軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 田中、楽しみにする

「むー。唯ばっかりずるいです」

そう言うと凛は頬をぷくっと膨らませる。

すねる彼女を見て俺は困った顔をしながらなだめる。

「そう言ったって仕方ないだろ? 今回の仕事は 白狼(ホワイトウルフ) ギルドでやることになってるんだから」

今の時刻は夕方、仕事から帰ってきた凛に俺と星乃が北海道に行くことを言ったらこうなってしまった。

俺だってできることなら凛と天月を連れて行きたい。二人は頼りになるし、都内で仕事漬けの二人にはいいリフレッシュになると思うからな。

しかし今回の探索は政府抜きのギルド主体で行う。

俺や星乃が行く分にはギリセーフだろうけど、天月や凛を連れてったらアウトだ。またギルドから文句が出るだろうし、彼らの 不満(ガス) 抜きにならない。

「それにその日は大きな仕事が入ってるって堂島さんが言ってたぞ。どちらにしろ凛は行けなかったんだ」

「だったら魔対省を辞めます。それなら問題ないですよね?」

「いやいや、そんなことで辞めんなよ」

俺は冷や汗を流しながら突っ込む。

確かに魔対省を辞めれば政府の人間じゃなくなるけど……凛が抜けたら討伐一課は大混乱だろうな。若手のエースが抜けた穴はそう簡単には埋められないだろう。

「せっかく魔対省に入れたのに抜けてこの先どうするんだよ?」

「大丈夫です、先生に永久就職しますから。ぶい」

凛はソファに座ってる俺の隣に座ると、こてんと肩に頭を乗せてピースしてくる。

なんだこの生き物、可愛すぎる。こんな風に甘えられると注意する気力も失せてしまう。しかし、

「なに馬鹿なこと言っているの。あまり誠を困らせるんじゃないの」

後ろから近づいてきた天月が、凛の頭をぺしっと叩く。

凛は再び頬を膨らませて天月に抗議の視線を送るが、天月はそれを気にも留めない。天月と凛は血こそ繋がっていないが、姉妹のような間柄だ。

「その日は都内に新しく出現したダンジョンの調査があるでしょう」

「姉さんが行くから私は行かなくても……」

「まだ我儘言うの?」

天月から殺気に似た『圧』が発せられ、俺も思わず鳥肌が立つ。

それを間近で浴びた凛は渋々納得し、それ以上は文句は言わなくなる。意外と頑固なところがある凛も天月には強く出られないみたいだな。

「まああまり長居はしないですぐ帰って来るから待っててくれ。ところで星乃は準備とか大丈夫そうか?」

俺は同じくリビングのソファに座っている星乃に目を向ける。

しかし星乃はぼーっとした様子で反応しない。

「星乃? 大丈夫か?」

「……へ? あ、はい! な、なんですか!?」

「いや、準備は大丈夫かって聞いただけだけど……」

「え、あ、準備ですね、も、もちろんでしゅ!」

全然大丈夫そうに見えない。噛んでるし。

北海道に行くと決まってから星乃はどこか上の空って感じだ。いったいどうしたんだろうか?

まるで遠足を楽しみにしている子どもみたいにそわそわしてるけど、まさか楽しみだからこうなっているわけじゃないだろうし、謎だ。

「唯ばっかりずるいです。私も行きたかったです」

「あはは、ごめんね凛ちゃん。おみやげ買ってくるから」

「くっ、これが勝者の余裕ですか……!」

凛は悔しそうにそう言う。

もちろん星乃に煽る意思はさっぱりないだろうが、今はなにを言っても凛を悔しがらせてしまうだろうな。

「……なんだか俺も楽しみになって来たな」

今まで社畜生活を送ってきた俺にとって、今回は仕事とはいえ初めての旅行だ。

ちゃんと仕事をした後であれば、少しくらいは観光してもバチは当たらないだろう。今回は俺達以外にも探索者が何人もいるからいつもよりサクッと終わるかもしれないしな。

「よし、頑張るとするか」

俺は初めての旅行に少しだけ胸をときめかせながら、その時を待つのだった。