軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 田中、忠告される

翌日。

ホテルで休んだ俺たちは、ダンジョンの入口へと足を運んだ。

ダンジョンアタックは朝の十時から始まる予定だ。

普通のダンジョンアタックはこれくらいの時間に始まるらしい。俺が社畜の時は五時とかから潜らされていた。そこから休憩なしで夜中まで仕事漬け……よく死ななかったもんだと自分でも感心する。

「人がいっぱいいますね」

「そうだな」

入口の前にはすでに大勢の探索者が集まっていた。

数にして三十~四十人ほど。中々の大所帯だな。パッと見た感じ、明らかな新人はいなさそうだ。ギルドとしても実力のある人間を送って手柄を立ててほしいんだろうな。

「おはよう田中ちゃん」

「い!?」

突然耳元から艶めかしい声が聞こえ、驚く。

距離を取りそっちを見ると、そこには雪さんの姿があった。この巨体で音もなく近づいてくるとか怖すぎる。

「おはようございます雪さん。そのドレス、決まってますね」

「あら嬉しいわね。今日のためにこしらえた自慢の一品よ」

雪さんはスリットの入った立派なドレスでポージングを取る。

雪さんの体格に合うドレスだ。きっとオーダーメイドなんだろうな。素材もかなり良さそうだ。

そしてドレス以外にもう一つ、雪さんの身につけているもので目に付く物があった。

「雪さんそれって……」

「あら見つかっちゃった? あの時折れちゃってそのままにしてたけど、復帰を決めた時に直してもらったの」

雪さんは腰に差している刀身が細長い剣、レイピアをなでる。

前に一緒にダンジョンに潜った時は、このレイピアを振るい、幾多のモンスターを切り刻んでいた。俺の師匠もその剣さばきを褒めてたっけか。

どれだけブランクを取り戻せたのかは分からないけど、あれがもう一度見れたら嬉しいな。

「流石にあの頃と同じとは言えないけど、足は引っ張らないわ。期待してて頂戴」

雪さんはそう言うと「それより」と前置きして俺たち以外の探索者に目を向ける。

ギルド所属の探索者たちは、俺たちの方に視線をちらちらと向けてきている。

「みんな田中ちゃんのことが気になっているみたいね。もうすっかり有名人だからしょうがないケド」

「雪さんが気になっているんじゃないですか? 雪さんに憧れている探索者は多いでしょうし」

俺がそう言うと雪さんは驚いたように目をパチクリさせる。

「もう田中ちゃんたら上手なんだから!」

そして嬉しそうにそう言うと俺の背中をパンッッ! と叩く。

衝撃波が辺りに散って、俺の足元の地面が砕け散る。おいおいなんて力でツッコむんだこの人は。普通の人だったら肉片になってるぞ。

「だ、大丈夫ですか田中さん?」

「ああ、大丈夫だ。だけど星乃には少し痛いかもしれないから、あんまり雪さんを褒めすぎない方がいいかもな」

「わ、分かりました……」

星乃は少しびびった様子で答える。

やれやれ、雪さんにも困ったもんだ……と、そんなことを考えていると、一人の大柄な男性がこちらにやって来る。

少しうるさくし過ぎたか? と思っていると、その人物は物腰低い感じで俺に話しかけてくる。

「お初にお目にかかります、田中誠さん。私はギルド 黒曜石の熊(オブシディアンベア) の社長をやっています、熊岩大吾と申します。お会いできて光栄です」

そう言って熊岩と名乗った人物は名刺を出してくる。

ギルド『 黒曜石の熊(オブシディアンベア) 』か。聞いたことあるな。中堅どころのギルドで、目立った活躍こそ少ないが、ベテランが多く在籍していて手堅い成果を上げているところだと足立が言っていた。

そこの社長ってことは本人の腕も立つんだろう。ぱっと見は俺と同じく地味めな印象を受けるけど、熟練した戦士といった印象を受ける。

「ご挨拶いただきありがとうございます。 白狼(ホワイトウルフ) ギルドの田中です。よろしくお願いいたします」

俺も『 白狼(ホワイトウルフ) ギルド社長 田中誠』と書かれた名刺を取り出し、熊岩さんに手渡す。

会社を辞めてこういう社会人的行為はすることもなくなるかと思ってたけど、社長になったせいでむしろ前よりこういうことをする機会が増えてしまった。

まあ労働時間は圧倒的に減っているからいいんだけどな。

「あら、熊ちゃんも来てたのね。お久しぶり」

「はい、雪さんもご無沙汰しております。今日はよろしくお願いいたします」

どうやら雪さんと熊岩さんは知り合いみたいだな。

二人とも(俺もだけど)ギルドの社長だ。お互い顔は広いだろうし、知り合いでも不思議じゃないか。

「田中ちゃん、紹介するわ。熊ちゃんよ。 黒曜石の熊(オブシディアンベア) の社長で、日本でも有数の 盾役(タンク) でもあるわ」

盾役(タンク) というのは、探索者でパーティを組む時、相手の攻撃を受ける防御役を担当する人のことだ。もとはゲームで使われていた言葉らしい。

高い防御能力と体力はもちろん、勇気と気合いも大事な役割だ。モンスターの大技を避けるのではなく受けなくちゃいけないわけだからな。

俺なんかは自分で避けて斬ってを繰り返すスタイルなので世話になることが少ないが、魔法を多用する探索者なんかは魔法を打つ溜め時間が必要なため、 盾役(タンク) がほぼ必須と聞く。

俺の周囲の魔法を使う人……天月や凛は動けて魔法を撃てるタイプなので 盾役(タンク) を必要としないが、ああいうのは 稀(まれ) だ。魔法は脳に大きな負荷がかかるので普通はあんな風に戦えない。

「そうなんですね。頼りにさせていただきます、熊岩さん」

「はは、よしてくださいよ。私も腕には多少自信がありますが、田中さんがいるとなったらたいした活躍はできませんよ」

熊岩さんは自嘲気味に答える。

……ん? なんか一瞬だけ嫌な感じがしたな。どうやら今の言葉はただの 謙遜(けんそん) じゃなさそうだ。

「それでは私はこれで。ダンジョンではよろしくお願いいたします」

「はい。また後で」

熊岩さんが同じギルドの人のもとへ向かっていくのを見守る。

すると雪さんが俺がさっき感じた違和感について言及してくる。

「気を悪くしないで田中ちゃん。熊ちゃんも悪気があるわけじゃないの」

「どういうことですか?」

俺が尋ねると、雪さんは申し訳無さそうに眉を下げながらその言葉の意味を説明してくれる。

「今どこのギルドも成果を上げるのに必死なの。最近はダンジョンの出現数が増えてるでしょ?」

「ええ、そうですね。世界的にも増加傾向ですが、日本は特に顕著ですよね」

毎日のように新しいダンジョンが生まれたというニュースが流れている。

普通に考えたら成果を出しやすい状態に思えるけど、どうやら違うみたいだ。

「そ、ダンジョンの発生件数は増えている。だけど、そのダンジョンの 危険度(・・・) も上昇傾向にあるの。田中ちゃんから見たらそんなに変わってないように見えるかもしれないけど、ダンジョンの危険度は確実に上がっているわ」

そういえば足立もそんなことを言っていた気がするな。

俺は昔から危険度の高いダンジョンばかり潜らされていたから、気がつかなかった。

「危険度が上がれば、探索に失敗する確率ももちろん上がるわ。ダンジョン探索はリスキーな商売……成功すれば利益は莫大だけど失敗すればもちろんその逆。 黒曜石の熊(オブシディアンベア) もこの前探索に失敗してかなり痛手を負ったと聞いたわ」

「なるほど……つまりどのギルドも懐事情が苦しいと」

「そゆこと。 初探索(ファーストアタック) は、上手く行けばとんでもなく稼ぐことができるわ。熊ちゃんもギルドの運営を維持するために今回の探索に賭けているのよ」

なるほど……と、話を聞いていると、今度は違う人物が近づいてくる。

「そう、僕たちは今回の探索に賭けているのです……貴方たちとは違ってね」

そう声をかけてきたのは、眼鏡をかけた青年だった。

年は20そこらだろうか。真面目系のイケメンって感じだ。腰に剣を差しているところを見るに、こいつも探索者だろう。

「あなたは確か 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) の……」

「はい。ギルド『 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) 』所属の 三上(みかみ) 修二(しゅうじ) です。今回の我がギルドパーティのリーダーを務めております。どうぞお見知りおきを」

眼鏡をくい、と上げその青年は名乗る。

漫画に出てくる堅物キャラがそのまま出てきたみたいな奴だな。

『 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) 』は確か最近できた新進気鋭のギルドのはずだ。勢いのある若手探索者が集まり作ったとこだと足立が言っていた。

他の大手ギルドを抑えてこの探索に参加できたところを見るに、確かにその勢いは凄いようだ。

「田中さんと毒島さん、皇居大魔災を止めて下さったお二人のことは尊敬しています。しかし今回の件はそれとは別の話です。僕たちは今回の探索で絶対に手柄を立てなくてはいけないのです」

彼の冷静な口調の裏に、俺は焦りのようなものを感じた。

焦り 逸(はや) りはダンジョン探索において命取りなんだけどな。

「あなた方がどのような理由でこの探索に参加されたかは知りませんが、くれぐれも私たちの活動の邪魔だけはしないよう、お願いいたします」

「ちょっとそんな言い方……!」

星乃が抗議しようとするが、俺はそれを手で制する。

そして俺はビジネス用の真面目な顔で三上に返事をする。

「ええ、分かりました。邪魔をしないよう、気をつけます」

「……ありがとうございます。それでは失礼いたします」

三上は小さく一礼すると去っていく。

やれやれ、前途多難そうだ。

「田中さん、いいんですかあんなこと言わせちゃって!」

「彼も焦ってるだけだろう。別に敵意を持っているわけじゃない」

別にここで言い負かしてもしょうがない。

空気が悪くなる方がダンジョンの中でトラブルが起きる可能性が高くなるしな。

「でも……」

しかし星乃はまだ納得いっていないみたいだ。

意外と頑固なところがあるからな。まあそこがいいとこでもあるんだけど。

と、そんなことを思っていると、雪さんがこちらを見ながら微笑んでいることに気がつく。

「大人になったわね田中ちゃん。昔だったら喧嘩になってたんじゃない?」

「え、そうなんですか?」

雪さんの言葉に星乃が反応する。

「ええ、田中ちゃんにも尖っていた時期があったのよ。反抗期って奴ね、可愛かったわあ」

「田中さんにそんな時があったなんて……! その話詳しく聞かせてください! お願いします!」

「もちろんいいわよ♪ なにから話そうかしら」

「ちょっと雪さん!? なに話そうとしてるんですか、やめてください!」

俺は黒歴史を掘り起こそうとする雪さんを止める。

やれやれ……困った人だ。油断も隙もあったもんじゃないな。