軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27話 講習場教官、紫之宮悠希の場合①(三人称)

陸上自衛隊の特殊部隊、通称S。

敵地への潜入や人質の救出など、普通の部隊では対応できない任務を行っている。

2032年1月12日、全国各地に配属されている自衛隊の中から秘密裏に優秀な人が集められて、Sに新たな部隊が発足した。わずか10人しかいない、ダンジョン攻略特務部である。

そのうちの1人が紫之宮悠希だった。

東京のとある施設。集まった隊員達を前に隊長の 倉渕(くらぶち) が任務の内容を伝える。

「先日、各地に出現した『ダンジョン』と呼ばれる建造物。我々の仲間がダンジョンの攻略に挑み、残念ながら死亡者が出てしまった。しかし、彼らの犠牲により重要な情報を得ることができた。この情報を元に、君たちには今後半年間、ダンジョン攻略のための訓練に従事してもらう。」

「はっ!」

何故自分たちが選ばれたのか、本当にダンジョンの攻略は可能なのか。いろいろ気になることはあるものの、ここは自衛隊。上からの命令は絶対で、与えられた任務はただこなすしかない。

「ダンジョン内では、無線機などの通信機材が全く使用できないことが判明している。そのため、少人数での攻略が最適と判断した。攻略では各自の力と部隊内の連携が極めて重要となる。これより、各自の役割を伝える。これを踏まえて訓練に励んでくれ。」

武器を持ち、主にモンスターを攻撃するアタッカー役。盾を持ち、モンスターからの攻撃を受け、味方を守るタンク役。物資を持ち、怪我人が出たら手当てをする救護役など、淡々と読み上げられていく。

紫之宮は素早く動き、ナイフで敵を攻撃する遊撃役になった。

ダンジョン攻略のための訓練は自衛隊員として行っていたものよりだいぶ過酷なものだったが、優秀な者を集めただけあって脱落者はおらず、すぐに訓練は個人の能力を上げるものから連携力を高めてチーム全体の能力を上げるものに切り替わった。

また、訓練の合間にはダンジョンについての知識を教わる。

一回の攻略でここまで情報集まるのかと疑問にも思ったが、紫之宮がそれを確認することは無かった。

あっという間に訓練をする日々は過ぎていき、7月。梅雨明けしてすぐの猛暑日に作戦は決行された。

窓がスモーク加工されたワゴン車で渋谷のダンジョンに近づく。そして隊長の掛け声と共に一斉に車から飛び出し、すぐにダンジョン内へと入った。

『称号:邂逅を獲得しました』

初めてダンジョンに入った全員に声が流れた。

レベルが上がった時と称号を得た時に声が聞こえることは事前に知っていたので、動揺することなく先に進む。

先頭に盾を持った隊長ともう1人の盾役。その後ろに剣を持った2人。遊撃要員の紫之宮、救護役、クロスボウ持ちと続いて、アタッカー、盾持ちという順番で並んでいる。

敵に遭遇することなく1階層を進み、2階層へと降りた。

元日の攻略時では部隊の後ろに急にモンスターが現れたらしいから油断はできない。

紫之宮は少し緊張しながら進んでいた。

「敵を確認!全員警戒態勢を取れ!」

隊長の声が響く。

2mは超えている巨体。まるまると太っており、半裸で豚のような顔をした醜い姿。1mほどはありそうな棍棒を持っている。狭い通路にいたそれは到底同じ生物だとは思えなかった。

振りかぶってきた棍棒を盾を持っていた1人が受け止め、後ろに吹っ飛ばされる。

「 紀村(きむら) さん!」

「問題ない!」

前にいたアタッカーの1人がお腹側から剣を刺し、もう1人が跳躍スキルを使って飛んで、首から剣を刺した。

それが留めになったのか、それは灰となって崩れるように消えて、紅色で拳ほどの大きさの丸い石だけを残した。

「2人ともよくやった。紀村は大丈夫か」

「ええ。恐らく頑丈スキルのおかげでしょう」

「スキルというやつは本当にすごいな」

個人に分配されていたスキルポイントを使って、全員で話し合い、スキルは予め取っていた。

紅色の丸い物体は持って帰ってくる事を命令されているので、荷物持ち兼救護役の人がバッグに入れた。

攻略は驚くほど順調だった。

モンスターを倒せばどんどんレベルが上がる。

レベルが上がればステータスも上がり、どんどん動きやすくなる。

少しでも戦闘に参加していれば経験値が入ってくるようだった。

何回かモンスターが次々襲ってきた時があり、その時に少し苦戦して怪我人がでたが、それも救護役が持っている回復スキルで治る程度のもの。

特に大きな問題は起こらないまま、ダンジョンに入ってからおおよそ2時間がすぎた。

今までの雰囲気とは打って変わって、白基調の明るい部屋へと辿り着いた。

部屋の真ん中には今まで倒してきたモンスターが落としたものと同じ色をした石が鎮座していた。ただ、その大きさは直径1mくらいと大きい。

「……これがダンジョンのコア」

思わず紫之宮の口から声が溢れる。

「全員1回ずつ攻撃しろ、壊さないようにな」

1回ずつ攻撃するのは、コアを壊すと経験値を多く貰えるからだ。どうやって情報を得たのかはわからないが、それも事前に教えてもらっていた。

隊長、盾役、アタッカーと続いて紫之宮はナイフで表面を傷つけた。あまり攻撃力を持たない救護役ももちろん攻撃している。全員が攻撃を与えた後、アタッカーの2人が同時に剣で斬りつけ、コアは粉々に砕け散った。

『ダンジョンが攻略されました。これよりダンジョンが消滅します』

その声と共に辺りが光って、気づいたら部隊は地上にいた。声の通りにダンジョンが消えてなくなったのだ。

『レベルアップしました』

突然場所が変わったことに動揺していたところ、さらに声がどんどん流れる。

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

流れる声を無視して紫之宮はその場で隊長の指示を待つ。

(……身体が重い)

あんなにもダンジョン内では軽やかに動けたのに、今はまるで水の中にいるようだった。

「倉渕一佐!?」

声の方向を見ると、隊長が膝をついている。

「大丈夫だ。歩ける」

そう言い、立ちあがろうとして、失敗する。

紫之宮はすぐに原因を思い至った。

最前線で戦っていた隊長はレベルも1番上がっていた。上がり過ぎていた。

そんな上がり過ぎたステータスは地上に出たことにより無かったことになった。ステータスが反映されるのはダンジョン内のみだからだ。

それにより、高い身体能力が一気に下がったことになる。

宇宙飛行士が地上に戻って重力に倒れ伏してしまうように、急に下がった能力に身体が耐えられなかったのだろう。

後方にいてレベルの上がり方が緩やかだったおかげでまだ動ける2人が隊長を支えて、なんとか帰還した。

最後に予想外の事が起こったものの、渋谷のダンジョンを完全攻略できたのだから、任務は成功だ。

ダンジョン攻略の任務を達成した後も、ダンジョン攻略特務部の存在は残った。

1週間の休養が与えられ、まずはリハビリに専念しろという命令が降る。

それからおよそ1ヶ月後、地上でも問題ないと判断され、新しい任務を与えられた。

紫之宮はそこでようやくダンジョン攻略の情報源を知った。

ダンジョンにはダンジョンマスターがいる。

1月に連行した男がそうで、そこから情報を得ていたと。

ダンジョン攻略特務部の新しい任務内容は各ダンジョンのダンジョンマスターを見つけて確保することだった。