軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5◇無職、違和感に気づくも抗えない

美吸血鬼さんことミラさんと並んで歩く。

やはりミラさんは美人だけあって道行く人々の目を引いていた。

世間への露出で圧倒的に勝っている筈の僕に気づく人はいない。【黒魔導士】っぽいローブを纏っててどうにか気付いてもらえるかどうかだろう。

華が無いんだよな。そういうところもアルバに疎まれていた。

「あの、レメさん」

「なんでしょう」

緊張が表に出ないように応える。

「吸血鬼なんかと歩いていると広まったらご迷惑でしょうし、少し離れて歩きます……か?」

僕を気遣いつつも、悲しげな声を出すミラさん。

何百年前ならまだしも、今日日人間以外の種に対する差別意識なんてものを持っている者は滅多にいない。

ただ、やはり冒険者と魔物は仕事上敵なワケで。私生活でもベタベタしないのが好ましいとされている。必要がない限り関わらないように、ダンジョンのある街では自然と冒険者と魔物で集まる施設や通りを分けていることも珍しくなかった。

人間と吸血鬼だからというより、レメと吸血鬼の組み合わせがよくないのではないかと案じてくれているのだ。

「まさか。僕の方こそ申し訳ない気持ちです。ミラさんの男の趣味が悪いと思われてしまう」

ミラさんは目を見開いた後に、溢れる笑みを押さえるように両手を口許にあてた。

「本当に優しい人。私、信じてしまいますよ?」

上目遣いに見上げてくるミラさんが可憐過ぎて、僕は思わずたじろぐ。

ありなのか。こんな完璧な生き物がいていいのか。世界はまったく不平等だ。でもまぁ彼女のような存在の為に差が設けられているならば仕方ないと納得してしまいそうになる。

それくらい魅力的な表情だった。

「え、えぇ、もちろん」

「嬉しい」

にっこりと微笑んだミラさんは、ぴょんっと半歩分近づいてきた。

彼女の金色の髪が跳ね、光を反射しながら舞う。

「これでも、嫌ではないですか?」

「……もちろんです」

勘違いしてはいけないぞレメ。彼女が僕のファンだというのが本当でも、そこまでだ。

【黒魔導士】として認めてくれている、ありがたい存在でもある。

「どうしよう……私、顔が熱いです。憧れの人に会えて、優しくしてもらえて。こんなの夢みたいです」

彼女はそう言って自分の頬をぷにっとつまむ。

「いふぁいれす。夢じゃないみたいでした」

「えぇ、現実ですね」

「嬉しいです」

「そう言って貰えると、僕も嬉しいです」

「え……でも、レメさんのような方なら世の女性が放っておかないのではありませんか?」

この人の中で僕の評価はどうなっているのだろう。

さすがに黒魔術に近いレベルまで鍛えられた黒魔法だとは知らないだろうけど、もっと高い地位や尊敬を集めるべきとか言っていたし。

世界ランク四位のパーティーメンバーにいても見劣りしない、って感じだろうか。

だから足手まとい扱いは間違っている、と思ってくれている?

「いやぁ、そんなことは」

「またまた。世界ランク百位以内のパーティーに【黒魔導士】は三人しかいません。十位以内だとレメさんだけです。それに世界最高の攻略難度を誇る魔王城を歴代一位の速度で攻略しているのだってレメさんの黒魔法があるからです。そもそも【勇者】フェニクスがフロアボス戦で一閃しかしないのだってレメさんの魔法で全ての敵が弱っているからこそ成立していたというのに彼らは一体何を考えてこんな高位の【黒魔導士】を追い出したりなんか……ほんと人間って愚か。まぁそのおかげで私達が――」

「ミラさん?」

「――っ!? は、はは……って、友達も言っていたんですよぉ」

ミラさんが目を泳がせながら言った。

なるほど友達かぁ。そうだよなぁ。ミラさんがどす黒い空気を纏いながら蔑むような目で勇者パーティーに悪態をつくわけがないもんな!

僕は力技で自分を納得させた。納得したのだ僕は。

「あ、あぁ、ご友人が。今度逢う時があったら、感謝していたと伝えてくれますか? 自分を高く評価してくれる人が世界のどこかにいるというだけで、支えになりますから」

僕としてはフェニクスは変わらず親友だと思っているので悪く言われるのは良い気分ではないが、僕を評価するが故にパーティーの判断を過ちだと指摘しているワケで。

なんだかその視点は嬉しいのだった。

僕は褒められ慣れていないのだ。

他の四人はいつも絶賛されていただけに、自分が褒められると奇跡みたいに嬉しい。

「は、はいっ」

ミラさんはこくっと頷いた。

「そ、それよりもレメさん。話が脱線してしましいましたが……恋人とかは、本当にいらっしゃらないんですか?」

「……ですね」

「それは、【黒魔導士】に対する世間一般のイメージが影響しているのでしょうか」

世間一般のイメージというのは、まぁ陰気とか根暗とか性格悪そうとかケチな気がするとかそういうことだ。悲しいね。【黒魔導士】が一体何をしたというんだ。

ちょっと離れた距離からステータスに悪影響を与えているだけじゃないか。

「どうかな。僕自身、あまり面白い人間じゃないので」

僕の答えに、彼女はむっとしたようだ。控えめに頬が膨らんでいる。

「周囲を笑顔にする性質や話術は素晴らしいものですが、魅力的な人物の必須条件ではないと思います。私はたとえ話下手だろうと、優しい人に魅力を感じます。たとえば、自分が職を失っている中で犯罪者の捕縛に努め、なのに手柄は他の人にあげてしまうような。名誉ではなく正しいことの為に動ける、そういう人間をこそ、本来勇者と呼ぶべきなのです」

「――――」

「……レメさん?」

僕が急に立ち止まったので、ミラさんが不思議そうに僕の顔を見る。

ちょっと今は見られたくなかった。

ミラさんではないけれど、手で顔を隠すようにかざしてしまう。

「だ、大丈夫です……」

「ごめんなさい、私何か失礼なことを言ってしまったでしょうか」

ミラさんがあたふたしている。

「違うんです。むしろ逆というか……」

「ぎゃく、ですか?」

こてん、と首を傾げる彼女に、なんて言ったらいいものか悩む。

「あ、あー、その、子供の頃、自分は【勇者】になるものだと思っていまして」

「人の子には珍しくない話だそうですね」

ミラさんは急な過去語りに不思議そうな顔をしつつも、応じてくれる。

「えぇ、まぁ。でも僕は【黒魔導士】になっても、勇者になりたかった。【 役職(ジョブ) 】としては叶わなかったけど、諦めがつきませんでした。で、気持ちだけは勇者でいようっていう意地のようなものがあるんです」

「そうなんですね」

でも【黒魔導士】を勇者と呼ぶ人はいない。似ても似つかない存在だから。

だからこそ、ミラさんの言葉が僕の弱っていた心に直撃した。

そんな、十年も誰も言ってくれなかったことを。

いきなり言われたら、困るじゃないか。

目から透明の汁が出そうだ。

男の意地でなんとか堪える。

「ありがとうございます。ミラさんの言葉、忘れません」

「え、あ、はい……え……勇者の部分ですよね……はい、お役に立てたのなら嬉しいのですけど……あの、私はレメさんのような優しい方、素敵だなって、そっちの方は……その」

「そんなに気を遣わなくても大丈夫ですよ。モテない自覚はあるので」

「……わざとですか?」

むぅ、とミラさんは少し不満げだ。

逃げたのはバレバレのようだ。

仕方がないではないか。ミラさんは魅力的な女性だと思うが、出会って一時間も経っていない。

この状況でグイグイいけるような男なら、僕はとっくに百戦錬磨だ。

実際は初心者もいいところなので、怖気づいただけである。

ドラゴンは怖くないんだけどなぁ。女性への対応の方がよっぽど慎重を期す必要があると思う。

「ところでミラさん」

僕は露骨に話題を変えた。

ミラさんは恨みがましい目つきで僕をじぃと見ていたが、やがてふぅと溜め息一つ。

「はい、なんでしょうレメさん」

「僕はてっきりカフェとかでお茶をご馳走になるのかと思っていたんだけど、結構歩きましたね」

「オススメのお茶を出すところがあるんです」

「そうなんですね。お店の名前って分かりますか? この辺、僕も前はよく来たので」

魔王城が近いんだよね。偶然だろうけど。

「あまり冒険者の方は来ないところなので」

「あぁ、亜人の方々サイドのお店なんですね。僕が入っても大丈夫かな」

ダンジョンを有する街なので、此処にも冒険者と魔物に配慮した棲み分けがなされている。

魔王城の正面側に続く通りが冒険者の領域で、職員しか使えない裏口に面した通りが魔物の領域だ。

魔物御用達の店には行ったことがない。

僕がパーティーを追い出された酒場は当然、冒険者の領域にある店。

「えぇ、こちらです」

さりげなく手を繋ぐ形になる。

まずい……手汗大丈夫だろうか。気持ち悪いとか思われたらショックだ。

っていうか目にも留まらぬ速さで手を掴まれた気がしたけどまぁ錯覚だろう。

絶対に逃さないとばかりに強く掴まれている気もするが勘違いだ。

「あれ、今通ったのが最後の店じゃ……。ミラさん、このままだと魔王城に入ってしまいますよ」

「そうですね」

「……」

やがて魔王城裏口に到着する。

なんだか厳重な警備を越えた気がするし、ミラさんが職員であることを証明する登録証を持っていたようにも見えた。

通り過ぎる魔物達が全員立ち止まって姿勢を正し、中には震えたり視線を床に向けて決してミラさんに向けない者達もいたが、きっと冗談か何かだ。

僕らは職員専用だろう転送機能の備わった記録石に触れ、次の瞬間小さな部屋にいた。

部屋というか、試着室みたいな狭い空間だ。

それこそ試着室のように、カーテンで外と仕切られている。

二人だと少々手狭だ。

「隠れ家的なカフェって可能性は残っていないかな、ミラさん」

すっと僕から手を離したミラさんが、これまでとは段違いに妖艶な笑みを浮かべた。

「ふふふ、本当に面白い人。最初から気付いていてついてきたんですよね」

魔物は冒険者と職務上敵対している。

吸血鬼のお姉さんが仕事を紹介してくれるといったら、それはパーティーの斡旋とかではない。

「まぁ、どうせ無職だしいいかなって」

「もったいないことです。貴方のような【黒魔導士】には相応の立場が用意されるべきでしょう」

「四天王待遇とか?」

「参謀とかでどうでしょう」

実質的な魔王の副官だ。

「……人間にやらせちゃダメなやつだよそれ」

僕、これでも魔王城攻略する側の人間なんですけど。

「まぁまぁ、それは魔王様も交えてお茶をしながらとしましょう」

ミラさんは魔王ではない。

他の職員には魔王レベルで恐れられていたが、確かフロアボスだ。

僕らが前々回攻略した階層の主。

魔物は悪役っぽい衣装を着たり顔を隠したりするのですぐには気づけなかった。

「あぁ、それと――」

カーテンを開ける前、ミラさんが僕の耳に唇を寄せた。

「あなたへの評価と感情に嘘はありません。騙すような形で連れてきてしまってごめんなさい。どうか嫌いにならないでくださいね」

ふぅう、と鼓膜にミラさんの吐息。

背筋に甘い痺れが走る。

唇が離れる。

目が合うと、ミラさんはくすぐるように笑った。

「行きましょう、魔王様がお待ちです」

魔王軍の就職面接ってどんな感じなんだろう。

僕今日私服なんだけど大丈夫かな。