軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第36話 捜査協力

町中にレースを大量にばら撒いたおかげで、情報はすぐに集まってきた。

しかし、該当する場所が複数箇所あるのはなぜなんだろう?

「あの作者の支持者は多いんだ。公爵の妾だって、作品をたくさん持っていただろう?」

そう話すのは、髪色を茶色にしたハワードさんだ。

彼は、私の部屋の入口の扉付近に立っている。

なぜハワードさんがここに居るのかと言うと、彼が捜査協力を申し出てきたからだった。

◇◇◇

アルクさんと別れたあと、私は急いで宿へ向かっていた。

いつでも出撃できるよう準備を整えるためだ。

夕食の時間が過ぎ、人通りもだいぶ少なくなってきた。

「もしかして、あの魔法で(拉致)被害者たちの居場所を特定したのか?」

早足の私について横を歩いているハワードさんが、周囲を気にしながら声を潜め尋ねてきた。

「そうですよ」

「やはり、君は規格外だな……」

ハワードさんは感心しているけど、探知魔法なんて誰でもできますよね?

「探知魔法は誰でも使えるが、その精度が他と比較にならないほど高いんだ」

「どういうことですか?」

「俺は足音で認識した対象者を探知することはできるが、『匂い』でなど不可能だ。だから、物の探知などはできない」

「…………」

エリート魔法騎士のハワードさんができないってことは、もしかして、もしかしなくても私……以下、省略。

「それで、特定したあとはどうするんだ?」

「まずは潜入して、(敵のアジトかどうか)確認します。確証が取れたら騎士団へ報告ですね」

「(公爵家の)別荘にも、事前に潜入したのだろう? よく、あの警備を搔い潜れたものだな」

私には、聖獣のミケとチート能力があるからね。

「俺にも手伝わせてくれないか? 仕事柄、こういったことは君よりも慣れている」

「でも……」

⦅手伝ってもらったら、いいんじゃない。だって、ハワードは絶対にこっそり付いてくると思うよ? 足音で探知されるなら、不可視化魔法でも意味無いし、空を飛べることもきっと知っているよ⦆

たしかに、足音で探知されるなら、姿を消しても意味はない。

空を飛べることは騎士団内では周知の事実だから、私の情報を集めていたハワードさんなら把握していることだろう。

「従魔は、やはり反対しているのか?」

「逆です。ハワードさんはどうせこっそり付いてくるから、手伝ってもらえって」

「ハハハ……俺のことを、よくわかっているな」

苦笑いはしているけど、ハワードさんはついてくることを否定しない。

つまり、そういうことだ。

「同行を許可する条件として、私に関して知り得たことを他の方に話さないと約束できますか? 上司(王太子殿下)にもですよ?」

「君が正式に入隊すると決まらない限り、秘密は必ず守る。俺は、君たちの信用を得なければならないからな」

他に漏らすことは絶対にないと、ハワードさんは言い切った。

⦅彼の行動を見たら人となりもわかるし、もし喋ったら簀巻きにして山に捨てればいいんだよ⦆

「守らなかったら、簀巻きにして山に捨てるそうです」

「それを言っているのは、君じゃなくて従魔だったのか!」

ハワードさんは驚いているけど、私はそんな物騒なことは言いませんよ?

◇◇◇

「では、一件ずつ確認しに行きましょう!」

私は勢いよく椅子から立ち上がる。

「ハワードさん、出かけますからこちらに来てください」

「どうして窓側へ行くんだ? 出入り口はこっちだぞ」

「窓から出入りしますからね。早く来ないと、置いていきますよ」

「わ、わかった」

ハワードさんは、ゆっくりと近づいてきた。

この部屋にいるときも、私とはできるだけ距離を取っていた。

彼がこんな行動を取るのは、私に警戒心を与えないためだ。

いつでもすぐに出られるように、私の部屋で待機していましょう!と提案したら、非常に困惑されてしまった。

ハワードさんいわく「深夜に、女性の泊まっている部屋に男がいるのは如何なものか?」と。

なるほど、私は無防備・無警戒すぎたのか。

でも、私にはミケという強力な守護者がいるから何も心配はないんだけどね。

「ハワードさんって、高い場所や馬よりも速いものは苦手ではないですか?」

「標的の屋敷に屋上から忍びこんだりもするし、暴走した馬車に乗ったこともあるから、苦手ではないな」

彼は、なかなかハードな経験をお持ちのようだ。

「それは、良かったです。では、『フィレレース、飛行!』」

窓の外に現れたのは、ヘリコプター模様のレースだ。

乗りこみやすいようにレースの一部を斜めにして、部屋の中に引き込んでいる。

慣れているミケは、ぴょんと飛び移った。

私は坂を上っていく。

「さあ、ハワードさんも早く乗ってください」

「えっ……はあ!?」

「夜中なので、お静かに(!)」

状況が飲み込めず動けないハワードさんに痺れを切らしたミケが、実力行使に出る。

風魔法で彼の体を浮かせ、レースの上に強引に転がしたのだ。

この様子だと、ハワードさんは私が飛行魔法を使えることを知らなかったみたいだね。

もしかして、スベトラさんが口外しないよう騎士さんたちに言ってくれたのかな?

「絶対に落ちませんので、安心してください。では、出発(!)」

一応声はかけたけど、驚きに固まっているハワードさんにはきっと聞こえていなかったと思う。

⦅ここも、違ったよ⦆

ミケが偵察から戻ってきた。

「ミケちゃん、ご苦労さま」

閑静な住宅地に立つお屋敷だったけど、怪しげな人の出入りは全くなく、作品があった場所は寝室のクローゼットのようなところだったそうだ。

部屋の主は若い女性で、熟睡していたとのこと。

⦅リサの作品がずらりと並んでいて、壮観だったね⦆

熱狂的な作品の支持者だったらしい。

「では、次が最後だね」

後ろのほうからブツブツと聞こえてくるひとりごとには反応せず、私はレースを浮上させる。

ミケが照明用に置いた小さな青白い火の玉の一つが、彼の背中だけを不気味に映し出していた。

⦅それで、ハワードはずっとあんな感じなの?⦆

「うん、ずっとこんな感じだね」

ハワードさんは、また変なスイッチが入ったらしい。

さすが魔法騎士だけあり、魔法に関しての状況把握は早かった。

我に返ったハワードさんは飛行魔法が存在することに感激し、仕組みを理解しようと観察を始め、今にいたる。

「────欲しい、絶対に欲しい。他に類のない、探知魔法に飛行魔法。おまけに従魔は潜入捜査に優れており、意思の疎通は完璧。即戦力になる人材……ぜひとも欲しいぞ」

ひとりごとを呟いているハワードさんをミケと遠巻きに観察している間に、次のところに着いたのだが……

⦅あの動いている馬車の中にあるみたいだね⦆

闇夜に紛れて進む乗り合い馬車だと、ミケが言う。

私には、馬車から漏れる僅かな明かりしか見えないけど。

「これは、当たりかな?」

⦅そうだね⦆

夜中なのに、護衛の姿が一人もないらしい。

怪しい、非常に怪しい。

「俺が、中の様子を探ってくるよ」

「ハワードさん、ようやく正気に戻ったのですね?」

良かった、良かった。

「うん? 何のことだ?」

「い、いえ、何でもないです……」

本人が気づいていないのなら、私は何も言うまい。

本音が駄々洩れだったことは内緒にしてあげよう。

「では、降下しますね」

「いや、必要ない。俺が馬車から降りたら、拾ってほしい」

「わかりました」

ハワードさんは、アイテムボックスから眼鏡を取り出した。これは、暗視できる魔道具とのこと。

レースから真っすぐに降り、空中で止まる。

それから、乗り合い馬車へ向かって駆け出した、らしい。

⦅ボクと同じように、風魔法で移動しているよ⦆

さすが、特殊部隊の副隊長さんだね。

乗り合い馬車の屋根に、無事着地したとのこと。

しばらくして、ミケが⦅ハワードが、馬車から離れたよ⦆と言った。

ミケの指示通りに降下すると、空中にハワードさんがいた。

彼を拾って、再び馬車を追いかける。

「あの馬車は、やはり窃盗団の馬車だった。奴らはナウリム領を出て、他領へ行くつもりのようだ」

「だったら、その前に捕まえないと」

「それが、どうやら背後に貴族がいるようなんだ」

「また、悪徳お貴族様ですか!」

思わず声が大きくなる。

公爵家の件でも王都での品評会の件でも、裏に悪徳貴族がいた。

もう、いい加減うんざりする。

「君はそう言うが、貴族は利権に敏感だからな。俺がこれまで手掛けた案件のほとんどは、貴族絡みだったぞ?」

『ほとんどは、貴族絡み』

お貴族様、暗躍しすぎです。

「どこの貴族が関係しているのか、わかっているのですか?」

「『セルゲイ様が……』と聞こえたから、おそらくセルゲイ伯爵だと思う。中立派のナウリム辺境伯と第二王子派のセルゲイ伯爵は派閥が違うからな、仲が良いとは言えない」

派閥争いもラノベではお約束の展開だけど、実際に巻き込まれると面倒でしかない。

⦅もう面倒くさいし、ついでにそっちも一気に片づけちゃおうか? この間みたいに屋敷をドン!とか。もちろん、人的被害は一切出さないよ?⦆

「私も、それがいいと思う」

悪徳貴族は、成敗すべし!

「えっと、何やら良からぬ雰囲気を感じたが……従魔は何と言ったんだ?」

「ハワードさんは勘が良いですね。ミケが、あのときみたいに伯爵の屋敷をドン!としようか、って……」

「ちょっと、待て! まずは一旦落ち着こう!!」

ハワードさんが、急にソワソワしだした。

彼はドン!の威力を、実際に体験しているからね。

「私もミケも、落ち着いていますよ。だた、お貴族様にちょっとイラっとしただけです」

「君は、たまに過激になるときがあるよな? あのときは、怒りで魔力が漏れ出ていたし……」

「ああ、だからハワードさんは驚いたような顔で私を見ていたのですね?」

「俺が驚いたのは、君の瞳が金……いや、今はそれどころじゃないな」

ハワードさんは少し考えたあと、私たちの方を向く。

「とにかく、裏で糸を引いている貴族も処分されれば、君たちも文句はないのだろう?」

「そうですね」

⦅そうだね⦆

「伯爵家は辺境伯家よりも格下だから、領主を通じて対処ができる。だから、確実な証拠を集めよう。まずは、下の連中からだ」

「わかりました。ハワードさんの指示に従います」

何だか急にハワードさんが頼もしく見えてきた。

さすが、特殊部隊の副隊長さんだね。

こうして、私とミケはハワードさんと一緒に悪人を懲らしめることになったのだった。