作品タイトル不明
第2話 骨喰みのスケアクロウ
都内でも有数の巨大ダンジョン『渋谷地下ダンジョン』。
ダンジョンの中心部は巨大な穴が開いており、吹き抜けとなっている。
その穴の一番底。そこを更に下に降りていった場所でその戦いは行われていた。
「現れました! ネームドモンスター『 骨喰(ほねば) みのスケアクロウ』です!」
討伐一課の制服に身を包んだ男が叫ぶ。
彼が指差した先には一体のハゲワシ型モンスターがいた。
十メートルを超える巨体に、茶色い羽毛。
その嘴は歪に曲がっていながらも非常に鋭く、一突きで金属製の鎧を貫通させる威力を持っている。
そのモンスターの種族名は『ボーンコンドル』。
Bランクのモンスターで、屍肉を漁る 腐肉食生物(スカベンジャー) だ。
他の動物の頭蓋骨を被る習性を持っており、他にも拾った骨を羽の中に隠し武器として使う。
ボーンコンドルはそれほど強くないモンスターだ。
積極的に攻撃して来ることはなく、向かってきてもそれほど苦労せず倒すことができる。
しかし異常成長個体である『骨喰みのスケアクロウ』はSランク以上の力を持っており、対応している討伐一課の職員たちは苦労していた。
「こいつ、強い……!」
「ここから逃すな! また被害が増えるぞ!」
『ギィアーォ!!』
楽しげに笑うスケアクロウ。
スケアクロウはこの前中層に姿を現し複数の探索者を負傷させた。
その時はたまたまいたベテランの探索者のおかげで追い返すことができたが、もしそうでなければ全滅していただろう。
しかし今彼らは追い返してお終いというわけにはいかない。
彼らはこのモンスターを討伐しに来たのだから。
『ギィァー!!』
スケアクロウは甲高く鳴くと、上空から討伐一課の職員たちに襲いかかる。
鋭い鉤爪による攻撃は一撃で致命傷となる。職員たちは必死にかわし、反撃する。
「くらえ!」
職員の剣による一撃が、スケアクロウにヒットする。
しかしその一撃はスケアクロウの硬い羽を切ることはできず、ダメージを与えることはできなかった。
『ギィ!』
スケアクロウが鬱陶しそうに翼を振るうと、職員は吹き飛び地面を転がる。
なんとか体勢を立て直し立ち上がるが、その表情には疲労の色が見える。
「く、強い……!」
その職員は、決して弱いわけではない。
むしろ覚醒者の中でも上位の実力者であり、Aランク程度のモンスターであれば一人で倒すことができる。
しかしネームドモンスターが相手では話は別。
ネームドモンスターの強さは災害と言っても過言ではなく、個人の強さで対抗できるものではない。攻撃を受けて生きていられるだけでもかなりの実力があると言える。
「これ以上はもたないぞ……」
「頑張れ! もうすぐで応援が来る!」
十名ほどいる討伐一課の面々はスケアクロウ相手に奮戦し、なんとか時間を稼ぐ。
そうしていると 二人(・・) の人物が彼らめがけて走ってくる。
「すみません、遅れました。後は任せてください……!」
二本の剣を抜き、駆け抜けていく高速の影。
それは討伐一課の若きエース、絢川凛であった。
待ち侘びたエースの登場に職員たちは「待ってました!」と湧く。
凛は討伐対象であるスケアクロウを見据えながら、隣を走る人物に話しかける。
「唯。あれの防御力はかなり高いと聞きます。半端な攻撃は通用しないと見ていいでしょう」
「分かった。じゃあ思いっきりやればいいんだね!」
星乃がそう答えると、凛はくす、と笑いながら「そうですね」と答える。
『ギュイィ!!』
高速で駆けてくる二人の少女を見たスケアクロウは高く鳴いた後、翼を広げる。
見た目こそ可憐な少女である星乃と凛だが、スケアクロウの本能は二人を「危険」だと判断した。
スケアクロウはその本能に従い、本気で彼女たちを排除にかかる。
『ギュイィ!!』
スケアクロウは羽の間から無数のなにかを射出し、攻撃する。
「なにか飛んできた!?」
「あれはおそらく骨ですね」
凛の推測の通り、それはスケアクロウが集めた他の生物の骨であった。骨を収集する習性のあるボーンコンドルは、骨を武器としても利用する。
ボーンコンドルの異常成長個体であるスケアクロウも例外ではなく、大量の骨を隠し持っておりそれを武器として利用する。
放たれた骨はどれもスケアクロウの魔素によってコーティングされている上に、とても速い。
一発一発が銃弾より遥かに強力である、そんな物がまるで雨のように降り注いでくる。当たれば蜂の巣になることは免れないだろう。
「ここは私が。唯はその隙に攻撃を」
「うん!」
凛は双剣を構え、白い雨の中に突っ込む。
そして両腕を高速で振るい、降りかかる骨の弾丸を全て撃ち落とす。
『ギィ!?』
凛の高速の剣技を見たスケアクロウは驚き声を上げる。
するとその隙を突き、星乃が跳躍してスケアクロウのもとにたどり着く。
彼女は背に持っていた大剣を引き抜くと、両腕でしっかりと柄を握りスケアクロウめがけて振るう。
「えい……っ!」
『ギュ……オオオオオッ!?』
星乃の怪力から放たれた一撃がスケアクロウの頭部に命中し、そのままスケアクロウは地面に叩きつけられる。
『ギィ……ウゥ……ッッ!』
しかしスケアクロウはまだダウンしておらず、よろけながらも立ちあがろうとする。
星乃と凛は着地すると、再びスケアクロウめがけて走り出す。
「逃げられたら面倒です。次の一撃で決めましょう」
「うん! あれ(・・) だね!」
星乃の言葉に頷いた凛は、彼女の持つ大剣に自らの手を添える。
そして、
「 付与(エンチャント) ・ 雷(ラーム) 」
凛の魔法が発動し、星乃の刀身に魔法の雷が宿る。
切れ味が大幅に増した大剣を構え、星乃は一気にスケアクロウに肉薄する。
「やあああっ! 雷剣・ 万断(よろずだ) ち!」
星乃の渾身の一撃が炸裂し、ズバァン! とまるで雷が落ちたかのような音が周囲に響く。
星乃と凛、二人の力が込められたその一撃はスケアクロウの体を斜めに一刀両断してしまう。
『ギ、ィ……ッ』
最後にそう言い残し、スケアクロウはその場に倒れ動かなくなる。
それを確認した星乃は凛のもとに駆け寄り、彼女とハイタッチする。
「やったね凛ちゃん!」
「ええ、やりましたね。唯のおかげです」
「そんなことないよ! 凛ちゃんがサポートしてくれなかったらこんな簡単に倒せなかったよ。やっぱり私たちが組んだら最強だね。ふふふ」
「あんまり調子に乗ったら駄目ですよ唯」
「はーい♪」
さっきまで命懸けのバトルをしていたとは思えないほど、平和な会話をする二人。
そんな彼女たちを見て、討伐一課の職員たちは呆然とする。
「絢川さんが強いのは知っていたが……まさか星乃さんがあれほどとは」
「ネームドをあんなに簡単に倒すなんて。あれで大学生って本当なのか?」
「てか絢川さんと息合いすぎ。 一課(ウチ) に入ってくれないかなあ……」
「いや無理でしょ。 白狼(ホワイトウルフ) ギルド抜ける人なんていないよ」
「それもそうか。手伝ってくれるだけでもありがたいと思うとするか」
口々に星乃を褒める職員たち。
この調子なら天月がダウンしていても乗り切れるかもしれない。
芽生えた希望を胸に、彼らはスケアクロウの処理に向かうのだった。