軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 田中、大臣に会う

俺は凛に連れられ、魔対省の中を歩く。

ここに来るのは久しぶりだけど、中はあまり変わってないな。

予算がちゃんとあるせいか、掃除も行き届いている。モンスター被害が減った年とかは予算を減らせなどと言ってくる無責任な輩もいるけど、ちゃんと大臣がそれを跳ね除けているみたいだな。

そんな魔対省だけど、昔来ていた時とは変わっているところが一つだけあった。

それは……

「……なんかやけに見られている気がするんだけど」

すれ違う職員たちは、みんな俺のことをチラチラと見ている。

そして他の職員たちとコソコソと何かを話している。陰口とか言われているのかな……?

そう心配していると、それを察した凛が話しかけてくる。

「先生が今日来ることは職員に知られていますからね。みんな気になるのでしょう」

「やっぱり悪目立ちし過ぎたか? こんな状態のところに堂島さんも呼び出さないでほしいもんだ」

「……勘違いしていらっしゃると思いますが、職員たちは先生を煙たくなど思っていませんよ。むしろその逆でしょう」

「へ?」

いったいどういうことだと聞き返そうとした瞬間、一人の女性職員が俺のもとにやってくる。

なにか文句でも言いに来たのかと身構えたけど、その女性はなんと俺にサイン色紙を出してきた。

「あ、あの! もしよろしければサインをいただいてもよろしいでしょうか!?」

「え、あ、はい」

その圧に押された俺は、サイン色紙とサインペンを受け取り、サラサラと自分の名前を書いて手渡す。

するとその女性は「ありがとうございます!」と頭を下げて、俺のもとを去る。

少し離れたところで同僚と合流した彼女は、楽しそうに「やった! もらえた!」と喜んでいる。他の職員も「いいなあ」「私も頼んでみよっかな」などと話している。

「まさか魔対省の職員にも俺のファンっているの……?」

「当然です。ここの職員は一般人よりもダンジョンに対する知識が深い、先生の偉大さも一般人より深く理解できるのです」

「はあ、なるほど……」

凛に説明されたけどまだしっくり来ない。

いつかこれにも慣れるんだろうか。

「そういえば天月とは上手くやってるのか?」

歩きながら俺は凛にそう尋ねる。

天月は討伐一課の課長。凛の上司に当たる。

「はい。姉さ……天月課長には良くしてもらっています。今日も朝は私が起こしました」

「そっか。まだ一緒に住んでいたんだな」

「はい。私は魔災孤児ですので頼れるのは天月課長しかいないのです」

ダンジョンから魔物が外に出る災害を、魔物災害。略して 魔災(まさい) という。

幼くして魔災で家族を失った凛は施設に引き取られた。その後自分が覚醒者であることを知った凛は、家族の仇を取るために若くして討伐一課の扉を叩き、そして見事入ることに成功したんだ。

その時から天月は凛の面倒を率先して見ていた。

二人の仲はよく、まるで本物の姉妹に見えたもんだ。

「つまり私は妹属性も持っているということです。お得ですね」

「なにを言ってるんだ……?」

相変わらず澄ました顔して突拍子のないことを言う奴だ。

まあそこが面白いんだけどな。

「ところで姉さんの様子が朝からおかしかったのですが、先生はなにか知りませんか?」

「……知らないな」

俺は昨晩のことを思い出しながらも否定する。

やばい、顔が熱くなってきた。

「じー……」

「さ、行こうか! 大臣を待たせちゃ悪いからな!」

「……分かりました。堂島大臣は今中庭にいます。さ、こちらです」

疑惑の目を向ける凛に連れられ、俺は魔対省の中庭に足を踏み入れる。

するとそこには立派な松の木がそびえ立っていた。俺が来ていた頃はこんなものなかったんだけどな。どこから持ってきたんだろう。

にしてもこの松、まるで盆栽みたいに曲がりくねっているな……と思いながら近づいてみると、なんとその松はこれまた巨大な植木鉢の中に入っていた。

え、これってガチで『盆栽』なの?

そう困惑していると、松の木を大きな鋏で手入れしていた人物が俺に気づき、近づいてくる。

「来たか田中っ! 待っとったぞ!」

がっはっは、と豪快に笑いながら俺のもとにやってきたのは、大柄の爺さんだった。

短髪の白髪に、鋭い目。年も60近いはずなのに、その肉体はまるでアメフト選手のように大きく、 厚(あつ) い。

この人こそ魔物対策省の大臣、 堂島(どうじま) 龍一郎(りゅういちろう) 。

日本のダンジョン関係を一手に引き受けている傑物だ。

「お久しぶりです堂島大臣。ご壮健のようでなによりです」

「なんじゃその喋り方は。前みたいにもっとズケズケと言ってこんかつまらん。もう社会人もやめたんじゃろ?」

「……せっかく大臣になったからかしこまったっていうのに。これでいいですか?」

「おお! やればできるじゃないか! 相変わらず生意気な奴でわしゃ嬉しいぞ!」

そう言って堂島さんは俺の背中をバシバシと叩く。その力は凄く、足を踏ん張らないと吹き飛ばされてしまいそうだ。事実叩かれるたびに俺の足元の地面には亀裂が走っている。

いちいち豪快な人だ。