軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 継川宗真

「継川宗真……そいつが姫さんを拉致ったんすね……!」

ダゴ助は怒った様子でそう呟く。

怒りに燃えているが、体はまだ言うことを効かない。使われたガスはどうやらかなり強力なものであったようだ。

地上の物では魚人である彼にここまでダメージを与えることはできない。おそらくダンジョン産の素材で作られた物だろうと堂島は当たりをつける。

「継川宗真、聞いたことがあります。経営は子に譲り、本人はもう表で働いていないはず。歳はもう八十を超えているはず……そんな人がこんな過激なことをしたんですか?」

「ああ。あやつはそういう男じゃ。昔から良くも悪くも思い込みが強く、苛烈な男なのだ」

凛の疑問に堂島は答える。

「しかし富も名誉も十分にあるはず。それなのになぜこのような行動を? リリシアさんを手に入れてどうするつもりでしょうか?」

「あいつを突き動かしているのは『愛国心』じゃ。それも独善的で重く深い、な。」

「愛国心……? どういうことですか?」

凛だけでなく、星乃とダゴ助も言っていることが理解できず困惑している。

国を愛しているのであれば、堂島と協力するべきなのではないか? そう思うが、人の思考、信条というものはそう単純なものではなかった。

「あやつは 自分が(・・・) 国を守りたいんじゃ。他人でなく自分が主体でないと満足できない。だから日本にとってもっとも重要な存在であるリリシア殿を、 他人が(・・・) 守っているのが許せんのじゃろう。自分が保護し、自分で管理しなければ満足できない」

そう語る堂島の目には哀れみのようなものが浮かんでいた。

「老人は黙って後進に道を譲ればよいものを……。かつての奴には学べるところもあったが、今はもう感情を抑えきれぬ老人。奴の存在はこの国にとって邪魔な存在となりつつある。行き過ぎた愛国者の……哀れな末路じゃ」

大臣室に静寂が訪れる。

敵は分かった。目的もおそらく堂島が語ったものであっているだろう。

だがこれからどうする?

リリシアをどこへ連れて行ったのかは、まったく分かっていない。今こうしている間にもリリシアに危機が迫っているかもしれないのに。

星乃たちが表情に焦りを浮かべていると、タブレットを見ていた伊澄の表情が突然変わる。

「……っ! 大臣、リリシアさんを誘拐した者たちの行き先が分かりました!」

「本当か! でかしてぞ伊澄ちゃん!」

突然の朗報。

なぜ行き先が分かったのかは分からないが、暗かった星乃たちの表情がわずかに明るくなる。

「ほ、本当に分かったんですかい!? いったいどうやって!?」

「魔物対策省から離れている不審車両をソフトで全て追跡していました。東京都の道路であれば、どこの道路もカメラが狙っています。犯行時刻前に魔物対策省に近づき、その後去っていった大型の車両となれば数は限られています」

伊澄は眼鏡を光らせながら答える。

彼女はそう言っているが、簡単な作業ではない。

ソフトの補助があるとはいえ、その作業は凄まじい集中力を要する。一般人であれば不可能であろう。

しかし伊澄は覚醒者になったことで『集中力』や『処理能力』を大きく発達させた。

その代わり戦闘能力はさほど高くないが、サポート能力は非常に高い。

細かい作業が苦手な堂島が大臣をやれているのも、彼女の手厚いサポートのおかげであった。

「それで伊澄ちゃん、車はどこに行ったんじゃ」

「……まずいですね。車は東京湾に向かいました。継川グループが所有する船が何隻も港にあります。もしかしたら海外に逃げるつもりかもしれません」

「厄介な……!」

堂島は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

国内であれば手の打ちようもあるが、国外にリリシアを連れ去られては一大臣の力でできることはたかが知れている。

早急に手を打つ必要があった。

「すぐに向かおう。伊澄ちゃん車を手配し……」

「待って下さい」

立ち上がろうとした堂島を制す声。

その声の主は凛であった。

一刻を争う非常事態であるにもかかわらず、凛の表情は落ち着いていた。

「堂島大臣はこちらにいて下さい。現場には私が向かいます」

「……理由を聞いてもよいか?」

「相手は政界にも通じる権力者。大臣が直接赴いて敵対しては、リリシアさんを取り返せても大臣がなにかしらの罪や責任を被せられる可能性があります。そうなっては大臣を下ろされる可能性があります」

凛は堂島をまっすぐ見ながらそう言った。彼女の言葉を堂島は否定することはできなかった。

火のないところに煙は立たないと言うが、権力者は無理やり火を起こすことができる。

今もお互い睨み合っている状態であるが、堂島が派手なアクションを起こしたら向こうもなりふり構わず堂島を潰しにかかるだろう。

凛はこの戦いだけでなく、その後のことも考えていた。

「大臣。私も絢川さんの提案に賛成です。今魔物対策省の大臣が変われば、大きな混乱が起こるでしょう。苦しいでしょうが、ここは抑えて下さい」

秘書である伊澄もそう言ったことで、堂島は嫌々ながらもその場に腰を下ろす。

できることなら大臣の椅子を捨て、現場に出たい気持ちであった。

「分かった。絢川に任せる。失敗してもケツはワシが持つ。思いっきりやって来い」

「ありがとうございます。必ずリリシアさんは連れ帰ります」

凛がそう言い放つと、今まで黙っていた星乃が前にでる。

「あ、あの! 私も行きます! リリシアちゃんは私の家族みたいなものですし、凛ちゃんを一人で行かせられません!」

「気持ちは嬉しいが……お主は政府の人間ではない。危険な橋を渡ってもらうわけには……」

「大丈夫です! 顔は隠しますし! それに参加させてくれないなら、私勝手に行動しちゃいますよ?」

星乃は言ってにやりと笑う。

その押しの強さにたじろぐ堂島。どうしたものかと困っていると凛も口を開く。

「唯は言い出したら聞きません。頼りになりますし、私からもお願いできないでしょうか?」

「まさかお主がそう言うとはな。……分かった。特例として認めよう。しかし危なくなったらすぐ逃げてくれよ?」

「はい! 分かりました!」

星乃は嬉しそうにガッツポーズする。

これで方針は決まった。伊澄は急いで港に行く車両を手配する。

「……そういえば田中はどうした。あやつも来てくれると心強いのじゃが」

「あ、田中さんは今配信してて」

「そういえば天月とダンジョンに行っておったか。メッセージが見れる状況だといいのじゃが。ちょっとつけてみるか」

堂島はDチューブを開き、田中の配信をスクリーンに投影する。すると、

『ふう~、いい気持ちだ』

そこには眺めのいい温泉につかり、気持ちよさそうにしている田中の姿があった。

リリシアのことなど露知らず、温泉を堪能する田中。

彼を見た堂島は、仕方ないとは思いつつもぼやいてしまう。

「あいつ、こんな時になにをやっとるんだ……!」