軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編:カサンドラの憂鬱

エマ様がこのところハマっているのは、王城の温室で月下美人の観察。

それを王太子殿下に漏らしたのは私――――。

「デメトリオさんに、月下美人が咲くころに王城に泊まらないかって誘われたんです! 本人は澄ましてたけど、耳を赤く染めて可愛かったなぁ」

そうやって頬を染めるエマ様のほうが可愛いのですが、そういった褒め言葉はあまり好きでは無さそうなので、ニコリと微笑み返すだけにしておきます。

あと、あの王太子殿下はああ見えてなかなかの腹黒ですからね、いろいろ計算済みで誘ったのでしょう。

そんな話を聞いてから二週間が経った夜、王太子殿下がいきなりエマ様を迎えに来ました。いつになるかわからないとは聞いていたが、お泊りの準備はその日の内に終えていたので、急でも対応は可能です。

だだ、あまりにも無防備なエマ様に一抹の不安が……。

「カサンドラも来てくれるのよね?」

荷物を馬車に積み込んでいましたら、エマ様が少し不安そうな表情で聞いてこられました。

「別にカサ――――」

「ええ、もちろんでございます。王城は私の庭のようなもの。どこまでもエマ様をサポートいたしますよ」

「ありがと! あ、デメトリオさん、何か言いかけてなかった?」

「…………いや。ほら、馬車に乗ろう」

王太子殿下にギロリと睨まれましたが、私の主人はエマ様なので、気にしません。いくら以前仕えていた方であろうとも。

情報はお渡ししますが、エマ様の利益になりそうなものだけにしております。

王城庭園に到着し、お二人がガゼボで他愛ないお喋りをされている姿を、陰から見守っておりました。

王太子殿下の指示もあり、近衛騎士二人としっかり暖を取りつつ、用意させたテーブルとイスで休憩しながらでしたので、全員が随分とのんびりしておりました。

まぁ、王太子殿下は、寝ぼけたエマ様の攻撃でメンタルが崩壊しかけていたようですが。

お二人からは見えない位置にいますが、こちらからは結構丸見えなのですよね。だから、イチャイチャしだしたのも、ちゃんと見ていました。

「んなぁぁぁぁっ!?」

お二人がもぞもぞと動いたあと、エマ様の変な声が聞こえてきました。慌てて駆け寄ると、王太子殿下の膝の上に向かい合わせで座らせられたエマ様。

真っ赤な顔でプルプルと震えて私を見て、更に顔を赤く染めて涙目になりました。

「節度とは?」

自分が思っているよりも随分と低い声が出ていました。

「ちがっ……ごめっ、さい……っ、あの」

「エマ様を責めてはおりません。王太子殿下の下半身に問いかけています」

「下半身に問いかけるなよ。膝に座らせただけだ」

エマ様の腰をガッシリと掴んで離そうともしない王太子殿下に向けてため息を吐きましたが、エマ様がビクリと震えてしまいました。

私、この優しい主人に嫌われたくないのです。

まぁ……仕事は仕事ですので行いますが、憂鬱ですね。

「その格好では事に及んでいるようにしか見えませんので、エマ様を解放してくださいませ」

「チッ……」

王太子殿下はエマ様を膝から下ろすと、耳許に口を寄せて何やら囁いていました。そして横目でこちらを見ると、手を払う仕草をされましたので、礼をして立ち去りました。

鑑賞会を終え部屋に戻ると、エマ様に先ほどのことは男爵夫妻には内緒にしていて欲しい、とお願いされてしまいました。

もちろんそれには了承します。大切な主人の心を守るのも、侍女の仕事ですので。

全く、あの王太子殿下は何を考えているのでしょうね?