軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 田中、捕まる

須田が口にした『見晴らし公園』は、俺が小学生の頃よく遊んだ公園だ。

すべり台と砂場とブランコがある、ごく普通の公園。そこでよく鬼ごっこやかくれんぼ、カードゲームや携帯ゲーム機で遊んだりしたもんだ。

須田は見晴らし公園と言ったが、実はその名称は正式な名前じゃない。

そこから街が見晴らせたから俺たちがそう呼んでいただけで、公園の名前は別にあるんだ。

だから視聴者がいくら検索しても、この公園が見つかることはないだろう。須田もそれを見越してそう呼んだのだろう。

……まあ俺がこの公園の正式名称を思い出せないから、須田も忘れているだけかもしれないけど。

とにかく、この公園のことは俺とその友人、限られた人間しか知らないというわけだ。

「……よく来たな田中。逃げずに来たことだけは褒めてやる」

見晴らし公園に立ち入ると、ベンチに座っていた須田が立ち上がり話しかけてくる。

動画で見たよりもやつれているように見える。服もところどころ擦り切れてるし、目のクマも凄い。まるで社畜時代の俺みたいだ。あの時とは立場が逆転したな。

「それはこっちの台詞だ。お前こそよく一人で来れたな」

「はっ、誰がてめえ相手に逃げるかよ」

須田は怒りに満ちた目で俺を睨みつける。

冷静な思考はとっくに失っているように見える。話が通じそうにはないけど、一応対話を試みる。

「須田、自首しろ。もう無理だ、これだけの騒ぎを起こして逃げられるはずがない。大人しく捕まってくれ」

「馬鹿言ってんじゃねえ! もとはと言えばてめえが俺をハメたのが原因じゃねえか! それを今更自首だと? 寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ!」

「おい、少しは話を……」

「うるせえ! てめえと話すことなんざもうねえんだよ!」

須田はそう言って手のひら大の四角い『箱』のような物を地面に投げる。するとそれがカパッと開き、中から灰色の狼が飛び出してくるではないか。

なるほど、この謎の立方体がモンスターを生み出していたというわけか。どこかで見たような設定だな、球体じゃなくて良かった。

「いけ! 奴を殺せ!」

『ガウッ!!』

灰色の狼は牙を剥き、俺に飛びかかってくる。

このモンスター、グレイウルフはたいした強さじゃない。向かってきたところを手刀で倒す。すると、

「ん?」

グレイウルフの背中が光り、次の瞬間俺は狭い『 檻(おり) 』の中に閉じ込められてしまう。

閉じ込められた俺を見た須田はニチャアと気味の悪い笑みを浮かべる。いったいなにが起きたんだ?

「引っかかったな田中ァ! そいつはEXランクのモンスターをも閉じ込めることのできる最上級魔道具だ! くく、モンスターはブラフだ。そいつを殺すと魔道具が作動するようになっていたんだよォ!」

「なるほど、馬鹿なりに考えたな」

檻は俺の体にジャストフィットな大きさなので、体をほとんど動かすことができない。

これじゃ剣を抜くこともできないな。

「まだ18時には遠い、あの妙なモードも使えねえ。くく、仲間もいなくて剣も使えないてめえなんかただの 社畜(カス) だ! その中じゃあ土下座させてやれねえのが残念だが、仕方ねえ。代わりにもっと良い復讐をしてやるよ……!」

須田はそう言うと、ドローンを取り出し起動する。

そして 立体映像(ホログラム) を空中に投影する。そこにはDチューブの配信画面が出ており、俺が檻に入っている様子が映し出されていた。

配信しているアカウントは 黒犬(ブラックドッグ) ギルドのものだった。このアカウントまだ残っていたのか……。

"え、なんか配信してる"

"なんでシャチケン映ってるの!?"

" 黒犬(ブラックドッグ) ギルドのアカウント生きてたのか……って、シャチケン!?"

"おい須田もいるぞ!"

"てかなんで田中檻の中なの?"

"シャチケン捕まってる!?"

"どうなってんだよ須田ァ!"

"この公園どこ?"

"見晴らし公園って名前のとこはほとんど調べたけど分からんな"

"画角的によく見えないな……くそ"

"いや今は場所とかどうでもいいだろ!"

「くくく……はははははっ!! 凄い人気じゃないか田中ァ! 俺がいない隙に上手くやったもんだ。だがそれも今日で終わり。てめえはてめえのファンの前で無様に死ぬんだよ!」

須田はそう言うと懐から黒い刀身のナイフを取り出す。

そのナイフからは危うげな魔素を感じる。どうやら安物ではないみたいだ。

ていうかこいつ、いくつ魔道具を持っているんだ? 誰がくれてやったのかは知らないけど、こいつにあまりおもちゃを与えないでほしい。

「『神殺しの刃』……神を殺す力を持った短剣らしいぜ? お前ごときにそんな物を使うのはもったいねえが、念には念をだ。死にさらせぇ!」

須田は短剣を握りしめ、突っ込んでくる。どうやら檻の隙間から俺を刺すつもりみたいだ。

檻に入ったままじゃ避けることも防御することもできない。どうしたもんか。

"シャチケン逃げて!"

"須田に負けるとかマジ?"

"やめろ!"

"いやーーー!"

"シャチケン負けないで!"

"嘘だよな!?"

檻に入ったままでは避けることはできない。

だったら……そうだな、檻から出ればいいか。

「むんっ」

俺は檻をむんずと両手でつかみ、左右にこじ開ける。

すると檻はギギィ! と音を立てながら 歪(いびつ) に曲がる。結構硬かったけど、まあこれくらいなら開けられないこともない。

「は、はあ!?」

「オイタが過ぎたな須田。お前は少しやりすぎた」

俺は向かってくる須田目がけ、前蹴りを放つ。

その一撃は須田の腹に命中し、須田は「げぶぉ!?」と声を出しながら吹き飛ぶ。

"相変わらず脳筋だなあw"

"知ってた"

"なんで素手で壊せんだよ"

"須田ビクビクで草"

"さすがになめすぎでしょw"

"いや、これはシャチケンがおかしい(断言)"

"社員の強さを測れてない元社長サイドにも問題はある"

"それはそう"

吹っ飛ばした際に『神殺しの刃』とやらを落としたので、踏んづけて壊しておく。確かに硬くて魔素濃度も濃かったが、結構簡単に壊れたな。本当にこんなんで神を殺せるのだろうか?

「く、来るな! 来れば街がどうなっても知らねえぞ!」

須田は立ち上がると、そう言い放つ。

頑丈な奴だ。相当腹が痛むだろうによく立てたな。

「街? 今のお前になにかできるのか?」

「馬鹿にしやがって……これを見やがれ!」

須田がスマートフォンを操作すると、 立体映像(ホログラム) が空中に複数浮かび上がる。

そこには東京のシンボルの赤いタワー、皇居、魔物対策省などなど都内の有名な場所が映し出されていた。

「今までお前が戦ってきたモンスターは 三軍(・・) だ。俺はあいつらから 最強のモンスター(・・・・・・・・) を預かっている! 俺の言うことが聞けねえってなら、そいつらを街に解き放つ! さあ、嫌なら土下座しろ田中ァ!」

須田は勝ち誇った顔で言い放つ。

きっとこいつは俺が慌てふためくと思っているんだろう。だが、俺はそうはならなかった。

「……お前はとことん救えないな、須田」

「て、てめえ……なに憐れんだ目で俺を見てやがる! 俺は本気だぞ!? 本気でこの街を滅ぼす覚悟があるんだぞ!」

「それは覚悟じゃない。ただのやぶれかぶれだ」

「てんめぇ……っ! ナメやがって! だったら望み通りモンスターを放ってやるよ!」

須田がスマートフォンを操作すると、画面に巨大なモンスターたちが現れる。

それらは確かに今まで倒したものとは一線を画す強さを持っていそうなモンスターたちだった。しかしそれを見ても俺は一切焦らなかった。

「ははっ、はははは! お前のせいだ! お前のせいで東京は滅ぶ! ざまあみやがれ!」

「…………」

「なんだよ、なんか言えよ! なんでてめえは焦んねえんだ!」

「……須田、お前はナメすぎた。俺も、そして戦っている 他の人たちも(・・・・・・) な。お前が戦っているのは俺だけじゃないんだぞ?」

「あ? なに言ってやがる」

苛立たしげな須田。俺の言葉の意味が分かっていないみたいだ。

俺はそんな奴から視線を外し、画面に目を移す。今回は俺の出る幕はないだろうな。