軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 田中、倍返す

"もっと言ってやれ田中ァ!"

"これはスッキリニッポン"

"須田ァ!今どんな気持ちィ!?

"〇〇ァ!が定着してるの草"

"あまりにもメシウマ過ぎて白飯五杯食べた"

"ざまあすぎるw"

"田中……お前は全社畜の星だよ"

"今日の祭り会場もここですか"

"労基に通報しますたw"

"須田くんの反応がいちいち小物で草生えるんだ"

ちらっと見ただけでも、大量のコメントが流れていた。

よし、ちゃんと視聴者はたくさん来てくれている。確認はしてないけど、今頃SNSも大盛り上がりしているだろうな。

「もう逃げられないぞ須田。こんなにたくさんの目がお前の行動を見たんだからな。それともいつもみたいに恫喝して口を封じるか? まあ今の視聴者二十万人全員の口を封じられるかは疑問だけどな」

「て、めえ……!」

顔を真っ赤にしながら、拳を震わせる須田。ここまですれば、もう打つ手はないだろう。

普段こいつが使ってるのは恐怖による支配だ。そういうことへの知恵は回るけど、別にこいつは頭がいいわけじゃない。

この窮地を脱する手段なんて思いつくはずがない。

「田中ァ……てめえどういうつもりだ。なぜこんなことをしやがる! 俺にこき使われた復讐のつもりか!」

「その気持ちがないと言ったら嘘になる。お前のせいで貴重な時間をかなり無駄にしたからな。だけど……それはもう過ぎたことだ、どうでもいい。大事なのはこれからだ」

「これから、だって?」

須田は首を傾げる。

「ああ、俺はこれから自分のために生きる。そのためにまずはこの会社を 辞める(・・・) 。その後はどうするかは決めてないが、フリーで生きるなり、再就職なりするさ」

そう話すと、須田は「くくっ」と小さく笑う。

この笑い方はこいつが人を馬鹿にする時の笑い方だ。

「お前がフリー? 再就職? なに頭沸いたこと言ってやがる! いいか? てめえは俺がいなきゃ何も出来ねえ役立たずなんだよ! 他所で働けるわけねェだろうが!」

耳障りな声でそう言った須田は周りの社員にも「てめえらもだぞ!」とわめき散らす。

俺、よくこんな奴の下で長い間働けてたな……。

「お前の言い分は分かった。なら俺が他で働けないか、聞いてみようじゃないか」

「ああ? 何言ってやがる」

「なんとありがたいことにこの配信に二十万人集まっている。お、もう三十万人か。みんなに聞いてみようじゃないか」

俺はドローンに向かって話しかける。

「私がこの会社を辞めたら、どこか雇ってくださるところはありますか?」

そう尋ねた瞬間、大量のコメントが流れ始める。

緋色の狼(スカーレットウルフ) ギルド "はいはい! ウチのギルドに入って下さい!"

黄金獅子(ゴールドレオ) ギルド "いやウチだ! 金なら他の倍出すぞ!"

白銀の猫(シルバーキャット) ギルド "えっと……私のとこに入っていただけるとうれしい……です"

黒曜石の熊(オブシディアンベア) ギルド "俺のとこはどうだ? お前みたいないい男なら大歓迎だぜ!"

青銅の蛇(ブロンズスネーク) ギルド "うちに入ってくれるなら……その耳障りなゴミを*してもいいぜ?"

続々と色々なギルドの公式アカウントから勧誘が飛んでくる。

中には入るのが困難な有名ギルドも含まれている。

今までこんな風に求められたことなんてなかったので、胸がいっぱいになる。やばい、泣きそうだ。

コメントの中には「私とコンビを組んで下さい!」だったり、「アシストするのでフリーになりませんか?」だったりとギルド以外からもお誘いが来ていた。

冗談だとは思うけど、中には「貴方に永久就職したいです!」なんてものもあった。

みんな優しいな。

「これが答えだ須田。もうお前の洗脳は解けた。どんな言葉も俺には通じない」

「て、め、え……!」

歯が砕けそうなほど歯ぎしりしながら、須田は俺を睨みつける。さすがにこんなに勧誘が来たら須田も反論出来ないみたいだな。

だがこいつはまだ諦めていなかった。

「貧乏学生だったてめえを親父の会社にねじこんでやったのは誰だ! てめえの親の入院費を立て替えてやったのは誰だ! 全部俺だろうが! 全部俺だろうが! そんな大恩人を裏切ろうってのか!」

「恩ならもう返した。それに裏切ったのはお前だ。前の俺は……お前と一緒に活躍したかったよ」

「黙れ! この恩知らずがっ!」

激昂した須田は、机の引き出しを開けるとその中から鋭利なナイフを取り出す。

これはダンジョンで使うような、殺傷能力の高い武器じゃないか。ダンジョン外でこんな物を出したらそれだけで迷宮管理法に触れるぞ。

「死にさらせ! 田中ァ!」

須田はそれを右手で握り、俺の腹めがけて突き出してくる。

社内に広がる社員たちの絶叫。だけど俺は至って冷静だった。

「……遅い」

深層に出てくるモンスターとは比べ物にならないほど、その動きは緩慢だった。

昔のこいつはもっと強かったはずなんだが、すっかり堕落したな。

俺は手刀で須田の手をバシッ! とはたく。

すると須田の手は真っ赤に腫れ上がり、ナイフを地面に落とす。

「がっ!?」

「終わりだ須田。お前も人の痛みを少しは知るんだな」

俺はえいっ、と須田の腹にパンチをおみまいする。

「おごっ!?」

かなり手加減して打ったけど、須田の体はくの字に曲がり、思い切り吹き飛ぶ。

そして壁にガン! と激突するとそのまま床に倒れる。

ふう……スッキリした。

これで少しは懲りてくれるといいんだけど。