作品タイトル不明
7助ける
気まぐれカフェの植え込みに10代前半らしい少女が 蹲(うずくま) っていたのを庭師が見つけた。
お客様の来ない早朝の内に剪定をしてしまおうと鋏を持っていた彼は一瞬見間違いだろうかと目を擦った。
少女の服は汚れていて何日も風呂に入ってないらしく酷い匂いがしていた。庭師は急いで従業員入り口から厨房に入れシャワーを使わせた。
大きめのシャツを着せ簡単なスープとパンを食べさせた。
少女はよほどお腹が空いていたらしくガツガツと食べ始めた。
「お前浮浪者か?それを食べたら髪をよく乾かして自分の服を洗え。昼すぎには乾く」
哀れに思ったシェフが声をかけた。
「あ、ありがとう…ございます。 おれいに…なにか出来ることが…ありますか?」
言葉遣いは誰かに教えられたのか丁寧だ。だが声には元気が全くない。
「力仕事は無理だろうし。うーん、そうだな、その籠にあるじゃがいもを洗ってくれ。お前いくつだ?」
「………たぶん…15歳?くらいです」
「15歳か、小さいな。何処から来た?」
「…とおくから…です」
「名前は?」
「…わかりません」
「記憶がないのか?」
「…はい」
「もう直ぐ御屋敷から大奥様かお嬢様がいらっしゃる。どうするか決めていただこう」
一瞬少女に怯えが走った。
何か事情があるのだろうと思ったシェフはそれ以上聞くのを止めた。
(多分何処かの孤児院から逃げ出して来たんだろうな)
ちゃんとしている所もあるが建物が建っているだけの劣悪な施設があることは知っている。
庭師とシェフはみすぼらしい子供をただ哀れに思った。
いつものようにサラやルカを連れてお嬢様がカフェにやって来た。
「あら見かけない子ね」
「うちの庭に倒れてたんです。自分のことが分からないと言うので、取りあえずシャワーを浴びさせて飯を食べさせました」
そう言ってお嬢様と目を合わせた。
「そうなのね。名前が分からないと不便ね。薔薇の植え込みに倒れていたならローズという名前はどうかしら?」
お嬢様は何のためらいもなくそう名付けた。
少女の瞳がぱちぱちと瞬いた。
「?ローズ、あ…りが…とう…ございますっ」
「怖がらなくてもいいのよ。この子きっとお料理が好きになるわ。そんな気がする。シェフ、育ててみてくれないかしら?」
「そうですね、お嬢様がそう言われるなら暫く様子を見てみましょう。良かったな、お前は運がいいぞ」
シェフの言葉に庭師も笑顔を見せた。
「まずはお祖母様のところへ行って雇う許可をもらわなくてはいけないわね。その後ちゃんとお風呂に入れて綺麗にしてから、お医者様の診察を受けて貰うわ。病気があれば先に治さないとね」
「あ、あの」少女が何かを喉に詰まらせたような声を漏らしたがそれに気づく者はいなかった。
「まだ汚れが落ちていないようね。あなたまだ少し匂うの。食べ物を扱う場所なのだから清潔は大切よ。うちのメイドに手伝って貰ってしっかりと洗いましょう。着替えも必要ね。サラ、この子のサイズに合わせて古着を何着か買ってきてくれる?エプロンもあるといいわね。靴や下着もお願いね。ルカは荷物持ちに付いて行って」
「「畏まりました」」サラとルカが返事をした。
「お祖母様のところの使用人部屋が空いてないか聞いてみるわね」
「ここの上に寝るだけの小さな部屋があります。中から鍵も掛けられます」
「そうね、それもいいかもしれないわね。このお兄さん達は良い人だから安心なさい。働いたら給料も出るようになるから頑張って」
ローズと名付けられた少女はぽろぽろと涙を零し深々と頭を下げた。
皆が少女だと思っていたのが実は少年だったことが後で判明したり、遠い未来に社交界を揺るがすほどの有名な天才シェフになったりと驚くことばかりなのだが。
この瞬間の彼らには、知る由もない未来の物語だった。