軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8◇無職続けますか? 魔王軍最高幹部になりますか?

「レメさんはとても優秀な【黒魔導士】です」

ミラさんはそう切り出した。

僕にもその自負はあるので、否定も謙遜もしない。

「レメさんは【勇者】にこだわりがあるようですが、どこに魅力を感じているのでしょう」

「どこって……」

格好いいじゃないか。

娯楽のない故郷の村で、ダンジョン攻略は貴重な楽しみだった。

【勇者】がいなければパーティーは組めない。それだけ【勇者】は特別なのだ。

神に愛されているとしか思えない存在。個人差はあるが、魔法にしろ武技にしろ常人を遥かに凌ぐ速度で上達する。

努力の密度や成果からして特別。

画面の向こう側で誰よりも目立ち、数も大きさもものともせず敵を倒してしまうのだ。

憧れてしまったものは仕方がないじゃないか。

「魔物を倒すこと自体が格好いいのですか? それとも派手で見栄えのいい活躍でしょうか? あるいは知名度や称賛? 魔物と直接斬り合うのが楽しそう?」

言われて初めて、僕は自分の中の憧れが明確な形を持っていないことに気付いた。

いや、正確には明確な形を見失っていたことに、だ。

今ミラさんが言ったことは、子供心に惹かれた要素や、想像した未来でもある。

あぁ自分で直接戦って敵を倒したかったさ。派手な剣技を披露して、炎とか氷とか出すんだ。街を歩けばみんなが僕に気付いて、活躍を称えてくれる。ダンジョンでギリギリの戦いをして、刺激の多い人生を送る。

子供の夢だ。自分に都合がよくて、良いことだらけの未来図。

「レメさんは冒険者の方々にご自身の力を示すおつもりがない。だからこそパーティーから追い出される形で脱退することになった。合っていますか」

「……ですね」

「新しいパーティーが見つかっても、その点は変わらないのではないですか」

「はい」

その通りだ。そもそも四位のパーティーにいたのに数週間掛けて次の仲間が見つけられないのは酷い。僕以外のメンバーだったら引く手あまただったろうに。

「冒険者業界は【黒魔導士】への風当たりが強いですよね。パーティーメンバーは五人までという規程もそれに拍車を掛けているように思います」

否定するところがない。その通りだと思う。

「このままでは、次のパーティーを見つけられたとしてもレメさん、貴方は決して勇者になることは出来ないでしょう。冒険者での【黒魔導士】の扱いを見れば、誰でも気づくことです」

その通りだ。

【黒魔導士】には自分がチームの売りになると思っている者はいないだろう。

それどころかいつ追い出されるかヒヤヒヤしている人の方が多いのではないか。

冒険者の【黒魔導士】に先はない。

分かっていたことだ。

分かっていたことなのに、諦められなかっただけ。

「魔物になればそれが変わるんですか?」

期待からではなく、単に疑問として口にする。

「変わります」

ミラさんは断言した。

彼女の表情は真剣そのもので、男の情感をそそるような仕草も無し。

何の裏もなく、彼女はただ自分の思いを言葉にしたのだと分かった。

「レメさん、勇者とはなんでしょう。【 役職(ジョブ) 】の話ではありませんよ」

勇者。勇気のある者。どんな困難にも挫けず、必ず勝利をもぎ獲ってくる者。

いや、僕の心の中にはもっと強く刻まれた勇者の定義がある。

それは貰ったばかりだけど、既に宝物となった言葉。

――『名誉ではなく正しいことの為に動ける、そういう人間をこそ、本来勇者と呼ぶべきなのです』

でも、この場合の正しいこととはなんだろう。

「冒険者は年々増えていますが、魔物はそうではありません。それはそうでしょう。活躍する勇者パーティーが増えれば増えるほどに、日々敗北を味わう魔物も増えます。私達は狩られる為に存在する獲物でしょうか?」

「まさか。怖い魔物がいるからダンジョンはドキドキして、強い魔物がいるから勇者達の応援に力が入るんだ。魔物は冒険者と対等。獲物だなんて思ったことはないですよ」

ミラさんは一瞬だけ、嬉しそうな笑みを漏らした。

「はい。そんな貴方だから、私は声を掛けようと思ったのです。優しくて、心も魔法も強いレメさんだから」

ようやく、彼女の話が見えてきた気がする。

「私達にも必要なんです。人が冒険者の活躍に興奮し、元気づけられるように。亜人には魔物の象徴が必要なのです」

「それは、分かる。だけど、【魔王】がいるじゃないですか。冒険者で言う【勇者】のようなものでしょう」

「その通りです。ですが【勇者】と【魔王】には大きく異なる点があります」

「異なる点……あぁ、そうか。――【魔王】は最深部で待つ存在」

「そうなのです。【勇者】は常に画面に映る希望ですが、【魔王】は敵が最深部に到達した場合にしか姿を現すことが出来ません」

師匠のようにセオリーをガン無視すれば別だが、そうしたら今度はダンジョン攻略そのものがつまらなくなってしまう。

というかダンジョン攻略出来ないしね。負けたら終わり、勝ったらクリアだからやっぱり終わり。

「僕が魔物として此処で働いても、【黒魔導士】ですよ? 希望なんて大げさなものにはなれません」

「【黒魔導士】だからこそです。貴方の魔法は冒険者を苦しめますが、観ている者にはよく伝わらないでしょう。ですが敵と仲間は別です。明らかに動きの鈍った敵を仲間が退場させていく、その姿だけが視聴者の分かる全てになります」

最高難度と名高い魔王城の攻略は注目度が高い。

そこで、フロアボスでもない魔物達が冒険者達をバッタバッタと退場させる。

魔物になることを躊躇う亜人の中には、その映像を見て自分でも冒険者を相手どれるかもしれない、と考える者が現れるやも。

「――僕の魔法で、他の魔物達に活躍の場を与えられる?」

元々【黒魔導士】とはそういう【 役職(ジョブ) 】だ。

だが前の仲間は僕の魔法をあてにしていなかった。

此処では違う?

「魔物であれば正体を隠すのは普通のこと。レメではなく謎の【黒魔導士】としてならば実力がバレても問題ないのではないですか? もちろん隠し通したいのであれば手は講じます」

【黒魔導士】として、冒険者よりも魔物の方が職場環境がいいのは分かった。

こちらであれば僕の行いで勇気づけられる者がいることも。

「レメという個人への名誉も、勇者側という立場も、与えられません。それでも、貴方次第で私達は救われます。懸命に生きる魔物達が、明日も頑張れるように。単なる負け役ではなく、時に主役を食ってもいいのだとまだ見ぬ亜人が思えるように」

ミラさんは、僕に希望を見出している。

こんなにも期待されたのは、いつ以来だろう。

きっと、【 役職(ジョブ) 】が判明する前の子供時代まで遡らねばなるまい。

レメさん、と彼女が僕を呼ぶ。

すぅと息を吸い、彼女は言った。

「どうか、私達の勇者になってはくれませんか?」

どくんっ、と心臓が一際高く跳ねる。

幼い頃に、夢見た形とは違うけれど。

僕が【黒魔導士】として、勇者になれる場所があるのか。

仲間を助けることが出来て、その勝利に貢献することが出来て。

僕らの戦いを見て、元気づけられる人がいるかもしれない。

もちろんそれは、勇者側の勝利を望むファンをがっかりさせるということになるのだが。

でも、勇者ばかりが勝って気を落とす人もこれまではいた。

僕の立ち位置が変わるというだけ。後はそれを選択するかどうか。

「よろしくお願いします」

気付いたら答えていた。

その日。

世界四位の勇者パーティーを追い出された僕は再就職に成功した。

職場は魔王城。

立場は参謀。

仕事は勇者パーティーを追い返すのに必要なことを考え、実行すること。

【 役職(ジョブ) 】は【黒魔導士】。

目指すは、人知れぬ勇者。

親友のパーティーと激突する未来を予期しながら、僕に迷いは無かった。