軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70◇才能なし黒魔導士の武器と、オークな主の誘いと、ケンタウロスなメイドの答え

彼女が動いてから避けるのでは間に合わない。

構えを見ろ。

白い髪の華奢な少女。槍を持っている。魔法具だ。種族は不明だが、人間に見える。【刈除騎士】フルカス。普段は黒い鎧を纏って戦う頼れる四天王だが、今は剣の師であり、敵。

槍を引き、溜め――来る。

疾走中の僕は前傾姿勢をとって、前進を続行。

空間を穿つ名槍の圧を頭上に感じながら、その遣い手への接近に成功。

低い姿勢のまま、右手に持った剣を振り――は?

「良い動き」

今まさに僕の頭上に空振った筈の槍の穂先が、僕を捉えている。

「ただ、遅い」

突いてから戻すまでが、速過ぎる。

これでは槍版の『神速』だ。目にも留まらぬ、というやつである。

「ん」

見えなかった。

だが、彼女の突きが僕の身体に触れることはない。

咄嗟に切っ先を立て、突きを剣の腹で受け止めたからだ。

「ぐっ……!?」

「む」

彼女は不満そうだが、その表情を眺めている余裕は無かった。

突きの衝撃を殺し切れず、僕の身体が後方に大きく吹き飛んだからだ。

剣を地面に突き刺し減速を試みたところ、失敗。

パキンッ、なんて悲しげな音と共に半ばから折れてしまった。

そのまま地面を転がることになった僕は、泥だらけになった頃にようやく止まった。

「終わり」

彼女はそんな僕に追いつき、その首元に槍の穂先――といっても訓練中は切っ先を落としたものを使っている――を向ける。

「……参りました」

「ん」

頷いたフルカスさんが手を差し伸べてくれたので、掴んで立ち上がる。

「レメは、やっぱり頭がいい。何度か見たら、『対応策』を考えてる」

一度目の突きを回避出来たのは、過去十数回ボコボコにされた経験があったから。その中からパターンを見出し、あのタイミングあの動きならば接近出来ると思った。

「でも、本番は一回ですから」

「その一回を物にする為の訓練。違う?」

フルカスさんの言葉は、短く的確。

「違いません。あの、もう一本お願い出来ますか」

「剣を」

ダンジョンの備品である魔力製の剣が乱雑に刺さった木箱に近づく。この訓練の為に箱ごと持ってきたのだが、何十振りもあった筈なのに後二振りになっていた。

此処は初級・始まりのダンジョン内の訓練ルーム。

訓練ルームとは言うが、森をイメージしているようで木も生えていれば草も茂っている。

剣を抜いた僕は、息を整え、彼女の前に立つ。

「よろしくお願いします」

「うん」

訓練は生身の身体で行うことにしている。

魔力体(アバター) だと痛みが無い分、経験がフィードバックしづらいのだ。

たとえば筋肉の痛みやしびれから、そこを使ったのだと分かる、みたいな気付きが得られなかったりする。

「あー……」

僕は地面に四肢を投げ出すように転がっている。仰向けになると、魔力で創られた偽りの青空が視界に広がった。偽物だけど、綺麗だ。

僕は汗だくで、息も絶え絶えで、まさに疲労困憊。

だけどフルカスさんは涼しい顔で僕の横に座っている。ちょこんと、膝を抱えて。

結局、一度も攻撃を当てることが出来なかった。

黒魔法を使えば結果も変わっただろうが、これは剣の訓練。

「フルカスさんって、疲れないんですか?」

生身で戦うことで気づけたのだが、彼女は息切れしないのだ。どんなに激しく動いても、息継ぎはあるが『間』はそれだけ。呼吸という当たり前があるだけで、疲労に乱れることがない。

「疲れる時もある」

「どんな時ですか?」

「お腹が空いてる時は、何をするにも疲れる」

「なるほど……」

そうじゃない時は平気なんですね……。

そういえば彼女は、槍術と剣術のやり合いで最も長くフェニクスを翻弄した人なんだよな。

聖剣に炎を纏わせたあいつと相対しながら時間を稼いだ。その時も危なげなく役目を果たしてくれたし、実力は確かどころではない。

「なんとなく、今まで聞きそびれていたんですけど、フルカスさんの種族って」

「秘密」

「そうなんですね」

「当てたら、正解って言う」

「外したら?」

「ご飯、一年分」

「……取り敢えず、解答は控えようと思います」

「残念」

並外れた体力と、速さと、身体の頑強さと、腕力脚力。

なんとなく想像はついているが、軽い気持ちで間違えられるペナルティではない。

あの種族なんじゃないかな、というところで満足しておこう。今のところは。

しばらく何もせずに時間が流れる。

少し体力が回復してきたあたりで、フルカスさんが口を開いた。

「レメは、やっぱり才能ない」

「え、あ、はい……」

ショックだが、フルカスさんが言うのだから悪口ではないのだろう。

「ただ、目が良い」

「ほんとですか?」

「何かの『適性』とかではないけど」

「……そ、そうなんですね」

『適性』の組み合わせが【 役職(ジョブ) 】になる、と言われている。

『機動力』『戦闘勘』『剣術』があれば【戦士】が発現する、みたいに。

だから例えば、『機動力』はあるけど他二つが無いから【戦士】にはなれなかった【料理人】、みたいな人もいるだろう。

望んだ【 役職(ジョブ) 】になれなくとも、何か役立つ『適性』はあるかもしれない。

当然僕も、そのあたりに期待しなかったわけではないのだが。

結果は悲しくも、無し。

フルカスさんに目を褒められて期待してしまったが、そもそも僕に優れた目はない。

遠くまで見通せたり、集中した時に世界がゆっくりに見えたり、一瞬見ただけで周囲の状況を把握したり。目……プラス脳の能力にも『適性』というものがある。

「悲観することはない。レメのそれは、後天的なもの」

「後天的?」

「『適性』は、才能。向き不向きの『向き』」

「そうですね。持ってなくても出来るけど、持ってる方が上達が早いし限界値も高い」

「『適性』は肉体に掛かるものに限る」

「はい。感情面で受け入れられない【 役職(ジョブ) 】が発現することも珍しくないですし、心ではなく体に適しているもの、って感じですよね」

「心次第で伸びるものがある。レメは、それを持ってる」

「心、次第で」

昔、師匠に心が強いと褒められたことがある。

今でも思い返しては、元気を貰っている。なんだか都合が良すぎて、夢なんじゃないかって疑う時もあるけど。

「たとえば、『気遣い』は才能じゃない。上辺だけじゃなく、ほんとの『気遣い』は、『優しい』心を持ってる人間に出来ること。心は育まれるもので、生まれた時に決まってるわけじゃない」

そういう意味で、才能じゃないということ。

「あ……なんとなく、分かりました。フルカスさんが言う『目が良い』っていうのは、観察力とか、そういう類のもののことですか?」

「そう、レメは何年もパーティーを『見てた』。常に、違和感なく勝たせる為に。それで磨かれた、『観察力』。だから参謀の仕事も上手い。よく見て、勝つ方法を探す。これが上手い」

フルカスさんは続ける。

「その目と、黒魔法は相性が良い。敵を遅く、弱く、脆くして、敵の攻撃を避けて、自分の攻撃を当てる」

これまで、たとえば僕のファンであるミラさんでさえ、僕に近接戦の可能性を見たりはしなかった。

もちろん、応援はしてくれた。フェニクス戦だって、彼女は僕の勝利を信じてくれた。

だけど、たとえば剣の腕でフェニクスを倒すとか、そういうことは想像していなかっただろう。

「その目を、一対一用に調整する。出来れば、少しはマシになる」

それでも、達人であるフルカスさんから見て、少しはマシになる程度。

構わない。

一歩でも、進めるならばそれは喜ばしいことだ。

「……ありがとうございます、頑張ります」

僕はトール。このダンジョンのマスターだ。

最近は作戦面でレメさんに、部下の指導面でフルカスさんに協力を仰いでいることもあって、ただでさえなかった威厳が更に低下している感があったりするけど、今日も元気です。

だがあくまで僕がこのダンジョンの主なのだ。

賞金はレメさんが全額負担している。いずれ返すつもりではいるが、軽い額ではない。

だからこそ彼が本気で力を貸してくれるつもりなのだと分かったという面もあるが、可能な限り早く返すべきだし、そう努力すべきだ。

その為には、まずフェロー殿に借りているお金を返済しなければ。

正直、絶望の内にあった時には考えられなかった。

これもレメさんとフルカスさんとカシュさんと、魔王様と、後は――ケイのおかげだろう。

情けない主が不貞腐れてる中、魔王城からの連絡を受けて協力を受け入れ、三人を此処まで連れてきてくれた。

ケイとは幼い頃からの仲だが、彼女にはいつも助けられてばかりだ。

「えぇと……あ、いた」

僕は食堂に来ていた。

ちなみに、亜人に合わせて色んな席が造られている。

ゴブリン用に、脚の短い椅子と背の低いテーブル。

ケイ用に、彼女の背の高さに合わせたテーブル。

僕のようなオークに合わせて、頑丈な椅子。

魔王城みたいに色んな亜人がいる場合は、もっと大変なんだろうな。

「ケイ」

「あぁ、ブタ……いえ、どうされましたか主」

今ブタって言った?

「酷いんじゃないかな、今のは」

「失礼、ブタさんは可愛いですものね」

「あ、ブタに対してだと思ったんだ」

「今更、貴方への態度を変えてほしいの?」

馬人のケイは、サラダを食べる手を止め、からかうように笑う。

「……いや、いいけど、そのままで。君が急に優しくなったら、それはそれで怖いし」

「失礼なオーク。わたくしは常に優しいでしょうに」

「そこは議論の余地があるよね」

「ないわ」

「あぁ、そう……」

僕は諦める。

「それよりも、用件は? この後も賞金につられた愚か者を撃退するお仕事があるのだけれど」

「あ、あのさ……フェロー殿のさ、タッグトーナメントって知ってるかい?」

「種族不問の二人一組で行われる、 魔力体(アバター) 試合の大会よね」

「そう! それなんだけど、あれも賞金が出るって話でさ」

「みたいね。あの男、お金はあるようだし」

少し前までなら、思いついても実行しようとは思えなかっただろう。

「ぼ、僕と一緒に、大会に出てくれないか?」

注目を集める為か、このダンジョンの賞金数回分にはなる額だ。

フェロー殿の金を、フェロー殿への借金返済に 充(あ) ててやろうという考え。

彼女ならばきっと、なんだかんだ言いつつ協力してくれ――。

「嫌だけど?」

「――え?」

「あぁでも安心して、わたくしも同じ考えだから」

「同じって、え? あ、もう誰かとペア組んだってこと?」

「そうよ」

「だ、誰なのかなって、気になったり」

「ふっ。聞いて驚きなさい、ブタ主」

混ぜちゃったよ。ブタと主を。

「フルカス様と出場することにしたわ。エントリーも済ませてある」

あ、僕と組むより優勝する可能性高いな。

情けないけど、僕はそんなことを思ってしまった。

でも、この時は考えもしなかったな。

レメさんも別の人と組んで大会に出場する、とか。