軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 田中、サメと戦う

「魔物災害が起きるとはどういうことですか! 教えて下さい!」

「ちょ、ちょっと待っ……」

凛はネロ博士の襟を掴み、必死に問いただす。

このままだと博士の首が絞められて気を失ってしまいそうだ。俺は急いで凛の肩をつかんでそれを止める。

「おい凛、いったん落ち着くんだ」

「先生、しかし……」

「今のお前の行動は事態の解決に優位に動かない。どんな時も冷静に判断するよう教えたはずだ」

「……! はい、すみません……」

凛は反省したように目を伏せると、博士を解放する。

博士は「けほっ」と少し苦しそうに咳をしたけど、無事そうだ。

普段は冷静な凛だけど、一度思い込むと危険な行動に出てしまうことがある。前に指導した時にそこら辺を矯正し、だいぶマシにはなったはずだが……魔物災害という言葉を聞き、我を忘れてしまったみたいだ。

「すみません博士。大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。どうやら彼女は『魔物災害』と関係は深いようだね。注意しよう」

「お気づかいいただきありがとうございます。私も次は早く止めます」

凛は幼少期、魔物災害によって街に繰り出したモンスターのせいで両親を失い、孤児となった。

今でこそましになったが、昔はその時のことを夢で思い出して寝ることも難しかったという。天月と一緒に暮らすようになってからはそのようなことも減ったらしいが、完全に忘れることは不可能だ。

今でも『魔物災害』は深いトラウマとなって、凛の心に残っている。

「それで詳しく聞かせてもらえますか? なぜ『魔物災害』が起こると?」

「魔物災害は普段はダンジョンの中を循環している魔力が、なんらかの原因で循環が止まってしまった時に起こる 不具合(バグ) なのだよ。魔力が詰まるとダンジョンには様々な障害が起きる、それは中に生息しているモンスターも同じだ。そのせいで普段はダンジョンの外に出ないモンスターが外に出てしまう」

ネロ博士はすらすらと話す。

その内容は現在もっとも有力な仮説とされているものと一致していた。確かこの仮説は牧さんが長年の研究によって立てたもの、信憑性はかなり高い。

それと同じものを言っているということは、この人の言っていることは正しい可能性が高い。

「そして解析の現在、このダンジョンの最下層で魔力の循環が止まり、環境が悪化してしまっている。このままではモンスターにも影響が出て外に出てしまうだろうね」

「……ということは早急にここの最下層に行き、ダンジョンボスを倒す必要がある、ということですか?」

「その通り。なに、ボスならもう少し先に進んだところにいる。たどり着くのにそれほど時間はかからないだろう」

まだ出会ったばかりのこの人の言葉を信じるのは危険かもしれないが、魔物災害が起こると聞いて放って置くわけにもいかない。

もしそれが起きてしまえば、たくさんのモンスターが海に放たれてしまう。その影響は日本だけでなく海外にも及ぶ。対処をする堂島さんの胃がいくらあっても足りない。

それに……魔物災害を起こさないために魔物討伐局に入った凛の為にも、それを起こすわけにはいかない。

「堂島さん」

「うむ、そうするとしよう」

「まだなにも言ってませんよ?」

「どうせ下に行ってダンジョンボスを倒すと言うのじゃろう? 文句を言うやつも出るじゃろうが、わしが許可する。とっととこんなダンジョン壊して帰るとしよう」

「……ありがとうございます」

よし、これで憂いなく下に向かえるな。堂島さんには感謝だ。

俺はいまだ不安そうにしている凛のもとに行く。

「安心しろ凛。魔物災害は起こさせない。ダンジョンボスを倒して家に帰ろう」

「……っ! はい!」

凛は落ち着きを取り戻し、頼もしく頷く。

よし、これなら大丈夫そうだな。

「ネロ博士もそれで構いませんか?」

「ああ、構わない。外の世界にも興味はあるが、ダンジョンブレイクが起きそうになっているのを近くで観測する機会も中々巡り会えないからね」

ネロ博士は眼鏡を輝かせ笑みを浮かべる。

この人も牧さんと同類だな。研究が一番でそれ以外はどうでもいいタイプだ。

なんにせよ時間がない。最下層まで急ぐとしよう。

◇ ◇ ◇

ダンジョンの最下層に行くことに決めた俺たちは、今まで以上の速さで先に先に進んでいた。

堂島さんも凛も探索者の中でも上位の実力を持っている。結構急いで進んでいるが二人ともしっかりと着いてきてくれていた。

だが、

「ううっ、おろろろ……」

「おい! わしの背中に吐くな!」

一般異世界人のネロ博士はその速度に耐えきれず気持ち悪くなっていた。

一番大きな背中をしているという理由で堂島さんがおぶっているが、その結果堂島さんの背中はゲロで汚れてしまった。堂島さんには悪いが、俺が背負わなくて良かった。

"あーあーw"

"見てるだけで酔うから、実際に体験したら吐くよなそりゃ"

"見てるだけで俺も……うぷっ"

"酔い止め薬ドゾー"

"それにしても魔物災害か……最近物騒な話題多くて嫌だな"

"シャチケンいなかったらマジで世界の危機"

"地球の未来は社畜剣士の背中にかかってる"

"まあ背中にゲロがかかってるのは大臣なんだけどな"

"くさそう(小並感)"

堂島さんには同情するが、今は急がなくちゃいけない。

俺は時折襲いかかってくるモンスターを斬り捨てながら、ダンジョンを奥に奥に進む。

「だいぶ魔素も濃くなってきたな。そろそろ深層に入ったか。体調は大丈夫か凛?」

「はい……大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます」

凛はそう言うが、少し気分が悪そうだ。

周囲の魔素が急激に濃くなると、魔素中毒が起こりやすくなる。経験豊富なSランク冒険者でも下層から深層に行くときは慎重に体を慣らしながら降りていくという。

俺や堂島さんは大丈夫だけど、まだ若い凛にはなかなかきつい環境だろう。

"辛そうだけど大丈夫かな"

"シャチケンのせいで麻痺してるけど、深層はそんなに気軽にいけるところじゃないからな"

"それはそう"

"深層に行けるだけでも一流の探索者って認められるからな。田中ァと比べられたらやってられんw"

"凛ちゃんの年齢だと下層に行けるだけでも上澄みだからな。深層に行けるなんてありえないレヴェル"

本当なら凛には休んでいてもらいたい。

しかしこのダンジョンで一人にするのは危険だし、なにより凛自身が自分が休むことを許さないだろう。だから連れて行って危険なことが起きたら全力で守るのが最善策だ。

今はひとまず細心の注意を払いながら進むしかない。

そう考えていると、前方からいくつも魔素の反応がする。

「なにか来るぞ。備えろ」

「はい……!」

俺と凛は走りながら武器に手をそえる。ネロ博士をおんぶしている堂島さんはうまく戦うことができないので、戦力としてカウントするべきじゃないだろう。

『シャアアアアッ!!』

甲高い雄叫びと共に現れたのは、全長10メートルはある巨大なサメだった。

しかもただのサメじゃない。ヒレをはばたかせて空を飛ぶサメだ。4体の空飛ぶサメはその鋭い牙をむき出しにして俺たちに襲いかかってくる。

"サメ!?"

"なんでサメが空飛んでるんですかね……"

"え? 普通サメは空飛ぶだろ?"

"ほんまそれ。なに言ってんだか"

"なに言ってんだはこっちのセリフなんだよなあ"

"映画にもなってるし飛んでもおかしくないだろ"

「凛、合わせられるか?」

「はい。当然です」

凛の力強い言葉を聞いた俺は、空飛ぶサメ『フライングシャーク』に向かってジャンプする。

大きく口を開けて俺を飲み込もうとするフライングシャーク。俺はそれをギリギリまで引き付ける。

「ほっ」

そして飲み込まれるギリギリで剣を抜き、フライングシャークを真っ二つに切り裂く。

見た目こそおっかないが、飛行能力を除けばただのサメ。それほど強いモンスターではない。

"ああ、サメでもシャチケンには敵わなかったか……"

"まあAランクモンスターだからなw"

"やつはサメ四天王の中でも最弱"

"簡単にやられるとはサメ四天王の面汚しよ……"

"あんなのが他にも三体いるのか……"

フライングシャークを倒した俺は地面に着地しようとする。

しかしその隙を狙い、他のフライングシャークが口を開けて突っ込んでくる。フライングシャークに噛まれても怪我をすることはないと思うが、よだれで汚れるのは避けたい。

俺は空気を蹴って跳躍し、その噛みつきをかわし背後に回り込む。そしてその尻尾をがしっとつかむ。

『シャ!?』

「えいっ」

そしてその尻尾をつかんだまま振り回す。

ぐるんぐるんと加速をつけて振り回し、他のフライングシャークめがけて投げ飛ばす。

結構な勢いで飛んでいったフライングシャークは、他のフライングシャークと激突し、大きい音を出しながら吹き飛ぶと、そのまま動かなくなる。

"むちゃくちゃで草"

"あーあー"

"せめて剣を使ってくれ(泣)"

"サメ映画にシャチケンが出たら5分で終わるなw"

"むしろ田中がサメになりそう"

"サメケンになるのか……"

"絶望感が凄い"

三体のフライングシャークを片付けた俺は、凛の方を見る。

するとちょうど他のフライングシャークにトドメをさすところだった。

「はあああっ!」

雷(いかずち) をまとった刃を、脳天に突き刺す。

そして更に刃から雷を放ち、フライングシャークの内部をこんがりと焼き上げる。

フライングシャークはそこそこ丈夫な体を持っているが、あそこまでされたら再起不可能だ。

「Aランクモンスターじゃ苦戦しないか。流石だな凛」

「いえ、これも全て先生の指導の賜物です」

俺が教えたことなんてほとんどないと思うが、教え子にそう言われたら素直に嬉しい。

さて、障害も突破したし先に進むか……と思っていると、

「素晴らしい! まさかこの地でこれほどの逸材に出会えるとは!」

「ん?」

何事かと思っていると、ネロ博士が興奮した様子で俺のもとに近づいてくる。

吐いてダウンしたんじゃなかったのか? 急に元気になったな。