作品タイトル不明
13これからも ルカ サイド 1
「決めたのだな」
私達はお祖父様とお祖母様の前に座っている。
「はい、燃え上がるような恋ではありませんが、ルカとなら穏やかな日々が過ごせる気がするのです」
何故だろう、お2人が可哀想なものを見るような目でルカを見た。
「頼んだぞ、ルカ。早めに親に報告に行くのだぞ」
「はい、急ぎ許可をいただきに行くつもりです」
きりっとした顔でルカが返事をした。
お祖父様はさらに言葉を重ねる。
「お前の親にもきちんと報告するのだぞ」
「もちろんです。何も言わせませんし、なんなら縁を切るつもりです」
ルカは男爵家の三男なのだが興味を持たれず、愛情を掛けられずに育ったらしい。それが女伯爵の婿になるのだ。おのずとその先が予想ができるというものだ。
「ルカ、もしお前の実家が手に負えなければいくらでも相談に乗るから覚えておきなさい」
「ありがとうございます。そうなった時はよろしくお願いします」
お祖父様とルカが悪い顔になった。
それからお互いの家の許可が無事に取れた。
ルカがどうやって実家と縁を切ったのか詳しい顛末は聞いてはいない。
多分平民になるとでも言ったのだろう。私が伯爵位を継ぐことははまだ公表していないのだから。
しかし自分で言うのもあれだけど、私は社交界で大注目の金を生む令嬢だ。
利用されるのは嫌だけど知らないのだろうか?
そうなら貴族としてはお粗末過ぎるというものだ。
まあ終わったことだから良いんだけど。
とにかく戻って来たルカが傷ついてなさそうで良かった。幼少期のトラウマってきつそうだから。
エレン様には決して知られたくないが、俺は元実家が潰れるように裏で動いた。
取引先にいくつかの噂を流したのだ。あの家はもう傾きかけていると。
あっという間に商人達が手を引いた。雪崩がおきるように崩壊が始まった。
あくどい商売をしていたので自業自得だ。
男爵家に3番目に生まれたのが男だったので興味を示さなかった奴らは、軍の学校に無理やり10歳で俺をぶち込んだ。
普通の学校より学費が安く全寮制だったからだろう。追い出すには都合が良かったのだ。
幸い身体が大きかったので何とか付いていけたが、地獄の様なしごきだった。
何度も死にかけた。
家柄も最下層の俺は絶好の標的になり酷い虐めにもあった。
そんな俺を庇ってくれたのが教師のガンドル先生と同期の伯爵令息トマソンだ。
彼の家は代々軍人の家系だそうで将来は軍の中枢を担うことが決められているエリートだった。
彼はとてもやんちゃだが正義感が強かった。2人で弱い者いじめをする奴らに力で対抗した。まあ容赦なくぼこぼこにしたとも言う。
俺たちは戦うたびに強くなり軍学校では無双の強さになっていった。
彼は更に上に行くために進学したが俺は15才で卒業した。
ガンドル先生の紹介でブライス子爵家に就職した。
給料が一番良かったからだ。
名より実を取った俺はそこで本物の天使を見た。
お嬢様(エレン様)は困った人がいると相手が平民であっても迷わず助けるような人だった。
世の中にはこんな清廉な魂の持ち主がいるのだと俺は衝撃を受けた。
それ以来お嬢様は俺の暗い人生を照らす唯一無二の憧れの人になった。
幸いなことに剣の腕が一番強いということで俺はお嬢様の専属護衛に抜擢された。毎日お嬢様のすぐ近くにいられる。俺にとってこれ以上の幸せはなかった。
お嬢様の婚約が決まった時は絶望のあまり浴びるほど酒を飲んで酔いつぶれた。本当は仕事なんて投げ出して休みたかったが、お嬢様をお守りする立場を他の奴に取られるわけにはいかない。
高くて苦い二日酔いの薬を飲んでどうにか仕事に復帰した。
お嬢様に臭いと言われるといけないので出来るだけ離れた位置に立ち、革の鎧兜を着けた。
サラがふーんという目で見てきたが無視をした。
屋敷中がお祝いムードでそんな俺に気づくものは他にはいなかった。
そんなお嬢様を手に入れながらあの元婚約者の男は浮気をしていた。
泣かせるなんて万死に値する。
裏切りを知り、泣きながらも毅然とした態度を崩さなかったお嬢様は格好良く俺の胸を更に鷲掴みにした。
大旦那様の元でお嬢様が再び笑うようになって良かった。
傷ついたお嬢様への神からのお詫びのように先見の加護が発現したのもその頃だ。
それからは順調な日々が続いているが、人生良いことばかりはない。
もしも不幸が襲うようなら俺が盾になって守りたい。
大旦那様に執務を教わっている。女伯爵家となるエレン様の補佐を完璧に出来るようになるために。
「ルカ、海に行ってみたいわ。連れて行って」
花が開いたようにエレン様が嬉しそうに笑った。
それだけで顔が緩む。願いなら何だって叶えよう。俺の全てをかけて。
「海ですね、分かりました。楽しみにしていてください」
海の見える高級リゾートホテルと周りの地図を頭に描いた。