軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第55話 対面

デール帝国の皇太子であるツァーリ・デールは、夜明け前に寝所に届いた宰相グラハムからの極秘情報を受け、今か今かと夜が明けるのを寝台の中で待っていた。

目はすっかり覚め、眠れそうにない。

今すぐにでも駆けつけたい。

しかし、目立つ行動を取れば、皇兄派に気づかれるかもしれない。

はやる気持ちを抑え、いつも通りの時間に起き、身支度を整え、朝食を食べる。

そして、執務室でグラハムが来るのを待つ。

定刻に、普段と何ら変わりない様子で彼は現れた。

今日のツァーリの予定は帝都内の視察で、皇帝に代わって町の現状を確認するためのものだ。

これは数日前から決まっており、十歳の皇太子に宰相のグラハムが付き添うことも予定通り。

用意された馬車で、護衛兵に守られながら二人は出発した。

「グラハム、聖女様が現れたというのは本当なのか?」

馬車が動き出すなり、待ちきれずツァーリは口を開く。

寝所で聞いたのは、奈落の森に聖女が現れ魔物を殲滅。

指揮官の懇願に応え、帝都へ来るとのことだった。

「深夜、当家に指揮官からの書状を持った早馬が来ました。明日の朝、聖女様を帝都の大聖堂へお連れするので馬車の手配を願いたいと」

「その者は、信用できるのか?」

「指揮官は、皇帝陛下に忠誠を誓う信頼のおける者です。それを受け、内密に馬車を手配いたしました。殿下へは事後報告となってしまったことは、大変申し訳ございません」

「そんなことは構わぬ。それで、いま大聖堂へ向かっているのだな?」

「はい。大聖堂へ行くのは聖女様の要望と聞いておりますが、目的までは不明です」

「百年前のように、我が国に力を貸してくださる方であれば良いのだが……とにかく、伯父上たちが屋敷に引きこもっていて幸いであった」

「そうですね。ただ、すぐに噂は耳に入るでしょう。おそらくは時間の問題かと思います」

二人は大聖堂へ着いたが、聖女はまだ到着していなかった。

グラハムは衛兵に指示を出し、大聖堂の前を封鎖させる。

それから中へ入り大司教へ説明を始めたのだが、驚くべきことに大司教は聖女がこちらに来ることを知っていた。

「今朝、神託を受けたのでございます。『そちらに聖女が行く』と。それで、本日の予定を変更し待っておりました」

「なんと! では、もはや疑う余地はないな。何としても、助力をいただけるようお願いをしなければ……」

国の現状をどのように伝えれば良いか。

ツァーリが頭を悩ませていると、聖女が到着したとの知らせが入る。

立ち上がり出迎えた三人の前に現れたのは、頭から外套を被り斑猫を抱っこした小柄な人物だった。

「聖女様、お初にお目にかかります。私はデール帝国で宰相を務めております、グラハムと申します」

まずは、グラハムが口火を切る。

「こちらは、デール帝国のツァーリ・デール皇太子殿下。そして、エンゲル大司教様です」

「初めまして、聖女様。私はツァーリ・デールと申します」

ツァーリは、指先を真っすぐにのばした右手をさっと胸に当て、帝国式の挨拶をする。

これは、ツァーリが聖女を自分と同格、もしくはそれ以上と見なしている証でもある。

「エンゲルでございます。お目にかかれて、光栄でございます」

「皆さま、初めまして。わたくしはミサと申します。こちらは、従魔のリケです」

被りを取った聖女は、亜麻色髪に茶色の瞳を持つ若い女性だった。

「大変失礼とは存じますが、あまり顔を晒したくないものですから……」

そう言うと、ミサはすぐに外套で顔を隠してしまった。

「あの、聖女様、つかぬ事をお尋ねしますが……そちらは、聖獣様でしょうか?」

「はい、そうです」

「そうですか! やはり、聖獣様は額に星章があるのですね!! いやはや、長生きはするものですな」

エンゲルが、飛び上がらんとばかりに喜んでいる。

ツァーリも、百年前に聖女とともに現れた『聖獣ニケ』のことは知っていた。

この大聖堂に飾られているステンドグラスにも、額に星章が描かれている。

ミサに抱っこされているリケは、眠っているのか目を閉じピクリとも動かない。

『斑の眷属を従えし黒髪の乙女────』

今代は亜麻色髪だが、斑の眷属を従える者は聖女である。

伝承は本当だった。

ツァーリはエンゲルのように感情を 面(おもて) に出すことはないが、内心は興奮していた。

「聖女様、大変恐れ入りますが、この大聖堂へはどのような目的でいらっしゃったのでしょうか?」

グラハムが話を進め、ツァーリも今からが正念場だと気を引き締める。

聖女の目的を確認し、国の安定に助力を願う。

何としても、自分が成し遂げなければならない。

「わたくしは────」

聖女が口を開いたときだった。「ニャー」と声が聞こえた。

リケが目を開け、ツァーリを見ている。

「わたくしは、国の民へ女神様の意向を伝えるために参りましたが……」

「ニャー」

「どうやら、その前にやらなければならないことが、あるようです。そうですよね、ツァーリ殿下?」

「やらなければ、ならないこと?」

「大掃除です」

首をかしげるツァーリの前で、聖女は口元に笑みを浮かべた。