作品タイトル不明
10地道な前進
お祖父様の秘書になり私は投資というものを少しずつかじるようになった。おかげで自分である程度の金額は稼げるようにもなった。だがそれは常に安定しているわけではない。
そんなある日お祖母様が思いがけない提案をされた。
「ねえ、気まぐれカフェのオーナーになる気はないかしら?」
「えっ私がですか?」
「あの人の秘書になっているのもいいけど投資は趣味程度でいいんじゃないかしら。ほら、ローゼンが良い感じでシェフの手伝いになっているようじゃない。定休日ありで店を開いても良いのよ。エレンが責任者になってくれると嬉しいわ。多分気持ちの上で安心感が生まれるのではないかと思うのよ」
「私の為にそこまで考えていただいてありがとうございます。でもお祖母様がこれまで通りオーナーで良いのではないでしょうか?」
お祖母様は優しく微笑み首を振った。
「私もあの人もいつまでも元気でいられるとは思っていないわ。孫娘が生き生きとしている姿を見るのが楽しいの。……エレン、貴女まだ結婚はまだしたくないのでしょう?」
「……はい。 どうしてもあの婚約破棄のことを思い出してしまうのでまだその気にはなれません。すっかり騙されていたので男を見る目に自信がありません。それならこのまま仕事をして生きていくのもありかなと思っています」
「それならなおさら自分の城となる心の拠り所が必要よ。今秘密を知っているのは私たちとあなたの両親とサラとルカだけ。いずれ結婚すればその人にも打ち明けて守ってもらわないといけないけどその相手の見極めは本当に難しいわ」
「お祖父様みたいに地位がある方が良いでしょうか?」
お祖母様は少し悪戯っぽく目を細めた。
「まあ地位は欲しいところだけどまずはエレンを愛してくれなければね。そして貴女の為に腹黒く立ち回れる強さがないと。……ふふ 、まあ、そのためにはまずエレンの父親にしっかりしてもらうのが最初の課題だわね」
あれから父には正式に謝罪を受けた。自分の見る目のなさが娘を傷つけたとあって凄く落ち込んでいた。それに自分に相談をせずお祖父様に助けを求めたこともショックだったようだ。
今でも関係は気まずい。軽々しく友人を信じ娘の婚約を決めた自分を責めているらしい。手ひどく傷つけられた娘を見るのが辛いのだと思う。結果論だが家を出て良かったと思っている。
私はカフェのオーナーになり、投資家になった。令嬢としての情報はお祖父様たちから。そして市井の情報は酒場で部下達が仕入れてくる。サラからはメイド繋がりで集めている。
それらの情報を元に今では投資で着実に成果を出せるようになった。
配当でみんなで食事会をするのが今の私の楽しみだ。
それに自分の稼ぎでお世話になっている家族一人ひとりにプレゼントも買える。お祖父様には金の時計、お祖母様にはルビーのブローチ。ルカには切れ味の鋭いミスリルの短剣を。サラには綺麗な髪飾りをあげた。お母様には洗練された香水を、弟には今流行の冒険小説を。みんな喜んでくれ私の心はこれまでにない嬉しさで満たされていた。
メアリー様にはお色気たっぷりのナイトウエアと上等の茶葉を贈った。
カフェはシェフのマイクとメニューを一緒に考えるのが楽しい。料理本も沢山読んだ。
市場や街への食べ歩きも始めた。
メアリー様にお声がけすると喜んで来てもらえた。
「すっかり元気そうになったわね。良かったわエレン」
「あの時メアリー様に聞いていただけたからです」
「友達だもの、当たり前でしょう」
そう言って優しく笑うメアリー様は輝いていた。今日は富裕層の行くレストランだ。
そういう階層が着る洋服で来てもらった。カフェのメニューが貴族夫人にどう受け取られるのか試したい。
レストランのメニューはかぼちゃのスープに牛もも肉のワイン煮込み、季節のサラダにデザートが数種類から選べる。飲み物は紅茶だ。
「美味しいわね。でもお昼にこれだけの物を優雅に食べられる人がどれだけいるかしらね」
メアリー様の呟きに私は頷いた。
「そうですね。カフェではある程度事前に準備ができるもので、注文後に焼いたり温めが出来ると良いかもしれませんね。スープは煮込んでおけますし、キッシュやオムレツに朝どれ野菜のサラダとかはシェフの腕を持ってすれば直ぐです。煮込み料理も良いですね。もちろんケーキ等のスイーツは外せませんわね。色々な茶葉も置きたいです」
「今は利益は考えていないでしょうが、これからは儲けることを考えていかないとね」
メアリー様と一緒に食事をしながらそんな経営の話題に花を咲かせた。
ランチは日替わりで出し、その後にティータイムとしてお茶専用の時間にするつもりだ。まだ夜はしない。
小さなカフェなので欲張らないことが大切だと判断した。好評だった貸し切りの予約は受けるつもりだ。
忙しくなることを見越してもう1人雇おうと思っていたウエイトレスは庭師のビルの姪が来てくれることになり、カフェはいよいよ新装開店の日を迎えた。
私はこうして皆に助けられながら、自立する女性として確かな一歩を踏み出したのだった。