作品タイトル不明
第4話 田中、相談する
「それで……私になにをしてほしいんだい? 悪いけど私にもその剣を修復することはできないよ。普通の剣ならまだしも、それはアダマンタイト製だ。できても一時的に繋ぎ合わせることくらいしかできない」
「ええ、修復をお願いするつもりはありません。アダマンタイトを入手したいんですが、なんとかなりませんか?」
もともとここにはそのつもりで来た。
この人なら俺の知らない情報も知っている可能性があるからな。
「なるほど、事情は理解した。私もそこそこ忙しい身ではあるが、キミに貸しを作っておくのも悪くはない。ネロくん」
「すでにやってますよ黒須殿。あと10秒もらえれば出ますよ」
見ればネロ博士の周囲にいくつも画面が浮かび上がっている。
ホログラムのその画面には、いくつもグラフや数式といったものが書いてあるが、俺にはそれがどんな意味なのかは分からない。
もうちょっと数学の授業を真面目にやっておけば分かったんだろうか。
「これはなにをやっているんですか?」
「ダンジョンで採掘される一部の鉱石は、特殊な魔素を放っている。そしてアダマンタイトもその一部に該当する。さっきキミの剣を計測した時に、そのデータは計測済みだ。後は既存のダンジョンからその魔素を計測できたものを検索するだけというわけだ」
「おお……そんなことができるんですね」
確かにその方法なら、潜るダンジョンの候補をかなり絞ることができる。適当に入るよりかなり効率的だ。
牧さんを頼ったのは正解だったな。
「首尾はどうだいネロくん」
「あまり良くないですよねえ。アダマンタイトは私のいた世界でもかなり希少な金属。見つけるには骨が折れます。もう少し時間がほしいですね」
「そうかい、では引き続き作業をお願いするよ」
牧さんはそう言って俺に視線を戻す。
「ということだ田中クン。申し訳ないが少し時間をくれたまえ。なに、キミが家でゆっくりしている間にバッチリ見つけてあげるとも」
「ありがとうございます。頼りにしてます」
これでアダマンタイトに関しては大丈夫だろう。
ひとまずそっちは見つかるのを待つとして…… もう一つ(・・・・) の用事も済ませるとしよう。
「あの、実はもう一つ牧さんに相談したいことがありまして……」
「ん? なんだい、言ってみるといい」
「実は……」
俺はポケットの中から、最近気がかりだったそれを取り出す。
「実はこいつのことなんです」
「これは……」
俺はテーブルの上に黒いコロコロしたそれを置く。
牧さんはそれを見るとガバッと身を乗り出し、近くで凝視する。
「おや、おやおやおや!? もしかしてこれはリリくんかい!?」
「はい、そうなんです」
リリは俺が拾った小さいショゴスだ。
通常モンスターは外に出てこないが、リリは普通に外で生きている。
それだけじゃなくて、なぜか人に懐いているし人と意思の疎通もできる。
リリは黒くてぷにぷにした姿をしていたが、今は丸っこい、ころころした姿をしている。
そして目を閉じて「すー、すー」と可愛らしい寝息を立てている。朝ご飯を食べてからずっとこんな感じで眠っている。
「しばらく前からそうなってしまって、あまり動かなくなっちゃったんですよ。たまに起きてはご飯を食べて、また寝るって感じで。食欲はあるので病気ではないと思うんですが」
「ふーむ、これは興味深い。ちょっと調べさせてもらうよ」
牧さんはウキウキでリリの検査を始める。
動物病院に連れて行けるはずもないので助かった。北海道のダンジョンに行った時もリリを連れては行ったんだが、ポケットの中で寝てたので出てくることはなかった。
元気になってくれるといいんだけど……。
「なるほどなるほど、ふむ……」
「なにか分かりましたか?」
「結論から言おう。リリくんの体は非常に健康だ、なにも問題はない」
牧さんの言葉にひとまず俺はホッとする。
だがいったいそれじゃなんでこんな状態なんだ?
「健康状態に異常は見られない。ただエネルギーの消費量を一時的に抑えているように見えるね。一種の休眠状態とも言えるね」
「休眠状態ですか。いったいなんでそんな状態に……」
「通常生物は環境的な要因で休眠状態に入る。冬を越すために冬眠したりねえ。でもリリくんはそれじゃないだろう」
リリにとって今の環境は悪いものじゃないはず。
エネルギーを節約する意味は別にあるということだ。
「じゃあ他にどんな理由が考えられるんですか?」
「そうだねえ。たとえばなにか……大量のエネルギーを使う 予定(・・) があるとかかねえ。それがどんなものかは分からないけども」
「エネルギーを使う予定、ですか。いったいなにをする気なんだ?」
ショゴスの生態なんて分からないから、想像がつかない。
もしかして分裂するとかか? 小さいリリが二人になるのは可愛いが、倍々ゲームでどんどん増えるのはちょっと怖いな。
「残念ながらこれ以上のことは私にも分からない。頼ってくれたのに力になれず悪いね」
「いえ、健康だってことが分かっただけでも十分です。ありがとうございます」
相談したおかげで胸のつっかえが取れた感じがする。
これで剣を直すことに集中できるな。
俺は預けた剣とリリを返してもらい、今日のところは帰ることにする。
「それじゃあこれで帰ります。色々とありがとうございました」
「こちらこそ楽しかったよ田中クン。またいつでも遊びに来てくれたまえ」
ひらひらと手を振る牧さんに礼を言い、魔導研究局を後にする。
そもそもアダマンタイトがあるダンジョンが、今日本に存在していないという可能性もある以上、連絡はしばらく来ないかもな。
休日ということにしてしばらく休んでもいいかもしれない。
――――と思っていたのだが、その次の日に「アダマンタイトがあると思われるダンジョンを発見した」という連絡が入った。
どうやら俺はまだ休ませてもらえないようだ。