軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 雪さん、剣を振るう

雪さんは一流のフェンシング使い、フェンサーだった。

通常、探索者の使う武器は頑丈な方が好ましい。

人間より強い力を持つモンスターの攻撃を受けたり、硬いモンスターの体を傷つけたりしているとすぐに武器など壊れてしまうからだ。

俺の使う剣もとびきり頑丈な物だ。普通の剣を使ったら一日も持たず壊れてしまうからな。

だが雪さんの使うレイピアは剣の中でもかなり壊れやすい部類に入る。

刺し方が悪ければすぐ折れてしまうし、相手の攻撃を受けることもできない。

しかし雪さんはその技量の高さで、その弱みを解消した。

的確に相手の弱点を突いて刃への負担を少なくし、相手の攻撃はレイピアで上手く反らして回避していた。そのおかげでレイピアという武器でもモンスターと互角以上に渡り合えていた。

俺と雪さんの戦闘スタイルはかなり違うが、その技量偏重型のスタイルからは学べる点もあった。またあの剣技が見れるとしたら嬉しい。

「……だけど本当に剣が振れるようになったのか?」

皇居直下ダンジョンで雪さんはかなりの重傷を負った。

腕がほぼ千切れるほどの大怪我。今普通に動かせるようになっているのは奇跡と言っていいだろう。

しかしいくら動かせるようになったとはいえ、前のように繊細な動きができるかは別問題だ。

筋肉や血管の繋がり方が変われば、腕を動かす感覚も変わる。高い技量を要求される雪さんの剣技を、今の腕で再現できるのだろうか?

『ブウウゥ……バアッ!!』

巨大なイノシシ、フロストボアは雪さんに狙いを定めると、猛スピードで突進する。

氷でできた牙は金属製の鎧を簡単に貫通する力がある。さすがの雪さんでも正面から食らえば痛いだろう。

"来た!"

"雪さん大丈夫?"

"しばらく現場出てないし怖い"

"いけるか?"

"そんなモンスター叩き切っちゃえ!"

雪さんにとっては数年ぶりの実戦。

しかし少しも緊張した様子はなく、昔のようにレイピアを優雅に構える。

右手と右足を前に出し、腰を低くしてなにも持っていない左手を後ろに持ってきてバランスを取る。フェンサー独特の構え、昔と変わっていない。

「特別にアナタに 魅(み) せてあげる。私の新しい 美技(わざ) をネ……♡」

雪さんはレイピアの刃先をフロストボアの眉間に定めると、地面を蹴って前進する。

そしてレイピアを振り上げ、その長い刀身を上にしならせ、その反動で加速する。とうとう見れるのか、雪さんの剣技が。

「食らいなさい! 必殺、レイピア キック(・・・) ゥ!!」

「え?」

雪さんの鍛え抜かれた 足(・) がフロストボアの顔面を蹴り飛ばす。

その威力は凄まじく、フロストボアの巨体はものすごい勢いで吹き飛び、木を何本もなぎ倒した後、地面に転がり停止する。

あれならもう起き上がれな……って、今はそれよりも気になることがあるぞ。

"え?"

"は?"

"蹴ってて草"

"レイピア関係ないやんけ!"

"レイピアは添えるだけ"

"トンファーキックかな?"

"ただのキックじゃんww"

華麗なる 蹴り(・・) を決めた雪さんは、レイピアをピッと体の横に振り決めポーズを取る。

様になってはいるが、そのレイピアは使われていない。ツッコミ役が不在では視聴者たちが可哀想なので、今のはなんだったのか俺は尋ねることにする。

「雪さん、今のって……」

「私は大怪我をして以来、前のように剣を振るうことができなくなったわ。でもいつまでも現場から逃げてはいられない、可愛い社員たちを守るためにもネ」

雪さんのギルドには出生や性別など、様々な理由で迫害された人が多く所属していると聞く。彼らを守るためにはギルドを大きくするだけじゃなく、純粋な強さも必要だったんだろう。

「だから私は新しい戦法を考えた。昔のような繊細な剣さばきは無理でも、豪快に剣を振るうことならできる。レイピアの剣のしなり、その反動を活かした新しい 美技(わざ) ……それが『レイピアキック』よ!」

「そ、そうですか……」

"シャチケン困惑してて草"

"深刻なツッコミ役不足"

"レイピア意味ねえw"

"いや、でも理には 適(かな) ってるな……"

"言うほど 適(かな) ってるか?"

"理くんもこれには困惑"

"普通に蹴ったほうが早くね?w"

"馬鹿だな。それじゃ美しくないだろ"

"蹴ったことに気を取られて、普通に剣なしでも強いことに誰も言及してないの草なんだ"

レイピアの反動で威力が増すって話がどこまで本当かは分からないけど、さっきの蹴りが見事な一撃だったのは間違いない。

昔ほどの強さはないにしても、頼れるレベルにまでは確実に戻っているだろう。

「さて、私の美脚で他のモンスターも……って、あら。もう終わっちゃったみたいね」

見れば雪さんの言葉通り、現れたモンスターたちが丁度倒され尽くしていた。

どうやら今倒されたフロストボアが一番強いモンスターだったみたいだ。

「ふう、アクシデントはあったけど、無事終わったわね。それにしてもこのモンスターの量、やっぱり他のダンジョンよりも危険度が高いと見ていいわね。怪我人もいるみたいだし、今日は撤退した方が良さそうね」

「そうですね。まだ中層に入ってすぐ、帰るのにも時間はかからないでしょう」

俺は雪さんの言葉に同意する。

俺たちが数人のパーティだったら、どこか安全そうな場所を見つけて休憩するという手も考えられる。

しかし今の俺たちは三十人近い大所帯だ。どう隠れてもモンスターに見つかる可能性は高い。

だったら中層に居座るよりも、ダンジョンを引き返したほうが危険度は低い。来た道のモンスターは倒したばかりなので、帰り道にモンスターと出会う可能性も低いしな。

そう決めた俺と雪さんは、 黒曜石の熊(オブシディアンベア) の熊岩さんと、 黄金獅子(ゴールドレオ) のリーダーにその旨を伝える。

まだあまり中層を探索できていないので、そのことが気がかりな様子ではあったが、二人とも撤退を了承してくれた。

探索者の中にはさっきの戦闘でかなり疲弊した人もいる。今無理をするよりも日を改めた方がいいと考えてくれたんだろう。

「さて、じゃあ 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) にも伝え……ん?」

少し離れたところに固まっている 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) に目を向けると、彼らがなにかを調べていることに気がつく。

雪が積もってるところを掘っているみたいだけど……なにをしているんだ?

不思議に思いながら近づくと、突然彼らが大きな声を出す。

「あった! お宝だ!」

嬉しそうな声で叫ぶ 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) の探索者。

見ると確かに積もった雪の中から宝箱が顔を出している。どうやらさっきの戦いの最中で埋まっていた宝箱を見つけたみたいだ。

ダンジョンの宝箱には価値が高いものが入っていることが多い。成果がほしい彼らからしたら待ちに待った垂涎の代物だろう。

しかし宝箱にはトラップが仕掛けられている物も多い。毒とか、ミミックとか。見つけたからといってすぐに開けるのは危険だ。

注意する奴はいないのか……と思うが、彼らのリーダーである三上も隣で宝箱を開けさせようとしている。これじゃあ止める奴もいないか。

「早く開けましょう! あれだけのモンスターがいたんです、きっと価値のある物が入ってるに決まってます!」

「おい。危険だからやめ……」

俺はそれを注意しようと近づくが、

「やった! 開い……ん?」

宝箱が開いたその瞬間、俺たちがいる地面が 全て(・・) 光りだす。

それとともにその上にいる俺たちの体もほんのり光りだす。おいおい、マジかよ。

その光の意味を理解すると、同じくそれに気がついた星乃が焦った様子で近づいてくる。

「田中さん! これって……!」

「ああ、よりにもよって 転移罠(・・・) だ」

ダンジョンに存在する罠の中でも特に厄介なのが転移罠だ。

その名の通り転移罠は対象を別の場所に 転移(テレポート) させる。そしてその転移先はだいたいが危険な場所だと相場が決まっている。

俺と星乃は罠ではないが、モンスターの攻撃で他の場所に転移させられたことがある。その時の感じと同じなので星乃も気がついたんだろう。

しかし今回の転移はモンスターではなく、ダンジョンの仕業だ。

それはモンスターの使ったものよりも高位の転移魔法だと考えられる。事実転移の範囲はこの中層のエリア全土に広がっている。

転移させる箇所も複数選べるだろうから、同じところに転移してくれる可能性は低いとみていいだろう。

「そんな、どうしてこんなことに……」

自分の仲間がしでかしたことに絶望し、その場に膝をつく三上。

他の 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) の面々もなにが起きたのか理解できず慌てている。

"え、どうすんのこれ"

"田中ァ! なんとかしてくれ!"

"まじでピンチだろこれ"

"シャチケンでもどうにもならないの?"

正直、この転移を中断させることはできる。

地面にしかけられた転移の魔法。それを叩き切れば転移は発動しない。

しかし半端に転移を中断すると、次元の狭間に閉じ込められる人が出る可能性がある。ていうか前に一回俺も閉じ込められたことがある。

その時はゆがんだ空間をクロールして戻ってこれたけど、上手く泳げなかったら永遠に次元の狭間をさまよい続けることになる。他の人がたくさんいる今、試すべきじゃないだろう。

だったら今やることは――――

「星乃、どこに飛ばされるか分からないが、俺たちは別々の場所に飛ばされる可能性がある。その時は……そっちは任せたぞ」

星乃は少しの間驚いたような表情をしたが、すぐに頼もしい顔つきになると「分かりました。任せてください」と力強く答えた。

出会ってそれほど経ったわけじゃないのに、こんなに頼もしくなるなんてな。

「それじゃあまた後でな」

「はい! 必ず再会しましょう!」

その言葉を最後に、俺たちは転移される。

さて、あんまり変なところに転移しないでくれよ?