軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 星乃、リーダーになる

「大丈夫ですか? 動けますか?」

「あんたは……」

疲弊した様子の探索者が視線を動かすと、そこには探索者、星乃唯の姿があった。

その後ろには二十人近くの探索者もついてきている。 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) ギルドだけではなく、 黒曜石の熊(オブシディアンベア) や 黄金獅子(ゴールドレオ) ギルドのメンバーもいる。

どうやらギルドの垣根なく、はぐれた者同士で集まり行動しているようだった。

「お水飲めますか?」

「い、いいのか……?」

「はい! 困った時はお互い様ですから」

「ありがとう……助かったよ」

探索者の男は星乃からペットボトルを貰うと、中の水をごくごくと飲み干す。

彼らがいるのはダンジョン下層部。田中のいる場所ほどではないが、かなりの高温地帯であり、溶岩が露出している部分もある。

水は貴重品であり、彼らの生命線だ。

(正直余裕があるわけじゃないけど、脱水症状を起こしたら動けなくなっちゃう。早く上に行って水を補給しないと……)

星乃は流れる汗を拭い思案する。

全員の荷物が無事であれば余裕があっただろうが、探索者の中には転移した時に荷物を紛失した者もいた。星乃の荷物もいくつか駄目になってしまい、人に 施(ほどこ) す余裕はそれほどなかった。

しかしそれでも、他人を見捨てることなど彼女はできなかった。

男は水を飲み干すと、星乃に感謝し頭を下げる。

「本当にありがとう……生き返ったよ。万全とは言えないが、歩くことくらいならできる。一緒に行っても構わないか?」

「はい! もちろんです! 一緒に脱出しましょうね!」

星乃は探索者を奮い立たせ、先に進む。

今日来ている探索者たちの中には、下層の探索経験がない者もいる。そんな状態でいきなり下層まで転移させられ不安になる者もいる中、先へ進めているのは星乃の持ち前の明るさが大きいだろう。

しかしそんな状況でも、トラブルは起きる。

「もとはと言えば、お前らが欲に駆られたのが悪いんだろ!」

「なんだと!? お前らだって宝箱を見つけたら開けてただろ!」

「意地汚えお前らと一緒にすんな!」

ダンジョンを進んでいると、突然探索者同士でいさかいが起きる。

見ると 黄金獅子(ゴールドレオ) ギルドと 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) ギルドの探索者が言い合いをしている。

言い合いの内容は 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) が宝箱を開け転移罠を起動してしまったことについて。

今言い争いをすることの不毛さは両者分かってはいるが、それでも不注意でこのような事態になってしまったことに文句を言わずにはいられなかった。

「だいたい 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) の連中は勝手なんだよ。この前だって強引な探索でモンスターを活性化させて迷惑をかけたじゃないか!」

「あの時はああするのが最善だった! 活性化したモンスターはうちで処理したし、問題ないだろ!」

白熱する二人の喧嘩。

会話は平行線をたどり、解決する兆しはない。

すると彼らのもとに星乃がすたすたと近づいていく。

無言で近づいてくる彼女を見て、二人の探索者は言い合いをやめる。

「ほ、星乃さん。どうしたんだ……?」

「悪いがあなたには関係ない。星乃さんも 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) には迷惑してるだろ? 放っておいてくれ」

二人の言葉を聞いた星乃は少し黙った後、突然握った拳を振り下ろし、二人の探索者を殴って地面にめり込ませる。

「ぶべ!?」

「がっ!?」

仲良く地面に突き刺さり、苦しそうにする二人。

二人はなんとか頭を地面から引き抜くと「なにをするんだ!?」と星乃に詰め寄る。

「喧嘩両成敗です! 今喧嘩してる場合じゃないことはわかってますよね?」

「そりゃあそうだが……そもそもこうなったのはこいつらが欲をかいたからで……」

黄金獅子(ゴールドレオ) の探索者が文句を言うと、星乃は再び拳を握って見せる。 拳(それ) の痛みを思い知っている彼は「い、いやなんでもない」と言葉を引っ込める。

「不安になる気持ちは分かります。文句を言いたくなる気持ちだって分かります。でもそれは、無事脱出できてからでいいじゃないですか!」

「星乃さん、あんた……」

星乃は真剣な表情で訴える。

気づけばその場にいる探索者の全員が彼女の言葉に耳を傾けていた。

「仲良くしてください、なんて言いません。でも……今だけでも協力し合いましょうよ。それで脱出できたら、好きなだけ喧嘩しましょう。もしどうしても我慢できないって言うのでしたら、みなさんの怒りは私が引き受けます!」

星乃は「さあ殴れ」とばかりに手を広げて隙を晒す。

そんな彼女の捨て身の行動を見た 黄金獅子(ゴールドレオ) の探索者は、星乃の方に手を伸ばし……彼女の肩にぽんと手を置いた。

「負けたよ。あんたの言う通りだ。大人気なくて悪かった」

彼は星乃に謝罪をすると、食ってかかった 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) の探索者にも頭を下げ、謝罪する。

その顔にはもう怒りの色はなく、申し訳なさだけが残っていた。

「迷惑かけたな星乃さん、あんたの言葉と拳、効いたよ。迷惑かけた分、働かせてもらう。こう見えても探索者歴はそこそこ長いんだ、こき使ってくれリーダー」

「ありがとうございます……って、リーダー? わ、私がですか?」

「ギルドが違う俺たちをまとめられるのはあんたくらいしかいない。そうだろみんな?」

彼が探索者たちに問いかけると、周りの者たちも頷いて同意する。

「星乃さん! 俺たちをまとめられるのはあなただけだ!」

「どうか私たちのリーダーになって! お願い!」

星乃をリーダーに望む声がいくつも上がる。

共に脱出を目指してそれほど時間は経っていないが、星乃はすでに彼らの心を掴んでいた。

(ど、どうしよう。私がリーダーなんて器じゃないけど……)

星乃は明るく元気な性格だが、人の上に立つのはどちらかというと苦手なタイプだった。

しかし田中と出会ってから修羅場を乗り越え、人として成長していた。

(でも私がリーダーになることでみんながまとまるんだったら……やる価値はあるかもだよね。田中さんだってきっとそうするはず)

星乃は覚悟を決め、彼らのリーダーになることを決める。

すでにここまでの道中で彼女がリーダー的なポジションを務めてはいたのだが、ちゃんと役職として名乗るとなると、肩にかかる重みも変わる。

「分かりました! まだまだ未熟ではありますが、脱出まで私がみなさんのリーダーを務めます! みんなで力を合わせて脱出しましょう!」

星乃の言葉に他の探索者たちは「おー!」と拳を振り上げ応える。

物資も体力もこころもとない状況であるが、新たなリーダーの誕生は確かに彼らの体に力を与えた。

(待ってて下さいね田中さん。私、頑張りますから!)

星乃は尊敬する人に心の中でそう誓うと、ダンジョン脱出を目指し前進を再開するのだった。