

それから数日後のことである。

「局長!大変です!」

「なんだ騒々しい」

「小笠原のダンジョンマスターを名乗る動画が投稿され、さらにダンジョンマスターを名乗った若島蒼斗が先ほど配信を始めました!」

「どうしてそうなる」

若島蒼斗の元に行った局員に話を聞く限り、彼は平穏に生きることを望んでいた筈だ。配信をするのは平穏から真逆の行動である。檀関には若島蒼斗が配信を始めた理由がわからなかった。

とりあえず檀関はまだやっていた配信を見ることにした。

そしてやっぱり後悔した。

『前来た時は小嵜さんはダンジョンマスターで言ってることは正しいって言ってましたよね』

『似たような事は言ったかもしれません』

『前回お話しした際、ダンジョンマスターではなかったら保護しないと言ったことに怒ってるんですか』

『保護してもらったところで馬渕基久のように国に殺されちゃうかもしれないじゃないですか』

『どうしてそれを……』

『こちら側のミスだ。宮吉が未熟だった。宮吉の今までの発言で怒らせたのなら謝罪しよう』

配信では若島蒼斗と特殊建造物対策局の局員2人が行ったであろう会話の録音が流れていた。

この局員2人から直接話を聞いた時には、録音されていたかもしれないなんて少しも話題に上がっていなかったし、機密事項を言ってしまったのも聞いていなかった。何度も言うが檀関は慎重に動くよう命令をしていて、品谷瑛士を保護しようという流れになっていたなんてこの録音で初めて知った。

檀関はほとんど裏の事情を知らない。局長という立場でありながらも周りから押し付けられただけのお飾り局長だから。

それでも、上からくる命令に従って、自分の仕事をこなせばいいと、所詮自分は国家公務員だからそれでいいと思っていた。だから度々命令が通らないこともあまり問題視していなかったし、この局員2人が本当は誰の部下なのかもどうでもよかった。

けれど、何事にも限界はある。

(今からでも2人のチャンネルを消すように動いた方がいいか?録音はAIが作った合成音声だと言うことにして、若島蒼斗の方は侮辱罪あたりで逮捕。それでもダンジョンマスターの存在は否定はできない。いったいどうすべきか……)

考えに考えて、檀関一喜はふと正気に戻った。

なぜ自分はこんな隠蔽工作みたいな事をしなければならないのかと。そもそもそういうのが嫌で誰にも遜らず、権力争いから離れて、自分の仕事だけをただひたすら真面目に取り組んでいた筈なのに、と。

「記者会見を開こう」

「それはどういう……」

「何か問題が?」

「いえ、記者会見をしてどうなさるおつもりなのかと」

「何故言わなければならない?君は今から記者会見の準備をしてくれ。できなければクビだ」

目の前にいる部下が誰の息の根がかかっていようとも問題ない。立場的には檀関の方が上で、本来なら部下に適当な理由をつけて不当にクビにできる権力がある。

若島蒼斗が初めての配信をした日の夜。

急遽開かれた記者会見で、檀関は全て認めた。

ダンジョンマスターがいることも、局員が一般市民に迷惑をかけたことも、配信で流れていた録音の内容も全てだ。

一応まだ国家公務員ではあるので、体裁を保つためにあくまでダンジョンマスターの存在を隠していたのは国民の為だったというスタンスは崩さず、騙していたことには変わりないと謝罪をし、局員が市民に迷惑をかけた責任をとって辞任すると言って、会見は終わった。

若島蒼斗にとっては望み通りに、政治家達にとっては都合が悪いことに、2033年5月27日。この日は世界で初めてダンジョンマスターの存在が公的に認められた日となった。