作品タイトル不明
5癒やされる
あれからジミーは廃嫡され平民になり王都は立ち入り禁止になった。
それだけなんて甘いわね。
あの女と同じじゃないと不公平でしょう。
ルカにある指示を出した。自分では気が付いていなかったが私は存外冷酷なようだ。あんなことがなければ普通のおとなしい令嬢のままだったのだけど。
それにしても、仕事の出来る護衛を持つというのは素晴らしい。あっという間に願いを叶えてくれた。
騒動の後、暫くは家から出るのは控えていたが、流石に3ヶ月も経つと退屈してくる。
そもそも私が悪い訳ではないのだ。公の場に出なければその内皆事件のことなど忘れるだろう。
私はサラとルカを連れてお祖父様の所へ遊びに行くことにした。
「お祖母様ご無沙汰しております」
「よく来てくれたわね。心配していたけど思ったより元気そうね。ゆっくりしていくといいわ。暫く会わない内にこんなに綺麗になって」
「ありがとうございます。お祖父様が味方になってくださったので本当に頼もしかったですわ」
「当たり前よ。可愛い孫娘を蔑ろにする輩なんて潰すに決まっているのだから」
柔らかく笑っているが言葉は鋭い。
「手並みは聞いているわ。最初に誰に教えたの?」
「メアリー伯爵夫人です」
「良い選択だったわ。あの日彼女と夕食の約束が入っていたの。数人の御婦人の集まりだったわ。おかげで面白いくらい一気に噂が広まったわね」
お祖母様の笑顔が少し怖い。
私はただ優雅に微笑むだけに留めた。
※※
お祖母様は現在老後の楽しみでカフェを開いていた。場所は屋敷から少し離れている。
雇われ店主は元宮廷シェフだった人だ。ガタイが良く用心棒も兼ねている。他に庭師とウエイトレスがいるがどちらも戦闘要員のようだ。
お祖父様の行き過ぎた心配症は周囲にも知れ渡っていた。
貴族限定のサロンでも良かったらしいがせっかくなので一般人も入れるようにしたという。
名前も「気まぐれカフェ」お祖母様らしい。
平日の午後だけの営業だ。
予約をすれば午前中にも開けてもらえるのでデートに使いたい恋人同士には大好評らしい
貸し切りのカフェなんてロマンチックでしかないもの。
周りには背の高い針葉樹が植えてあり、緑が豊かで視線を遮っている。
その中の赤い屋根の2階建ての可愛らしい店が「気まぐれカフェ」だ。
玄関までのアプローチにはには石畳が敷き詰められ様々な色の薔薇の植え込みが沢山咲き乱れている。
本邸の伯爵家から連れてきた庭師が、熱心に世話をしているのだ。
郊外なので空気も綺麗で薔薇のいい香りがふわりと漂う。そこに佇んでいるだけで心が洗われるような癒しになっていた。
人の目が煩わしい今の私にとってここは最高の隠れ家だ。お祖父様の屋敷から時々通って、この時間を楽しむことにした。
私が来たとあってシェフが張り切って数種類のケーキを焼いてくれた。
苺のミルフィーユ、ガトーショコラ、アップルパイ、マロンケーキ、1つずつが小さいので何とか食べられた。
ポットの紅茶はダージリンのファーストフラッシュだ。カップに淹れてもらうと輝くような黄金色が美しく、一口飲めば若葉の様なみずみずしい風味が広がる。
ショックで食事の量が落ちすっかり痩せてしまった体に、優しい甘みがじんわりと潤いを与えていく。それがたまらなく嬉しかった。
ひとりで食べても味気ないのでサラとルカにも食べてもらった。
2人とも満足そうな顔だ。お土産に買って帰ろう。
きっと食事も美味しいだろう。出かけたくない私の息抜きにちょうど良い。
だが、こうしていられる時間は短い。弟の邪魔にはなりたくない。
どうやって自立するのか考えなくては。
ふとお祖父様が言っていた仕事という言葉を思い出した。