軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話 魔王

「兄貴っ!?」

ダゴ助の慌てた声が、ダンジョンに響く。

田中がいた場所は謎の攻撃により大きく抉れ、消し飛んでいた。

もうそこに田中の姿はいない、吹き飛ばされたか……もしくは消し飛ばされてしまったか。

心配になるダゴ助だったが、彼の安否を確認している暇はない。

なぜならその攻撃を放った張本人が、彼の前に現れているからだ。

黒いマントに深い闇を宿した瞳。黒く伸びた髪は怪しく揺れている。

その男の顔は整っているが、どこか悍ましくも感じられた。

「待ちわびたぞエルフの姫よ。隠れていて正解だったな」

「……っ!? 貴様がなぜここに……!!」

ぎり、と歯噛みするリリシア。

強がってはいるが、その顔には強い恐怖の色が浮かんでいる。

状況が飲み込めないダゴ助はリリシアに問いかける。

「嬢ちゃん、誰だあいつは。知り合いか?」

「知り合いなんてものじゃないわ。わらわがここに飛ばされる直前まで、 あれ(・・) と戦っていたのだから」

瞳を閉じると、今でもその戦いを思い出すことができる。

それほどまでにその戦いは辛く、苦しいものであった。

「奴の名は魔王ルシフ。死と混沌を撒き散らす最悪の魔族。我らエルフは奴を討つために死力を尽くした」

「魔王だって!? なんでそんなやべえ奴がここにいんだよ!」

人間界とあまり接点のないダゴ助でも、魔王のことは知っていた。

強力な魔法を操る『魔族』の中でも抜きん出た才覚を持った者、魔王。その力は一人で一国を落とせてしまうほど強力で凶悪なものであった。

"魔王とかマジ!?"

"いよいよファンタジー極まってきたな"

"世界の半分くれそう"

"ていうかシャチケン大丈夫なの!?"

"シャチケンなら平気でしょ……たぶん"

"田中ァ! 大丈夫なんかワレェ!"

"でもあんな風に飛ばされるシャチケン、初めて見た。本当にやばいんじゃね?"

"そんな、俺らのシャチケンが……"

運良く無事であったドローンが魔王を映す。

基本的にドローンは撮影対象に追従するが、その対象を見失うとAIが自動で今視聴者が興味を向けているものを判断し、それを撮影する。

対象が消え、そして魔王の方に視聴者の関心が寄せられている今、ドローンはそちらを自動で撮影するのだ。

「察するにここは我らのいた世界とは違うようだ。だが来ることができたのなら帰ることもできるはず。まずは貴様を殺し、その後に帰る方法をゆっくり探すとしよう」

ゆっくりと近づいてくる魔王ルシフ。

リリシアは「ひっ」と小さく悲鳴を漏らす。すると、

「おい待ちやがれ」

ダゴ助がルシフとリリシアの間に割って入ってくる。

彼はルシフのことを睨みつけながら声を荒げる。

「俺を放っておいてなにゴチャゴチャ抜かしてやがる! よくも俺の兄貴に不意打ちなんて 汚(きたね) え真似してくれやがったな!」

「……誰かと思えば邪神の奉仕種族か。人間と関わりを持たぬ貴様らが、なぜそのエルフを庇いたてる?」

「うるせえ! この嬢ちゃんのこたあ知らねえが……兄貴に手を出したのは許せねえ。このダゴ助様が相手してやらあ!」

そう意気込むダゴ助だが、その足は震えている。

相手との間に実力差があることは、十分理解していたのだ。

"ダゴ助やるやん!"

"男見せたな"

"めっちゃシャチケンへの好感度高いやん"

"もうお前が舎弟でいいよ"

"やったれダゴ助!"

"お前がナンバーワンだ"

"いうてダゴ助もランクEXだからな。魔王くらいいけるっしょ"

"敵討ちだ!"

"田中の無念を晴らしてくれ!"

"シャチケン死んだことになってて草"

"エロフも守ってくれ!"

ダゴ助は一回深呼吸をすると、キッとルシフを睨みつける。

そして勢いよく地面を蹴り、駆け出す。

「やってやらあ!」

ダゴ助は前腕部の鋭利なヒレを展開し、腕を振りかぶる。

彼のヒレはとても鋭利であり、その鋭さは並の剣を凌駕する。

「 鋭(エイ) ヒレ・スラッシュ!」

思い切り腕を振るい、魔王ルシフに斬りかかる。

その攻撃が当たる寸前、ルシフは右腕をダゴ助にかざし、小さく呟く。

「目障りだ」

瞬間、手から黒い魔力の塊が放たれ、ダゴ助に命中する。

その衝撃波は凄まじく、ダゴ助は吹き飛ばされ何度も地面を転がる。

「が……あ……っ!?」

ダゴ助は自分の頑丈さに自信があった。

しかしその自信が一発で消し飛んでしまうほど、その攻撃は凄まじいものだった。全身がしびれ、立ち上がるどころか指を動かすことすら困難な状況だ。

「今の一撃で消し飛ばないとは、やはり邪神に連なるものは頑丈だな」

感心したように言うルシフ。

彼はトドメを刺そうとダゴ助に近づくが、今度はリリシアが彼の前に立ちふさがる。

「貴様は……わらわが倒す!」

「手が震えているぞ。仲間もいないこの状況で貴様にそれができるのか?」

「うるさい! わらわは……絶対に貴様を倒さなければならないのだ。倒れていった仲間の為にも、絶対に……!」

目に涙を浮かべながら語るリリシア。

彼女には絶対に勝たなければならない理由があった。